北海道が活気づいている。ゴールデンウィークさなかの新千歳空港

多くの観光客らが行き交うターミナルビルの一角に「ラグビーワールドカップ2019日本大会札幌開催」を知らせる大きなポスターが貼られ、吹き抜けフロアには「一生に一度が札幌に!」のキャッチコピーと「オーストラリアvs.フィジー」「イングランドvs.トンガ」の試合日程が紹介されていた。国際的な大スポーツイベントに期待感が高まっているようだ。

 5月4日には実業家の堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の小型ロケットが十勝(とかち)の大樹町(たいきちょう)から打ち上げられた。民間単独のロケットとして国内で初めて宇宙空間に到達し、地元は沸き立った。3日後の7日には十勝総合振興局の商工労働観光課に「宇宙関連産業推進室」の看板が掲げられた。ロケットビジネスを十勝に根付かせたいとして、宇宙関連産業への参入希望企業をISTや自治体につなぐコーディネート役を担うという。

 10月下旬には、国際リゾート地として脚光を浴びているニセコエリアの倶知安(くっちゃん)町でG20観光大臣会合が開催される。2020年4月には白老(しらおい)町にアイヌ民族の文化を複合的に伝える民族共生象徴空間がオープンする予定。さらに2023年3月にはプロ野球・日本ハムの新球場「北海道ボールパーク」(仮称)が開業する。

「北海道インバウンド加速化プロジェクト」で、20年度までに海外からの観光客500万人を目標に掲げ、オール北海道で取り組むと意気込んでいる。

●災害でズタズタの鉄路は手つかずのまま

 明るいニュースの一方で、厳しい現実がある。その象徴が日高(ひだか)本線だ。
15年1月に厚賀(あつが)-大狩部(おおかりべ)間で発生した高波による土砂流出の影響で、丸4年以上たった今なお鵡川(むかわ)-様似(さまに)間は運休が続き、復旧のめどが立っていない。JR北海道はいち早く「単独で維持困難」な線区のひとつに指定。全線バス転換を提案している。地元では昨年、「沿線7町の町長会議が全線復旧を断念で合意」と報じられた。

 筆者は現場を2年ぶりに訪れてみた。日高本線は現在、苫小牧(とまこまい)-鵡川間のみが運転中。鵡川駅発の列車は6時台から21時台まで1日に9本(すべて苫小牧行き)。朝8時25分過ぎに苫小牧からの列車が到着した。GWということでカメラ片手の観光客の姿もチラホラあり、降り立ったのは30人ほど。そのうちの20人近くが8時38分発の静内(しずない)行き列車代行バスに乗り換えた。

 バスは災害の爪痕が残る現場に向かった。鵡川から5駅目の清畠(きよはた)駅近くにある慶能舞(けのまい)橋梁。
ここは16年8月の台風で橋梁が流出した。白波が押し寄せる砂地に土台だけが取り残され、橋げた部分は逆さまの状態で放置されている。橋げたには08年7月塗装と記されている。風が吹きすさび、荒涼感が漂う。

 清畠駅から2駅先の大狩部駅。波打ち際にコンクリート製のシェルターのような待合室があるひなびた無人駅だ。ホームから投げ釣りができそうなほど海が近い。待合室の中には代行バスの時刻表や運賃表が貼られ、ブロックに打ち付けられた板には「私は○○君が好きです。いけないことでしょうか?本当に好きなんだから!」との告白文が残されている。こんな無人駅にも青春のドラマがあったのだ。

 海沿いの線路は土砂が流出して大きく歪み、宙ぶらりんになった2年前のまま。あまりにも痛々しい。
この線路に列車が再び走ることは、恐らく、もうないだろう。

 被災した鉄路は放置されたままだが、高規格幹線道路の日高道は18年4月、日高門別(ひだかもんべつ)IC-日高厚賀(ひだかあつが)IC間が新たに開業。国が所管する道路整備だけは着々と進んでいるのだ。

●札幌市内では新たな液状化被害

 18年9月に発生した最大震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震では、災害関連死を含めて42人が亡くなった。厚真(あつま)町、安平(あびら)町、むかわ町では、多くの人たちが仮設住宅での生活を余儀なくされている。連休中に整体マッサージのボランティアに参加した東京の30代男性は「仮設住宅暮らしの高齢者が喜んでくれた」と話す。胆振地方中東部では今年2月に最大震度6弱、5月4日にも最大震度2の地震が発生している。

 胆振東部地震の際、札幌市内では液状化の被害が出た。地震から8カ月たった今も、市内では液状化による被害が新たに見つかるケースが相次いでいる。市内で液状化被害が集中的に発生したのは6カ所で、このうち最大規模の被害が起きた清田区里塚では市が宅地の地盤改良工事に着手する予定だというが、そのほかは手つかず。住民らは宅地の復旧などを市や造成業者に求めているという。

 北海道では国際的なスポーツイベントや国際会議、博物館建設など華やかなムードが演出されているが、生活不安、生活の不便さが解消されていない実態も厳然としてある。
若者流出による高齢化、過疎化も至るところで見られる。駅前や国道沿いの閉鎖されたままの店舗、崩れ落ちそうなサイロ。公共インフラの老朽化が進み財政難に悩む自治体も少なくない。Wi-Fiが通じないなど、情報インフラの整備が遅れている地域も散見される。その一方で外国資本による土地・建物の買収や転売が続く。

 4月の知事選で全国最年少(38歳)の新知事が誕生したばかりだが、インバウンド誘致だけでは問題解決にほど遠い。新知事の手腕が問われる。
(文=山田稔/ジャーナリスト)

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