美しく輝くジュエリーは、いつだって私たちを幸福に、ときには勇気づけたりしてくれる大切な存在。けれどもその裏にはさまざまな社会問題が隠されていることを、どれだけの人が知っているだろうか。

"人々の営みや、自然に配慮して生み出された"ジュエリーブランド『HASUNA』。

創業者であり代表取締役の白木夏子さんに、『HASUNA』誕生の軌跡と、ご自身のキャリアやライフスタイルについてお話を伺った。

社会の課題を解決するビジネスがしたい

白木さんが起業を決意したのは2008年。ロンドンの大学で国際開発学を学んだ白木さんは、留学中に訪れた南インドの貧困層での体験をはじめ、世界中に蔓延するさまざまな社会課題を目の当たりにした。

卒業後は徹底的にビジネススキルを磨きたいと考え、外国人向けの不動産投資ファンドで3年ほど務めた。

完全に男性社会である業界。白木さんは平均睡眠時間2~3時間という昼夜のない生活のなか、がむしゃらに働き、ビジネス最前線でさまざま経験を積んだ。

そのような生活が2年以上続いたころ、身体を壊した。折しもリーマンショックのタイミングで、それらをきっかけに転職か起業かを考えるようになった。

「大学で国際協力の勉強をしていたころ、南インドの貧困層で暮らしたのですが、その経験がすごく大きくて。入社前から起業するならば社会課題を解決するようなビジネスがしたいと考えていました。先進国の、便利で豊かで美しい生活のために、途上国で暮らす人々の労力が使われているという現実に対して、ビジネスを通して何かしたいと思ったのです。

一方で、ファッションデザイナーである母の影響からか、私は小さなころから細かなモノを手作りすることが大好きでした」(白木さん)

その原体験が、白木さんを立ちあがらせる動機に。

「私の好きなことであるモノづくりと、社会課題へアプローチするビジネができないかなと模索した結果がジュエリーだったのです。

身につける人を美しく輝かせ、幸せにするジュエリーであるのに、その生産過程では、小さな子どもたちが朝から晩まで働き続けるという現実があります。それならば課題解決に向け、ジュエリー×ビジネスを通してアプローチしていきたい、と決意しました」(白木さん)

起業を決めてからの白木さんの行動力は凄まじいものだった。ジュエリー業界は、利権などが絡み合う特殊な業界だ。すべてが初めてのことであった白木さんにとっては試行錯誤の日々。壮絶な準備期間を経て、2009年春に『HASUNA』は誕生した。


「起業から3年目までは、とにかく必死でしたね。人脈を頼りに、良い鉱山や工房があると聞けばすぐに飛んで行きました。実際に現地に出向くことで、さらに愛着が湧きますし、身につけるときのイメージや感じ方がわかるんです」(白木さん)

経営者としてあるべき姿とは?

創業から4年目以降は会社の規模も大きくなり、スタッフも増えた。自分ひとりで動くのではなく、チームとして動くことを意識したという白木さん。そしてここ数年は、運営から一歩引き、会社全体を俯瞰して見るように心がけているのだとか。



「会社もスタッフも、基本的には子育てと同じで、手をかけすぎるとあまりよくないということが徐々にわかってきました。

それまでは、どこかしらに自分がいないとダメなのではと、いつも不安でしたが、HASUNA=白木夏子ではなく、パブリックなものにしたいと思っていて。HASUNAという世界感は、自分がいなくとも自然成長していく......。そのためには、不必要な心配をしてはいけないと気づいたのです。

それからは、経営パートナーやスタッフを信じて少しずつ手を離していきました。結果、いまでは心配や不安もなくなり、ひとりひとりを完全に信頼して自立できています」(白木さん)

『HASUNA』で働く人たちが、心から楽しく働けている状態が理想という白木さん。一方で、スタッフたちをずっと縛るつもりはなく、やりたいことが見つかればどんどんチャレンジしていって欲しいし、そのときは心から応援したいとも。

一児の母でもある白木さん。経営者、起業家として仕事をしながら、母親業もこなすには特別なコツがあるのだろうか。

「私の場合、目の前の仕事にぎゅっと集中してしまうので、ハードな仕事のあとはゆっくり休むことを意識しています。とはいえ毎日の子育てがあるので、子どもとの時間は、基本的に仕事をしません。仕事が終らないときは、子どもが寝た後に。

タイムマネジメントに関してのコツは、できるだけスケジュールを詰めすぎないことでしょうか。余白がないと、突然ふっと湧いた良い話があったときに動けなくなってしまう」(白木さん)

白木さんが頼りにするのは、メンターの存在。

「起業や経営をしていると誰もがぶつかる壁があると思います。そんなとき私は、先輩起業家や周りの信頼できる人たちに遠慮なく相談することにしています。失敗するときはひとりで抱え込んでしまうときだと思うので」(白木さん)

"PERPETUAL JEWELRY"に込めた想い

「ジュエリーって、もの自体よりも、そこに込める想いが強いですよね。オトナの女性が自分のためにジュエリーをそろえるのってすごく素敵だと思います」

今年8年目を迎える『HASUNA』は、2016年に大々的なリブランディングを行った。

これまでの"エシカルジュエリー"というブランドイメージを一新、"PERPETUAL JEWELRY(パーペチュアルジュエリー)"という新たなコンセプトを打ち出した。Perpetualとは「絶え間ない」「永続的な」といった意味を持つ。

「エシカルという言葉は、当たり前に私たちの心の中にある思想だと思うんです。そのうえで、普遍的な美しさや、身につける人が永く使えるだけでなく、その生産過程においても永続するジュエリーであり続けたいという想いを込めました。

加えて、『HASUNA』のジュエリーは日本の職人の手によってつくられているのですが、日本独自のデザインや美しさってなんだろうと改めて問うてみたんです。

今後は、職人がつくりあげる美しさやこだわりをさらに追求し、日本のジュエリーブランドとして海外に展開していたいと思っています」(白木さん)

一日中、頭も体もフル回転させている白木さん。

エネルギーの源は、意外にも、おいしいお肉とお酒。

そしてリラックスするために取り入れているのはヨガや瞑想、アロマなど。一日の終わりには、お祈りを欠かさないそう。白木さんにとって祈りとは、自分が安らぐ時間なのだという。

美しいものを生み出す人は、その人自身も美しくたおやかである。そんなオリジナルのセオリーをつくりたくなるほど、白木さんは強く清らかだ。

社会課題を解決したいという熱い想いを美しいジュエリーに託し、がむしゃらに突き進む行動力と、場を和ませる柔和な人柄。そのギャップこそ、白木さんの魅力が秘められているのではないだろうか。

白木夏子さん

ジュエリーブランドHASUNA代表。1981年生まれ。
英ロンドン大学卒業後、国連機関、金融業界を経て2009年4月にHASUNAを設立。人、社会、自然環境に配慮したエシカルなジュエリーブランドを日本で初めて手掛け注目を浴びる。

2011年「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーキャリアクリエイト部門」受賞、世界 経済フォーラム「Global Shapers」、AERA「日本を立て直す100人」に選ばれ る。2012年APEC(ロシア)日本代表団としてWomen and Economy会議に参加、2013年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に参加と多方面で活躍中。著書に『世界と、いっしょに輝く』(ナナロク社)、『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)がある。

HASUNA

HP:http://www.hasuna.com/
オンラインショップ:http://hasuna-store.com/

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