昨年9月に総務省が発表したところによると、70歳以上の高齢者は約2618万人に上り、日本の総人口に占める割合は初の20%超となる20.7%となった。5人に1人は70歳以上となり、日本は超高齢社会を迎えたが、30~50代の現役世代にとって悩みの種になるのが、親の介護問題だろう
平成27年度に算出された厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、介護保険の被保険者で、要支援・要介護認定を受けた人の割合は65~74歳の場合は4.3%であるのに対し、75歳以上となると32.5%と飛躍的に増加する。
だが、具体的にどんなことをしておくべきなのか。『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)など介護に関する多くの著書を持つ介護・暮らしジャーナリスト、太田差惠子さんは、介護前の準備として何より大事なのは、親との介護に関する“意思疎通”だと話す。
●元気なうちに“どう介護してもらいたいか”と“懐事情”を確認
「意思疎通とは、親御さんが要介護者になったとき、どこでどのように暮らしたいのかをお互いに認識しておくことです。施設介護を検討しているのか、在宅で介護を受けたいのか。在宅希望で子と離れて暮らしているなら子の近く、もしくは一緒に暮らすために引っ越すのか。兄弟が2~3人いるなら誰の近くに住みたいかなどです。弱って病床についてからこういったことを考えても後手後手となるので、親が元気なうちに話し合っておきたいですね」(太田氏)
とはいえ、健康な状態だとしても、なかなか腹を割って介護に関してコミュニケーションが取れない人も多い。
「気恥ずかしさがあるのか子も話を切り出しにくいようですし、親御さんも『とりあえずお前には迷惑をかけない』とはぐらかして真面目に答えない傾向にあります。親と顔を合わせるのが盆と正月だけだと、シリアスな話をする関係性は築きにくいので、少しずつ連絡を取る頻度を増やし、対話を重ねていくことで、介護の話をする土壌ができると思います」(同)
そして、もうひとつ把握しておきたいのが親の懐事情。
「私は、介護費用は子のお金ではなくて、親のお金を使うべきと考えています。介護は要介護者の自立を応援するものなのだから、要介護者のお金を使うのは当然のこと。
では、親のお金を使うとしたらどんな準備をしておくべきか。それは親にどのくらい蓄えがあって、どのくらい年金をもらっているか、そして、親が意思疎通の取れない要介護者となったとき、どのお金を使えばいいのかということをしっかりと聞いておくことです」(同)
いくら子とはいえ、親の通帳で勝手にお金を下ろせない。親と話ができない状況に備えて暗証番号を教えてもらうか、それが難しければ暗証番号をどこかに書いておいてもらっておけば安心だ。太田氏によれば、子名義の新しい口座をつくって、親のお金を「預かり金」としてそこに移しておくのもひとつの方法だという。
●「困ったら地域包括支援センターへ」、それだけ覚えておけばOK
また、現在介護に関するさまざまな公的サービスがあるのだが、それをあらかじめ勉強しておく必要はあるのだろうか。
「今一生懸命覚えても、10年後には制度内容が変わっている可能性もありますし、親が元気なうちは細かい勉強をする必要はないでしょう。各自治体には地域包括支援センターという介護に関する窓口があるので、困ったらここに早めに相談に行き、社会資源をトコトン使って介護する、ということだけ覚えておけば十分です」(同)
ここまでの話を総括すると、難しいことは一切ないので、親が元気なうちにぜひ以上のことだけは確認しておきたいものだ。
さて、年号も令和になり、今後ますます超高齢社会が進行する。そのなかで、“令和介護”にも変化が訪れるのか。
「介護保険制度は2000年から施行されていますが、当時よりも高齢者はさらに増えて国の財政事情は苦しくなっており、要支援の審査は通りづらく、審査が通っても負担額は今までよりも上がっています。
だからこそ無理をして親の面倒を見るべきではなく、直接的な介護そのものはプロに任せるべきというのが太田氏の意見だ。
「世の中には子のいない高齢者もたくさんいますが、その人たちが社会から放置されて亡くなっているわけではありません。それは裏を返すと、子が何もしなくてもなんとかなるということです。複雑でややこしいですが、要介護者を支えてくれる介護関連の制度はたくさんあります。あくまで“介護をマネジメントする”という姿勢で介護と向き合えば、自身の生活を変えなくてもすむのではないでしょうか」(同)
“介護生活”と書くと、介護に人生を捧げているニュアンスになる。そうではなく、制度を有効活用して介護からある程度距離を置くことで、かかわる人々が不幸にならず、幸せでいられる未来をつくることができるはずだ。
(取材・文=A4studio)