アラフォーともなると、出会う男性のほとんどが「既婚者」である確率が高くなる。

ずっと年下の男性をみても、そうだ。

見渡す限りの既婚者の海、渦。「おーい、独身!」と叫んで、ピコッと反応があったところを見ても、「うーむ、いくら独身男性と言われてもなあ」というような個性的過ぎる人や、「いかにも遊んでそう」な男性しかヒットしない。

そうなると、恋愛対象が「既婚者」になってしまう確率もどうしたって高くなってしまう。

よく「好きになった人に、たまたま奥さんがいただけ」というフレーズを耳にするが、私はこの言葉が好きではない。なんだか非常に開き直っていて、不倫を正当化させているように聞こえるからだ。でも、一方では「確かに、そうとしか言えないよなあ」とも思う。

私も何度か不倫を経験したが、振り返って考えてみても「好きになった相手が既婚者だった」という、言葉そのままの状態で、無防備に恋愛に突入している。

不倫のはじまりっておかしなもので、ブレーキを踏むべきところで、逆にアクセルをふかしてしまうのがお決まりではないだろうか。罪悪感なんて1ミクロンもない(少なくとも私の場合は)。
もしそんなものがあったら、もっと手前で折り返している。様子見とはいえ危険地帯に近づいている時点ですでに「この人と恋愛したら、どんな日々が待ち受けているのだろうか」とか「どんな愛し方をするのだろうか」など、アクセルを踏んだあとのことしか妄想していないのだ。

危険地帯にずっぽり入り込んだあとも、私の場合、罪悪感などはわき起こらなかった。

そもそも誰に対しての罪悪感なのだろうとも思う。相手の奥さん? 子ども? いやいや、こちらにはそんな思いやりを示す余裕はない。とにかく、会える時間は限られているのだ。一瞬一瞬を燃やすように魂と体をぶつけ合うことしか考えていない。

そもそも、罪悪感を感じるのは男性の役割でしょ。「家で夕飯作って待っている妻がいるのに」そう思いながら、他の女性を抱くのだから。その罪悪感で、びっしりと寝汗をかいたり、ときには男性機能が役立たなかったりしたこともある。

「ははは、今日は飲み過ぎたかな」「今夜は暑いよね」などとあれこれ言い訳をする男性の目を、まっすぐ見つめるのだけは避けてあげる。横目で見ながら「ああ、苦しんでいるのだな」と、妙に冷めた気分で、横たわる男性の体温だけを肌で感じている。

相手の妻は妻で、夫の不倫を知ってか知らずか「妻という存在オーラ」をあちこちで放つ。

たとえば、洗濯物の香り。男性から抱きしめられると、ふわりと柔軟剤の優しい香りに包まれることがある。

この時、否が応でも、「この人のこの服を、洗って丁寧に干して畳んでいる妻の存在」を痛感させられるのだ。そしてその服を身につけ、他の女性を抱いているのが、この人なのだと思うと、またまた妙に心が静まり返る。次第に、男性の無神経さに腹が立ち、いったいどちらの味方なのか自分でもわからなくなってしまう。

不倫経験者の女友だちと話している時、そのひとりがこんなことをつぶやいたことがあった。

「結婚指輪って、まるで意味がない」。

私もほかの女友だちも「ほんと、意味がない!」「本気で意味がない!」と鼻息荒くシュプレヒコールのようにその言葉を繰り返した。

男は、結婚指輪をしたまま、妻以外の女性の手を握ることができるし、その指で他の女性の体を触ることが平気でできるのだ。

手をつないだとき、とくに相手がギュッと強く握り返したときに、結婚指輪が私の中指を薬指の根元に食い込んで痛みを与える。「痛い」と声に出しても、男性は「ごめんごめん。強く握り過ぎちゃったね」と、とんちんかんな反応をする。男性は、こちらの本当の痛みに気づくことはない。

「結婚指輪していたって、やることはやるのよ。

指輪を外してないから浮気していない......なんて思っていたら大間違いなのだよ」と思っていた私も、こんなときはまたまた痛感させられるのだ。

「指輪には、意味がある」と。

自分の目が届かないところで、ほかの女性に痛みを与えている。そしてその痛みは、ひた隠しにしていた「みじめな気持ち」に直結して、鈍く響いていく。

無機質で硬質な物体から放たれる「揺るぎない存在」が、じりじりと「みじめゾーン」へと追いこんでいく。だから、結婚指輪には、やはり十分「意味がある」のだ。

最初こそ「女としての自信」を与えてくれた男が、今度は「自信をなくさせる原因」と変化するのは案外早い。結局は「選ばれない女」であることを身をもって知ることになり、そのみじめさと、「わかっていながらこの恋に進んだ自分の愚かさ」にとどめをさされ、打ちのめされるのがお決まりパターンではないか。

だから、もう不倫はしない。絶対にしない。

きっぱり誓ったのだが、でも将来、果たして「恋する人」が独身なのかどうか、まったくわからないから困ったものだ。


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