今回は、先週の「寝室問題」の続き。わたしが同居人との「空気のような関係性」に悩んでいるときに観た映画『31年目の夫婦げんか』をベースにしながら、カップルの寝室問題を考察していこうと思う。

『31年目の夫婦げんか』は、デヴィッド・フランケル監督、主演がメリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ(某コーヒーCMの宇宙人役でおなじみ)の、2012年に公開されたアメリカのコメディ映画だ。

「デヴィッド・フランケル監督 ✕ メリル・ストリープ」の組み合わせといえば、『プラダを着た悪魔』! さらにフランケルは、名ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』の演出を担当した監督でもあって、当然ながら観る前から期待がふくらんだ。

ところが、この映画は「おしゃれ」「ファッショナブル」とは対極の内容かつ演出だった。あんなに「プラダを着た悪魔編集長」だったメリル・ストリープが、『31年目の夫婦げんか』では、見事に「普通の主婦、郊外に住む老夫婦」を演じている。大女優に対して失礼を承知で書くけれども、メリル......演技うまい!

映画の内容はこうだ。

結婚生活31年目を迎えた夫妻。妻のケイ(メリル・ストリープ)は夫ともに過ごす時間がなく、寝室も別々な現状を嘆いていた。一方、夫のアーノルド(トミー・リー・ジョーンズ)はその現状にはまったく無関心で、妻が自分に対して不満を抱えていることすら気づいていない。

ケイはある夜、意を決し、ちょっとだけセクシーなナイトウエアに着替えて、夫の寝室に行く。夫はその意味さえわかっておらず、妻に「どうした」とぶっきらぼうに聞いてしまうのだ。ケイは「......したいの」と恥ずかしげに答えるのだが、夫のアーノルドはハッとした表情を一瞬浮かべ(ヤベッ、とうとうきたか......という感じのこわばった表情)、「今日はなんだか体調が良くない」と、もぞもぞとベッドに深く潜り込んだ。

そんな夫を見たケイは、恥じらいと一抹の屈辱感を抱えながら、部屋を出て行く。

翌朝、これまでの日々と同じように卵料理の朝食を夫のために作り、夫はそれを食べている間は黙々と新聞に目を通し、「じゃあ、仕事に行ってくる」と妻の頬(唇ではなく)にキスをして出かけるのだった。

夜は夜で、夫は趣味のゴルフ番組をだらだらと観ながらソファでウトウト。就寝の時間まで妻のケイは、夫と同じ空間にいながら所在がなく過ごしている。一定の時間がきたらふたりで寝室のある2階にあがり、「おやすみなさい」と別々の部屋に入るのだった。毎日毎日この繰り返しで、これからこの生活がガラリと変わる様子は1ミクロンとてない。

それでも現状打破したいケイは、夫に無断で有名医師のカップル向け集中カウンセリングに申し込む。最初は行く気のなかったアーノルドだったが、しぶしぶケイについていくことになった。そこでふたりはカウンセリングを通して、徐々に本音で相手と向き合っていくことになる。

妻の悩み、夫の言い訳。これがまた、わたしと同居人が抱えている(というよりわたしが抱えている)問題そのものだったので驚いた。いや、わたしだけではないと思う。倦怠期を迎えているカップル全員に共通する悩みや不満だろう。

なぜケイとアーノルドが別の寝室で寝るようになったか。それは「夫の腰痛」が原因だった。ひどい痛みで眠れないから......と、ゲストルームにて一人で寝るようになったのがきっかけだったが、腰痛が治っても夫は夫婦の寝室に戻ることはなかった。以来5年にわたり、この夫婦は触れ合っていなかった。

この映画を観ながら、ある男友だち夫婦の「寝室問題」を思い出した。彼らは仲良し夫婦ではあるのだが、夏のエアコン設定温度でもめて、以来別々の部屋で寝るようになったという。

なぜに男性は、寝るときでもあんなにキンキンに部屋を冷やしたがるのだろう。我が家もエアコン設定温度で夏はよく押し問答をする。

話を男友だちに戻そう。秋になりエアコンをつけずに済むようになって「また一緒に寝よう」とある夜、彼が寝室に入ったら、妻から「あなたのいびきがうるさいから」と別の部屋に寝るように促されたという。以来、寝室は別々になり、夜の営みもぐんっと減ったのだとか。

一方で、一緒のベッドに寝ているのに、何年も触れ合ってないカップルもいる。


「結婚してから、ずっと同じベッドで一緒に寝ているけれど、ここ10年くらいは、夫の腕にさえ触れてないし触れられていない」とは、ある女友だち。

「一緒に寝ていたら、肩くらい触れ合うでしょう」
「いや、それがもう、きっちりと距離感を保ってお互い寝てるの。もし触れることがあるとすれば、夫の寝相の悪さで手足がわたしの領域に侵入してくるときくらいね」。

彼女も「まだ40代なのに、このままでいいのか」と悩んでいるという。
「夫はもう空気みたいな存在だから、夫の隣に寝ていて気持ちが高ぶることなんてないし、それはあちらも同じだと思う。でも、ふと『このまま年をとって死ぬのかあ。それまであと何十年あるだろう』と、その年月を考えて呆然としちゃうんだよね」
それでも現状を打破する術がわからないという。

『31年目の夫婦げんか』のメインは「カウンセリングルーム」が舞台だった。
アメリカ映画やドラマでよく見るこの「カップル(夫婦)カウンセリング」。日本にもあるのかもしれないが、実際に「受けている」という人をひとりも知らない。

そもそも「夫婦間、カップル間」の問題を解決したくて、精神科医のもとへ「ふたりで」出向くことに、日本人のわたしは驚いてしまう。だって夫婦間に問題があるということは、ふたりの仲は基本的に「不穏」なわけで、それでもカウンセリングを受けることを承知でそこに揃って出向くのだから。

つまりカウンセリングをふたりで受けること自体が「この問題をどうにかしたい」と前向きな意思の表れで、この時点でわたしなんかは「だったら第三者を通さず、ふたりで話し合えばいいのに」と思ってしまうのだ。

でもそれができないからこそ、第三者が必要であることもなんとなく理解できる。映画『31年目の~』においても、ドクターが老夫婦に与える課題(宿題)は思いがけないことで、「こ、これをクリアできないからこそ、カウンセリングを受けたわけで......」と突っ込みたくなるし、実際、映画でも夫婦は同じような反応をしていた。

そのくらいの荒治療が必要なのだ。夫婦別室、そしてレス問題は。

そこでわたしもケイと同じく反乱を起こした。またまた引っ張ってしまうが、次回は反乱をおこしたあとの「わたしたちの倦怠期&レス解決」の事例をご紹介したいと思う。

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