4月、改正地方税法が成立した。同法の成立を受け、かねてから“官製通販”のそしりを受けていたふるさと納税制度が大幅に見直される。

地方自治体の職員たちの「ふるさと納税はオワコン」という声があちこちから聞こえてくる。

 ふるさと納税の運用をめぐっては、総務省と自治体間でバトルがたびたび勃発したが、それでも運用は各自治体の裁量に委ねられてきた。ここにきて総務省は方針を大転換。何があったのか。ある総務省職員はいう。

「ふるさと納税は地方から都会へと人口流出が続き、そのために地方が衰退して税収がどんどん減っていたという背景から創設されました。いうならば、自分を育ててくれた出身地へのご恩返しです」

 ふるさと納税が導入された2008年度は認知度も低かったため、その納税総額は低く、制度開始から数年間は鳴かず飛ばずの状態が続く。これが、総務省が描くふるさと納税の理想的な時代だった。

 それが世間から注目されるようになった大きなターニングポイントは、15年度から適用されたワンストップ化だ。それまで複数の自治体にふるさと納税をすると、税控除を受けるための手間が煩雑になり、制度の難解さで意欲をそがれる人が多かった。ワンストップ化によって手続きは簡略化し、ふるさと納税者は急増。一気に増加した。


 ワンストップ化は、ふるさと納税者を増やそうとする試みだが、自治体側にも変化をもたらした。それまでにも、ふるさと納税をしてくれた人に豪華な返礼品を用意している自治体はあったが、それほど多くなく、PRをしていなかったこともあって目立つ存在ではなかった。ところが、ワンストップ化を機に、少しでも税収を増やそうと豪華な返礼品を用意する自治体が目立つようになる。

●自治体の徒労感

 さらに、返礼品競争に拍車をかけたのが、「ふるさとチョイス」「ふるなび」「さとふる」などのポータルサイトだった。これらのサイトでは、各自治体が用意する返礼品を一覧で見ることができる。地方自治体関係者から「ふるさと納税は、官製通販になっている」と怒りの声が出る最大の原因は、ポータルサイトが競争を煽っている点にある。

 これを利用してふるさと納税を“荒稼ぎ”する自治体も次々と登場。そして、総務省を激怒させたのが、Amazonギフト券を返礼品にして“100億円還元”を打ち出した大阪府の泉佐野市だ。同市には、返礼品になるような目ぼしい地場産品がない。そのため、ほかの自治体と同じように農産品や海産物で勝負を挑むことは難しい。ジリ貧になることは見えていた。そのために、Amazonギフト券という禁じ手を繰り出す。


 Amazonギフト券のような返礼品を用意した自治体は、以前にもあった。たとえば15年には石川県加賀市が地元企業であるDMM.comとタッグを組み、ふるさと納税の返礼品としてDMMマネーを贈ることを発表した。これは換金性が高い返礼品だったことから、総務省から注意を受け、加賀市はすぐに別の返礼品に変更した。

 その後もめぼしい地場産品がない自治体は高級家電や海外からの輸入品を返礼品として用意しているが、こうした自治体の多くは、都市圏のベッドタウンに多く見られる。ベッドタウンでは特に主だった産業があるわけではなく、また町の歴史が浅いために農産品や工業製品がブランド化していない。地場産品で勝負しても勝ち目がないのだ。

 また、ブランド化している牛肉や海産物を返礼品に揃えても、あまり効果がないとこぼす自治体職員もいる。ある地方都市で、ふるさと納税を担当する自治体職員は言う。

「ふるさと納税で地場産品を贈る理由は、そのおいしさを知ってもらい、リピーター客になってもらうことです。リピーター客が繰り返し買ってくれるようになれば、過疎化した町でも産業振興の起爆剤になり、経済的にも活性化します。これが、ふるさと納税の基本戦略であり、理念です。しかし、どんなに味がいい肉や魚を返礼品に贈っても、『じゃあ、今度は金を出して買おう』と言ってくれるリピーターは一握りしかいません。
多くの人たちは、ふるさと納税を応援したい町に寄付する制度としてとらえているのではなく、あくまでもお得なショッピング。もっといってしまえば、財テク感覚なのです。だから、もっとお得な返礼品があれば、そちらに納税してしまう。地場産品を用意しても、町をPRする効果はありません」

 こうした状況では、現場の職員がいくら知恵を絞っても、徒労感しか残らない。「返礼品として地場産品を贈って、わが町を知ってもらおうと考えていたが、馬鹿らしくなる」と口にする職員も少なくない。そのため、泉佐野市に同情的な声もあがる。

「地場産品でふるさと納税を集めるのは大変な作業です。それなのに、地元住民からは『わが町は、ふるさと納税を集められてないじゃないか』『もっと豪華な返礼品を用意しろ』というお叱りが寄せられるのです。大きな声では言えませんが、泉佐野市のようにAmazonギフト券を用意するほうが効率的にふるさと納税を集められると考える自治体が出てくるのは自然な成り行きです」(地方都市のふるさと納税担当者)

 ふるさと納税は、ここ数年で常軌を逸するほどヒートアップした。泉佐野市は、“100億円キャンペーン”に取り組んだ成果もあり、18年度に約497億円ものふるさと納税を集めた。

●総務省の監視下に

 こうした自治体の行為に堪忍袋の緒が切れた総務省は、伝家の宝刀を抜いた。それが地方税法の改正だった。
同法改正により、これまで自治体の裁量に任されていたふるさと納税の返礼品は、実質的に総務省の監視下に置かれる。返礼品に対して、総務省は「上限は寄付額の3割」「地場産品に限る」という条件を課した。これを遵守する自治体だけが、総務省から指定団体に認められる。指定団体に認められなければ、自治体は税額控除の恩恵を受けられない。つまり、ふるさと納税をする納税者が税額控除を受けられなくなり、寄付損をする。

 自治体間で火花を散らしてきた返礼品合戦は、地方税法改正を機に鳴りを潜めるだろう。ふるさと納税が一気にオワコン化する事態も避けられない。前出の総務省の職員は、こう漏らす。

「ふるさと納税は、総務省が長年にわたって育ててきた制度です。ここで大きな転換点を迎えることになり、ふるさと納税の気運が沈静化してしまう懸念もある。それは、非常に残念ですが、だからといって現状の過熱する返礼品競争を見過ごすわけにはいかないのです」

 ふるさとに恩返しをする理念のもとに誕生したふるさと納税。納税者に認知されることで大きな盛り上がりを見せたが、それは皮肉にもオワコン化への序章でもあった。
ここ数年間、自治体間で返礼品競争が繰り広げられたふるさと納税は、自治体に何を残したのだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

編集部おすすめ