livedoorを責める会社にも「エロサイト」があった時代

 ネット企業というとすべてが「虚業」と言われていたのも今は昔。最近では上場する企業にかなりのネット銘柄があり、かつてほど世間の風当たりもない。

 ITが「虚業」と呼ばれていた当時(00年代半ば)の象徴的な出来事としては、かつてlivedoorが球団や放送局を持ちたがっていたことか(2004~2005年)。放送局の件は別項に譲るとして、球団参入だ。当時の同社社長・ホリエモンに対し、アダルトブログ等を問題視していたが、最終的に読売側がオーナー会議で球団新規参入を断る材料として持ってきたのはなんとlivedoorが販売代理店をやっていた放尿ゲーム「メイドさんしぃーしぃー」(18禁パソコンソフト)。これを理由に「不適格」と断ったのはまったく誰も「あー、しょうがないわ」と思ったのではないだろうか。結果として楽天が球団を持ったわけだが、実はあれ、本来なら痛み分けレベル。あの時、読売も楽天も後ろ暗い所はあった。

 同社傘下の報知新聞には当時「エッチほうちH」という風俗サイトが存在。(指摘時に閉鎖)、livedoorの代わりに参入した楽天も、当時はアダルト専門販売サイトを持っていた(参入前に閉鎖)。本来明確なツッコミどころはあったのだがそれよりもゲームのインパクトは大きく、新聞・TV報道ではいかにも当時のlivedoorだけが悪いみたいな言われようだった。野球ファンや大衆まで、ネットがまだ力が及ばなかった時代ならではで、強い側が自分たちへのブーメランとなりかねない問題は、大マスコミと球界の権威でねじ伏せていたわけなのだ。

 当時livedoorは系列ファイナンス会社ではかなりの黒字が上がっていた。企業買収でレバレッジを求める部分以外では、全部が儲かっているわけではないとはいえ全くの虚業というわけではなかったのだが、露出しすぎか企業モラルがないという判断か、政治力の弱さかその後バッシングの嵐。

最終的には東京地検が動き「出る杭は打たれる」という日本の悪しき例の見本となってしまった。

ゲーム問屋ビジネスは、昔のソフトバンクも

 livedoorがやっていたゲーム問屋についてもう少し。あんなゲームをなんで…と思いきや、この時期はまだパソコンゲームが90年代から引き続いて全盛の時代。ゲームの販売代理をやることは「利益を上げる」ためにはまともな選択だった。同じ頃にIT寵児として持て囃され、野球チームも持つソフトバンクの孫さんも電話事業をする以前の「日本ソフトバンク(パソコンソフト問屋)」でそちら方面も含むソフトの取次をしていのだから(※80年代終わり頃には大人向けは撤退し、一般ソフトのみの扱いに)、ホリエモンの判断も利益ベースだけを考えれば、全然おかしくはない。

 あの時、他社に比べてlivedoorは参入の判断は早いものの引き際がなく、野球参入を期に一緒にやりづらい事業を撤退したり体裁で別会社を設立したりする考えのない、よくいえば日本の慣習にとらわれない、悪く言えばいわゆるワンマンで不器用な利益追求型の会社だっただけのことなのだ。

 ホリエモン事件後のlivedoorは新会社に引き継がれた上で、その優秀なエンジニアの価値を評価した韓国検索エンジンNAVERのNHN系日本法人が買収。その後livedoorの社名は消滅したが、いまでは日本で開発されたメッセンジャーソフト「LINE」およびその関連事業により大成功を収めていることから、結果としてはまったくの「実業」だ。今虚業なんていう人はいない。

 大資本のテレビ局すら共同出資でネットに擦り寄ってくる時代がやってきた。あの時の「虚業」と称されるものはどこに消えたのだろうか。

(文・編集部I)写真:街画ガイド