「芸術にまつわるフィクションを書く作家といえば?」というお題が出たら、真っ先に名前があがる一人であろう深水黎一郎さんの新作短編集。一編一編はごく短いものだけれども、ミステリー風味あり、ガチホラーあり、幻想小説あり...。
また『名画小説』のタイトルの通り、モノクロではあるが13編すべてにモデルとなっている絵画の画像が添えられている(ちなみに絵画が描かれた年代については、古い時代のものと新しいものが半々くらい)。私自身は、1編めの裸婦の絵とユニコーンの絵とウォーホルのバナナしか記憶になかったくらいなので、美術にはまあ明るくない。が、特に知識が不足している現代美術に触れる機会を得たり、「この絵からこういう着想を得るなんてすごいな」という発見もあったり、もちろん小説そのもののおもしろさも堪能できたりと、門外漢でも興味をひかれる一冊だった。
長くても20ページに満たない短編のあらすじをひとつひとつ詳述するのも野暮であるから、私が特に気に入った2編について取り上げたい。「女殺し屋と秘密諜報員」はずばり、殺し屋の女とスパイの男の物語。
「父の再婚」もやはり、父親の再婚話である。麻沙美は都内在住の会社員。10年ほど前に母親を亡くして以来、父親の徹郎と二人暮らしだったのだが、都心の会社に入社したのをきっかけに家を出たのだった。先週末のこと、片道2時間の実家へ帰ってきていた麻沙美は、徹郎がこざっぱりした格好をしているのに気づく。さらに、壁掛けカレンダーには2つの2桁数字が書かれていることにも。
個人的に注目していただきたいのは、どちらの作品にも「え、ここでぶっ込んでくる!?」というタイミングで挿入されるナイスフレーズが登場すること。ネタばらしにならないよう、ヒントだけ提示させていただく。
「女殺し屋~」→「海苔の佃煮完売」
「父の再婚」→"空母信濃"
これだけではいったい何のことかと、みなさん煙に巻かれたようなお気持ちでいらっしゃるに違いない。
それはそうと、深水作品で美術が題材といえばあの人、といっても過言ではない例のキャラは出てくるのか気になっておられる読者も多いことだろう。読んで損はない、とだけ申し上げておきますね~。
(松井ゆかり)