老人ホーム、倒産激増…介護報酬の不正請求が原因も、“終の棲家”問題が深刻化

 超高齢社会の裏側で、「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」などを含む「老人福祉・介護事業」の倒産が相次いでいる。東京商工リサーチの調査【※1】によると、2018年は106件で、17年(111件)、16年(108件)と並び高水準で推移した。

 特に「有料老人ホーム」は前年比2.3倍と急増している。この要因としては、先行投資に見合う入所者が集められないなど、当初の経営計画が甘い事業者が多くなっていることが挙げられる。また「有料老人ホーム」は、介護サービスを提供する「介護付き有料老人ホーム」と、介護サービスは提供していないが、食事の提供、家事(洗濯、掃除など)、健康管理のいずれかひとつ以上を提供しているタイプに大きく分かれるが、18年は「住宅型有料老人ホーム」の倒産が目立ったのが特徴だ。

「老人福祉・介護事業」の実情について、東京商工リサーチ情報本部経済研究室の関雅史課長に話を聞いた。

●介護報酬改定が業界動向に影響

――調査の概要を教えてください。

関雅史氏(以下、関) 18年の「老人福祉・介護事業」の倒産は106件(前年比4.5%減)です。介護保険法が施行された00年度以降では7年ぶりに前年を下回りましたが、倒産件数は過去3番目に多く、高止まりの状況が続いています。

 業種別では、「訪問介護事業」の45件(前年45件)が最多で、全体の42.4%を占めています。次いで、デイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」が41件(同44件)、「有料老人ホーム」が14件(同6件)、サ高住などを含む「その他の老人福祉・介護事業」が3件(同9件)となっています。

 特に、終の棲家となる「有料老人ホーム」は前年比2.3倍と急増しており、先行投資に見合う数の入所者が集められないなど、計画性に問題がある事業者を中心に淘汰が進んでいる状況です。

 また、倒産状況を四半期別に見ると、1~3月は前年同期比28.5%増の18件、4月~6月が同3.8%増の27件と、前半は過去最多ペースで増えていましたが、後半に入ると状況が一変し、7~9月が同6.4%減の29件、10~12月が同20%減の32件となっています。

――年後半に倒産が減少した理由はなんでしょうか。

関 明言はできませんが、介護報酬改定が影響したのではないかと見ています。9年ぶりのマイナス改定となった15年度改定(2.27%引き下げ)以降に倒産増加に拍車がかかり、18年度改定(0.54%引き上げ)以降は7年ぶりの倒産減少につながりました。「老人福祉・介護事業」は介護報酬という公的な資金に影響されやすいため、同報酬の改定は大きなポイントになります。

――ほかに、特徴や傾向などはありますか。

関 従業員5人未満が66件で全体の62.2%、設立5年以内が34件で全体の32.0%を占めており、小規模で設立から日が浅い事業者が倒産件数を押し上げています。高齢者の増加に伴い、「老人福祉・介護事業」に参入する企業が急増し、当初のブルーオーシャンからレッドオーシャンに変わったと言っても過言ではありません。

 18年は「住宅型有料老人ホーム」の倒産が目立っており、設備が整った高級タイプから、低料金を売り物に必要最低限のサービスに抑えているタイプまで、施設によって運営状況が千差万別になっていて、利用者の評判や口コミなどでも業績が動きやすく、同業他社との競合が激しい。そのため、軌道に乗せるには高い経営能力が求められるのが実情です。

●介護報酬の不正請求が引き金で倒産も

――具体的な倒産事例を教えてください。

関 岐阜県の環境福祉基構が18年1月19日に岐阜地裁から破産開始決定を受けました。負債総額は約4億5000万円です。介護付き有料老人ホーム「木香の郷」、介護福祉施設「あんじゅの杜」を運営し、11年9月期には売上高2億4000万円を計上していましたが、13年9月に介護報酬の不正請求が発覚。当時の経営陣が看護師が勤務しているように装い、約465万円をだまし取った容疑で逮捕されたことで社会的信用が低下して、破産に至りました。

 また、東京のあそかライフサービスは18年3月28日に東京地裁から破産開始決定を受けました。負債総額は約3億5850万円です。同社と関係性の深い社会福祉法人の公金横領が発覚し、同社も不正に関与していたことから信用が低下、従業員の退職が相次いだことから事業継続が困難になりました。

 また、今年の1月ですが、未来設計の倒産は大きな注目を集めました。同社は首都圏を中心に37カ所の有料老人ホームを経営していましたが、東京地裁に民事再生法の適用を申請。負債総額は53億8600万円で、有料老人ホーム経営会社としては過去二番目に大きな規模です。

 同社は、認知症、終末期ケアの有料老人ホーム「未来倶楽部」「未来邸」を運営し、創業から年間2施設のペースで開設するなど積極的な展開を見せていました。設備が充実した大規模施設も多く、売上高は右肩上がりで推移し、福祉・介護業界の中では成長企業として存在感を示していました。しかし、旧経営陣らが入居者からの預り金を売り上げに計上し、運転資金や創業者への高額な報酬に流用したことが明らかになり、資金繰りの悪化が露呈したのです。

 未来設計の事例はやや特殊ですが、環境福祉基構とあそかライフサービスの件は不正が引き金となり、後者は最終的に人手不足倒産に陥っています。

――今後の業界動向をどう見ますか。

関 政府は10月の消費税率引き上げに伴う施設・事業所の出費を補填するため、同月に介護報酬を改定し、0.39%引き上げる予定です。また、人手不足に対応するための改正出入国管理法では、介護も外国人の新たな在留資格の対象になりました。

 これらはプラスになり得る要素ですが、今後も人手不足による人件費上昇は避けられず、それが経営の足かせになる可能性が高いでしょう。福祉・介護業界は景気が悪いときは人手が集まりますが、好況になると人手が他業種に流出しやすいという、景気の動きと逆行する傾向があります。

 いずれにせよ、同業他社との競合が激しく経営手腕が試されます。介護職員が不足するなかで相応のサービスを提供できない業者は、淘汰される可能性が高くなっています。今後も同業界の倒産件数は高水準で推移すると見られ、その動向から目が離せない状況が続くでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)

【※1】
本調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

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