スタート前から、2012年に放送された竹内結子版と比べられて不安視されていた『ストロベリーナイト・サーガ』(フジテレビ系)。原作者の誉田哲也は、制作サイドに「前作を超えなければいけないんですよ」と伝えたようだが、今のところ、その期待にはこたえられていない。



 何しろ竹内結子版の連ドラはわずか7年前で、映画も翌2013年に公開されたばかり。キャストを替えてリメイクするには早すぎる上に、しかもヒットした作品なのだから、「比べるな」というのが無理な話だろう。

 フジテレビの渡辺恒也(編成企画)は、「2019年の今でしかできない、全く新しい『ストロベリーナイト』をお届けしたい」とコメントしているし、その方針に問題はない。しかし、最大の疑問は、「竹内結子版のイメージがいまだ鮮明に残る中、なぜこれほど若返らせてしまったのか?」ということだ。

●前作から7~11歳若返った主要キャスト

 連ドラ放送時、ヒロインの姫川玲子を演じる竹内結子は31歳、二階堂ふみは24歳。相手役の菊田和男を演じる西島秀俊は40歳、亀梨和也は33歳。天敵の“ガンテツ”こと勝俣健作を演じる武田鉄矢は62歳、江口洋介は51歳。姫川に同行することの多い関西弁の刑事・井岡博満を演じる生瀬勝久は51歳、今野浩喜は40歳。前作から今作にかけて主要キャストが7~11歳も若返っているのだが、制作サイドはこの意図を明らかにしていない。

 演じる俳優が若ければ、登場人物のやり取りも、物語そのものも、おのずと軽い印象になってしまう。二階堂が『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の「ゴチになります!」に出演していたこと、亀梨がジャニーズのアイドルであることなども含め、同作の魅力である“重々しさ”をそぐかたちになってしまっているのだ。「サーガ(英雄伝)」というフレーズも含めて、若さや軽さとのギャップは大きい。


 制作サイドは「もう一度姫川や菊田たちの物語をイチからたどっていきたいという思いから、キャスト・スタッフを一新した全く新しいシリーズとして再出発することを決意しました」とコメントしているが、現状は「ストーリーは『ストロベリーナイト』なのに、キャラクターは別人」という違和感に戸惑っている視聴者が多い。

 当然というべきか、累計400万部を誇る原作小説のおもしろさに疑いの余地はなく、今作でも重厚かつスピーディーな事件捜査と、警察内部のリアルな描写は健在。それだけに、前作を見た人は「このキャスティングに慣れるまで、あと何話かかるのか? それとも最後まで慣れないのか?」というジレンマが続くのではないか。

●「竹内結子の使い方」を間違えたのか

 それにしても最近の視聴者は厳しい。そんなジレンマを隠すことなく、攻撃性を加えて繰り返し発信している。中でも、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やクチコミサイトなどで矢面に立たされているのは亀梨。

「姫川玲子シリーズなのになんで菊田とのダブル主演にする必要があるの?」「ストーリーはそのままで、映像も前とあまり変わってないのに、主題歌だけジャニーズへの忖度」「刑事を演じるならせめて髪は切ってほしい」「西島秀俊のような姫川を包み込む優しさを感じない」「亀梨は視聴率担当で、これは脇役を見るためのドラマでしょ」「あまりに違和感があるから前作が見たくなってTSUTAYAへ行った。私だけじゃないと思う」

 どれも辛辣だが正論に近く、制作サイドの思惑が視聴者に見透かされているようだ。さらに、厳しい声は臆測にもつながっていく。

「刑事モノで、話がよくできていて、売れている小説をリメイクしただけだろう」「視聴率が取れない枠だから、制作費を削られているのが見え見え」「竹内結子と西島秀俊をキャスティングできなかったんでしょ?」「この枠は前期の『QUEEN』も『ストロベリーナイト・サーガ』も共倒れ。竹内結子の使い方を間違えた」

 ここまで好き放題に書かれてしまうと、これらがすべて本当のことに感じる人も多いのではないか。このところ各局で『砂の器』『白い巨塔』『大奥』などの歴史的な名作がリメイクされているが、いずれも単発ドラマであり、ここまでは叩かれていない。
やはり連ドラは回を追うごとに批判が増えるなど、「視聴率を取るために安全策を取ると叩かれやすい」という傾向が増している。

●「最新エピソード」という目玉が控えている

 原作が完成された物語だけに大幅な脚色は難しそうだが、それでも勇気を持ってなんらかの変化を加えなければ、前作を超える成功はあり得ないのではないか。その意味では、編成やプロデューサーの覚悟と努力が問われていたのかもしれない。

 脚本だけでなく演出も、前作で佐藤祐市に次ぐサブを務めていた石川淳一が今作ではチーフを務めているが、多少コミカルなシーンが入ったくらいで大きな変化は感じない。石川はドラマ『リーガル・ハイ』『海月姫』、映画『エイプリルフールズ』『ミックス。』などでチーフ演出を務めたコメディ巧者だけに、キャスト同様のもったいなさを感じてしまう。

 このままでは、2作目のAKIRA版がまるでなかったことのようにされている『GTO』のようになりかねないが、当作には、青い仮面の猟奇的殺人鬼を追う『ブルーマーダー』など、「前作で描かれなかった最新エピソード」という目玉が控えている。もちろん物語のおもしろさに不安はないだけに、違和感があっても継続視聴する価値はあるはずだ。

 ほかの刑事ドラマが判で押したように「1話完結でスカッと解決」ばかりになる中、「事件の複雑なうねりを前後編で時間をかけてじっくり描く」「凄惨な描写や後味の悪い結末をしっかり見せる」という志の高さは失われていない。プロデュースの面で後手を踏んでいるが、少なくともテレビ朝日系の刑事ドラマに飽き飽きとしている人は十分楽しめる作品だろう。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)

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