「結婚をするメリットは何か」という議論が、ここ数年で盛んに交わされるようになった。結婚が当たり前のものとして存在したのも今は昔。

30代の4割が未婚の時代である今、「メリットが感じられなければ、結婚したくない」という男女も多い。

 では、実際にどういうメリットを結婚に対して感じているか。

 それを大規模に調査しているのが、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」である。

●即物的になった結婚のメリット

 直近になる2015年の調査によると、男女ともに「自分の子どもや家族をもてる」ことが結婚をするメリットの筆頭に挙がっている。ようは「子どもがほしいから結婚しよう」という流れだ。

 これだけを見れば健全といえるかもしれないが、気になるのは1997年と比較して上がった項目だ。女性は「経済的に余裕がもてる」ことをメリットとして挙げた割合が約9%上昇し、男性も僅差ながら上昇。そして男女ともに「精神的な安らぎの場が得られる」「現在愛情を感じている人と暮らせる」が5%以上もダウン。

 つまりここ最近、結婚のメリットは「金と子ども」という即物的なものに偏っているのだ。そして金も子どもも、結婚せずとも手に入るものでもある。逆に精神的な安らぎの場や、愛する人と暮らす喜びといった長期的なメリットは蔑ろにされつつある。

●結婚相手に求める条件は「容姿」?

 さらに同調査で「結婚相手に求めるもの」を男女別に調査したところ、女性は経済力や家事・育児への参与、男性は容姿が上昇している。
まとめると「金、労働力、外見」という身も蓋もない条件が課されているのだ。

 これでは年収の低い男性や、容姿に自信が持てない女性が婚活で苦戦するのもさもありなん、という様相である。また、収入や労働力、外見はいずれも加齢とともに失われる可能性がある。まるで中途採用の即戦力を求めるような結婚の条件では、20年後、30年後まで継続する理由がなくなってしまう。

●経済力や容姿は「耐える要素」にしかならない

 そして、実際に結婚したあと「経済力や容姿さえあれば、居心地の悪い相手との暮らしが円満になるか」といえば、もちろんそうではない。

 たとえば伴侶からモラハラやDV(家庭内暴力)をふるわれたとき、「でも彼はお金持ちだから」「でも彼女ほどの美人ともう巡り合えないだろうから」などと、経済力や容姿が耐える要因になることは、あり得るだろう。しかし、それはあくまで「麻酔を打って耐え忍ぶ」行為に近く、幸せを感じる結婚からは遠ざかる。

 主婦の友社の調査によると、モラハラやDVを感じている妻は全体の9%。結婚してから「こんなはずじゃなかった」と思わされる相手とぶつかるのは、決してレアではない。そんなとき「夫はそれでもお金があるから」と耐え忍ぶ暮らしは、独身と比べてどちらが楽だろうか?

●既婚率を増やしたいなら、メリットを見せるしかない

 これらの現実を、調査対象となった18~34歳の男女はよく知っているのだろう。だからこそ「金でも容姿でもない、だったら結婚する理由はない」と高い未婚率が維持されたと思われる。

 少子化対策をしたいなら、シングルペアレントに優しくないこの国では既婚率を上げるしかない。
そう焦って予算を割くのは簡単だが、単なる投資以上に我々は「なぜ結婚したほうが良いのか」を長期的な目線から、知らせなければなるまい。

 しかも結婚の長期的なメリットを説明するにあたり「なんだかんだ幸せよ」「結婚してみればわかるって」といった、あいまいな表現では若者を説得できない。精神的な充足が得られるとして、それはなぜか。結婚相手がモラハラやDVをするリスクを超えるほどのメリットがあるのか。

「しょせん、ダラダラと惰性で結婚したんじゃないの?」
「世間体があったから、仕方なく結婚したんでしょ?」

 そう問いかける若者の目は、シビアで現実的だ。明確な答えを出さねば合理的な若者は「未婚」を第1選択に置き続けるだろう。そして今の大人世代は、それに対する明確な答えを出せていないように思われる。
(文=トイアンナ/ライター)

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