春が終わり梅雨が迫るなかでの電気料金高騰に、ため息が止まらない。
事業者の苦心はもちろん個人レベルの事態も深刻で、標準的な家庭でも電気代の値上げ幅は30%を超えるとの試算があるほど。
しかしこれに反論するのが、家電のプロである電気量販店の店員だ。
「本音でお勧めしたいのは、エアコンを使わないことによる節電ではなく、古いエアコンの買い替え、しかも高級機種への買い替えです。生活が激変します」
さらに高級エアコンを使うユーザーはこう言う。
「エアコンは『人権アイテム』でしょう」
聞き捨てならない話である。
まずは家電量販店の店員の話。
「そもそも、今やエアコンを使わないで日本の夏を越すのは現実的じゃありません。熱中症で体調を崩しては元も子もありませんし」
なるほど、地域による話ではあるが、暑さへの感受性が低下した高齢者が熱中症で死に至る例も珍しくない。健康こそが一番の節約、ということか。
「どうしても電気代が気になるという気持ちもわかるんです。
エアコンを新しくすると電気代が節約できる?
「確実に節約できます。10年くらい前のエアコンを使っているお客様が現行モデルを使ったら驚くと思います。
それでもエアコンは安い買い物ではない。買い替えするだけのメリットは本当にあるのか。
「仮に、10万円のエアコンを買って年間2万円の電気代が節約できたとしましょう。じゃあ単純な話、元を取るのに5年かかるよね。その間に壊れるかもしれないし、引っ越しなどで必要なくなるかもしれない。と、そんなふうにおっしゃる方も多いです。
高級エアコンの快適性とは具体的には何なのか。電気量販店勤めゆえのポジショントークではないのか。
3年前、自宅に16万円のエアコンを設置したというA氏の話を聞いてみた。
「僕が住んでるのは賃貸のマンションです。前の住人が置いていった10数年もののエアコンを取り外し、それなりの上位機種のエアコンに変えました。
月々の電気代は下がったのか。
「いや、実はほとんど下がりませんでした。というのもですね、今までのエアコンだとつけたり消したりと、こまめにスイッチをオンオフしていました。外出中はもちろん、就寝中もタイマーでオフにするとか。節電・節約ですよね。それが、新しいエアコンにしてからというもの、365日・24時間、エアコンをつけっぱなしなんです」
なんでも、ここ1年だとエアコンを使ってない日は、春と秋の数日間だけだという。
「さすがの省エネ性能といいますか、つけっぱなしなのに電気代が変わんないから問題ないかなーというのが大きいですが、そうですね……なんというか、エアコンを消したときの不快さが我慢できなくて、消そうって気が起きないんですよ」
氏の自宅室温は完全にエアコン搭載のAI任せ。温度・湿度が常に最適に保たれる環境はもはや必須のインフラであり、電気代節約のために手放せるようなものではない、と考えているようだ。
「暑いとか寒いとかジメジメしてるなぁとか、そういう感情をまったく抱かない。不快な思いに使う脳みそのメモリがゼロ。そもそも生き物って寒暖に適応して生命を維持するために、すごい量のリソースを使ってると思うんですよね。それが皆無。これぞ人類の叡智ってやつですよ」
静寂と人権A氏の高級エアコン語りは止まらない。
「ずっとつけていられる、っては実はすごいことだと思うんです。省エネ性能はもちろんなんですけどね、風の出方や、動作音の快適さが重要です」
氏曰く、これは「高級ドライヤー、高級オーディオなどと似た話」だという。例えば高級ドライヤーならば、頭皮や毛髪が過加熱されないようコントロールされた風を出し、人間の聴覚が不快と感じる周波数の音域をカット。とかくユーザーフレンドリーに設計されている。
「特に大切だなぁと思うのは動作音についてですかね。都会の住人にとって静寂って贅沢品じゃないですか。高級住宅街は閑静だし、高級な住居は隣家・往来の騒音を防ぐよう作られている。どれも低ストレスにつながることは間違いありません」
なるほど。
「なんにせよ音がうるさくないから不快を感じずエアコンを一日中つけっぱなしにできるし、一日中快適な温度・湿度を享受できる。すると生きるってこと自体が楽だし、仕事も娯楽もなにもかもが捗る。実際アレじゃないですか。エアコンとか空調設備がしっかりしている現代的なオフィスビルとそうじゃないオフィスじゃ社員の集中力とか生産性が全然違うんじゃないですかね。そういう統計とかありそう。環境整備にお金を使える金持ちがもっと金持ちになりやすいって構図だと思います。逆に劣悪な環境で育った子供は勉強に集中できないとかね。つまり高性能なエアコンは『人権アイテム』ってやつですよ」
この場合の「人権」はゲーム界隈で使われる用語であり、「人権アイテム」は所有してないと勝負の土俵に立てない、一方的な負けが確定してしまうアイテムを指す。
高級エアコンは人生という戦いに必須の「人権アイテム」なのだろうか。
文/編集部