4月中旬の未明、東京・新宿の繁華街で読売ジャイアンツ(巨人)の澤村拓一が酒に酔い、一般人に暴行を働くという事件が明らかになった。澤村はこれまでも、2014年に六本木で暴力事件を起こすなど、たびたび素行不良が取り沙汰されてきた。



「球団内には『またか』という意見と平行して、澤村に対して『同情の余地がある』という声も実は結構あるんです。というのも、今年に入ってからの澤村の不遇ぶりは見ていて痛々しいものがあり、ストレスから自暴自棄気味に、ああいう行動を取るのも理解できる部分もある。3度目の原体制となった今年のキャンプ中から、澤村と監督やコーチ陣の溝は感じていた。球団としては一刻も早く澤村を“リリース”したかったのに、このタイミングで何をしてくれているのか、というのが正直なところでしょう」(球団関係者)

 球団内でも取り扱いが難しい“トラブルメーカー”として知られていたが、現在戦力になっているとはいいがたい状況のなか、今回の不祥事の発覚により一層窮地に立たされることになる。だが、前出の球団関係者が言うように、今回の暴行事件に関しては澤村に同情する声もあるのだ。

「普段は“気のいい兄ちゃん”という感じの兄貴肌。
特に後輩への面倒見はいいですね。ここ数年は素行も良くなり、酒に飲まれるような無茶苦茶な飲み方もしていなかったので、澤村も落ち着いてきたな、という印象を持っていました。それが変化したのは、今年に入り原辰徳監督が再就任してから。というのも、もともと澤村は昔から原監督との折り合いが良くなかったんです。コントロールが悪く、四球癖がある澤村に後ろは任せられない、というのが原監督の考えですし、澤村の主張が強い性格も原監督からすれば扱いにくかったようです。シーズン前、原監督からの『今年は先発でいってほしい』という打診を澤村が固辞し、関係は修復不可能なまでに決定的なものになりました。
強制的に先発転向を命じられ2軍暮らしの澤村は、そこから少しずつストレスが溜まっていったのか、だんだん覇気がなくなっていきました」(同)

●澤村先発転向の裏側

 投手として澤村に転機が訪れたのは、4月6日の横浜DeNAベイスターズ戦だった。シーズン開幕前から“トレード要員”と位置づけられ、1軍の戦力としては、ほぼ評価されていなかった。キャンプ中も含め、シーズン開幕前も澤村に期待する声はほとんど聞こえてこなかった。そんななかで、実に5年ぶりの先発の機会は突如として訪れた。これには澤村本人も含め、関係者も驚きを隠せなかったという。

「原監督の性格を一言で表すなら“合理主義者”で、選手には冷酷。
実は打診していたトレード先から、『どれくらい先発として投げられるかを見てみたい』という声があったと聞いています。それで突然の先発。真偽は定かでないですが、先発を告げられたのは2日前という話しもあるくらい、急な決定でした。本人も、『準備期間が少なくすぎる』と嘆いていました。当然ながら結果は伴うはずはありません。原監督としては、あの試合を澤村の『見本市』と位置づけていたんでしょう。
仮にK.O.されても、右の速球派のリリーフが足りないチーム事情もあり、心機一転してシーズン途中で使えたら儲けものという程度の感覚もあったと思います。いずれにしても、澤村が大事に扱われていなかったのは間違いありません。それだけ多くの計算と思惑のもと、先発起用があったんです」(同)

 巨人は、今季も大型補強を行い、5年ぶりの優勝が至上命題。巨額の費用で丸佳浩、炭谷銀仁朗、クリスチャン・ビヤヌエバら9人もの補強を実行した裏には、親会社から首脳陣への相当なプレッシャーもあるという。それだけに、球場外の不祥事に関しては細心の注意を払っていたにもかかわらず、事件が明るみに出てしまった。巨人軍番記者が話す。


「事件から数日で、関係者周りには事件の話が広まりました。ただ、球団側が新聞、テレビなどの報道にストップをかけたことで、発表まではタイムラグが生まれました。そもそも、2015年以降、野球賭博や不適切動画投稿、野球道具窃盗、不倫などスキャンダルが多すぎて、巨人軍のブランドが失墜しました。それに対して親会社は相当な憤りをもって、管理不足として高橋由伸前監督は更迭されたという側面もあります。高橋前監督は選手との距離が近すぎて、選手がなかなか言うことを聞かなかったこともありますが。

 球団としては、今後も若手に監督を託したいところでしたが、その前にチームを引き締める意味で、“恐怖政治”が可能な原監督に再就任させたという流れです。
澤村の事件は、原体制になって初めての不祥事で、球団としてはなんとしても隠し通したかったというのが正直なところではないでしょうか」

 野球賭博にかかわったとして出場停止処分を受けた高木京介が1軍に戻って活躍し始め、倫理的に懐疑的な意見も聞かれるなか、球団としてはこれ以上の火種を抱えたくないというのが率直な考えだろう。それだけ緊迫した管理体制のなか、トラブルメーカー・澤村に同情する声があるのは、ある意味では巨人という球団の本質を表している可能性もある。別の球団関係者が続ける。

「原監督になり、“チームの顔”だった生え抜き選手たちが続々と切られました。埼玉西武ライオンズに内海哲也、広島東洋カープに長野久義が移籍。本来であれば将来、チームのフロントに入るべき重要な人材が流出したことで、選手たちには『自分たちもいつかは切られるのか』と不安が広がりました。ドラ1入団で早くから頭角を現した澤村も流出すれば、生え抜きの指導者候補は、菅野智之、阿部慎之助、坂本勇人、上原浩治くらいしかいなくなります。これだけ生え抜きの功労者に冷たい球団はウチくらいでしょう」

 原体制初めてのスキャンダルが、首位を走る巨人に与える影響は思いのほか大きいかもしれない。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)