日立製作所がグループの再編を加速させている。

 日立製作所が発行済み株式の51%を保有する日立化成、50%強を保有する日立建機など、上場会社を売却する検討に入ったと報じられた。

保有株を、すべて手放すとみられている。

 時価総額は日立化成が5000億円強、日立建機は6000億円強。株式の売却額はプレミアムがついて、日立化成が3000億円程度、日立建機は4000億円程度の可能性がある。

 日立製作所は3月11日、この報道に対し「現時点では決定した事実はない」とお決まりのコメントを発表した。

 日立製作所はIT、エネルギーや社会インフラに経営資源を集中。「選択と集中」の一環として、17年に電動工具の日立工機、18年に半導体製造装置製造の日立国際電気を売った。
19年に入っても車載機器のクラリオンをフランス自動車部品大手、フォルシアに譲渡することを決めた。

 日立製作所の19年3月期の連結純利益(国際会計基準)は1800億円で、前期比50%減となる。英原発事業の凍結に伴い、3000億円の損失が発生したことによる。車載用リチウムイオン電池会社や英鉄道車両リース会社の株式売却益を計上するが、とても穴埋めできなかった。

 売上高にあたる収益は横這いの9兆4000億円、本業の儲けを示す営業利益は5%増の7500億円の見込み。営業利益は2年連続で最高益となり、中期経営計画の“公約”である売上高営業利益率8%を確保する。


 事業別では、情報・通信などが好調。上場子会社では、日立化成はスマートフォン向けの電子材料、日立金属は自動車向け材料が苦戦した。

 日立製作所が目指す「22年3月期に営業利益率10%以上」の達成には、一段の構造改革が必要となる。

●親子上場の解消を目指す

 日立製作所の喫緊の課題は「親子上場の解消」である。親子上場は、欧米の企業には見られない日本独得のビジネス慣行だ。そのため、海外の投資家の評価は低くなる。


 日立製作所は上場子会社を多数持っていることで知られるが、親子上場批判を受け、完全子会社化や売却によって親子上場の解消を進めてきた。かつて13社あった上場子会社は日立建機、日立ハイテクノロジーズ、日立化成、日立金属の4社となった。

 次の親子上場の解消候補として化学メーカー、日立化成の売却報道が駆け巡った。日立化成は、かつて「日立御三家」のひとつに位置付けられていたグループの中核企業だ。半導体や2次電池向けの材料などを手掛けている。

 18年に品質不正が明らかになった日立化成は19年3月期の連結決算(国際会計基準)の業績見通しを引き下げた。
売上収益は従来予想の7100億円から6900億円に、純利益は同460億円から325億円に、それぞれ下方修正した。

 18年6月に発覚した三重県・名張事業所での産業用鉛蓄電池の検査不正を受け、政府系入札への参加を4カ月控えたことや、北米向けの自動車部品用の粉末冶金製品の出荷が滞ったことが影響した。粉末冶金製品のなかには、1970年代から不正を続けてきたものもある。

 国内の7つの事業所すべてで検査不正が発覚した。21年までに最大100億円を投じて、自動検査機を導入する。これまで検査表に数値を手書きで書き込むことが多く、データ捏造の温床となっていた。


 日立製作所は、不祥事まみれの日立化成に見切りをつけたようだ。では、どこが日立化成に触手を伸ばすのか。

「米ゼロックスの買収が暗礁に乗り上げている富士フイルムホールディングスが動くのではないか。富士フイルムも日立化成も医薬品の受託製造に力を入れており、相乗効果が見込める。総合化学メーカーは2000億円台後半に売り値が下がれば手を挙げる。しかし、そこまで下がらないだろう」(M&A業界に詳しいアナリスト)

 パナソニックがM&A戦線に加わり、もし日立製作所の名門子会社を買収すれば大きなニュースとなる。


 次に売却候補として取り沙汰されたのは日立建機だ。グループ企業のなかでは稼ぎ頭となっている。

 北米やアジアなど多くの地域で建設機械の需要が堅調で19年3月期の連結決算(国際会計基準)予想を引き上げた。売上収益は従来予想の9800億円から1兆円に、純利益は同510億円を580億円に、それぞれ上方修正した。

 08年度に「売上高1兆円超え」を目標に掲げたが、リーマン・ショックの影響でかなわなかった。今期、悲願の売上高1兆円の大台達成に王手をかけたことになる。だが、1兆円の達成は、景気が失速する中国市場の先行き次第との見方も広がる。

 日立建機が売りに出されれば、高値を呼ぶとの観測がM&A業界で流れている。買い手の候補としては、建設機械を手掛けている神戸製鋼所を挙げる向きもあるが、本線は中国勢とみられている。日立建機が中国資本の傘下に入れば、日本メーカーにとっては大きな脅威になる可能性が高い。

●日立金属の売却に踏み切るか

 親子上場解消の最大の目玉は、日立金属の売却に踏み込むかどうかだ。日立金属は日立化成、日立電線とともに「日立御三家」と呼ばれた。日立電線は13年に日立金属に吸収合併された。日立化成が売却されれば、「御三家」で残るのは日立金属だけとなる。

 日立金属は日立製作所や日産自動車などの発祥企業である。創業者の鮎川義介氏が1910年、福岡県遠賀郡戸畑町(現・北九州市戸畑区)に戸畑鋳物を創設したことに始まる。戸畑鋳物が現在の日立金属。鮎川氏は戸畑鋳物を母体に日立製作所や日産自動車を擁する日産コンツェルンを築いた。

 同じ上場子会社とはいえ、日立金属の売却は、日立化成や日立建機を売るのとは重みがまったく違う。日立グループの源流である日立金属を売却することができるのか。日立製作所の決断が注目される所以だ。
(文=編集部)