画像:MASHING UP

最後の成長市場と呼ばれるアフリカに、世界の注目が集まっている。

背景にあるのは、若者を中心とした人口増と、建設ラッシュが続く経済成長。

そこに日本はどう関わっていけるのか、どんなところにチャンスがあるのか。

2021年11月19日開催のMASHING UPカンファレンス vol.5では、「Look Africa! リープフロッグ現象からみるアフリカの今」と題したセッションを開催。

登壇者はアジア・アフリカ・インベストメント&コンサルティング(AAIC)社代表取締役で、『超加速経済アフリカ: LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図』(東洋経済新報社)著者の椿進さん、マリ共和国出身で京都精華大学学長のウサビ・サコさん、アフリカを拠点にクリエイティブ産業に特化したアドバイザリーを行うナカタ マキさん。朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の藤井涼さんをモデレーターに、現在進行形のアフリカの姿とこれからの経済について語り合った。

アフリカで起きている「リープフロッグ現象」とは

モデレーターの藤井さん。マキさん(画面左上)は南アフリカから、椿さん(同右上)はシンガポールから、サコさん(同下)は京都から参加した。 撮影:俵和彦

まず、急成長を遂げるアフリカの現状を表す言葉が「リープフロッグ現象」だ。

これについて、アフリカに4つのオフィスを展開し、投資とコンサルティングを手掛ける椿さんは「簡単に言うと、カエル飛びジャンプということです」と説明する。成長があまりにも急であるために、通常の段階を踏まずに一足飛びに発展していることを指す。

「最大のイノベーションドライバーとなっているのが、M-PESAというモバイル決済・送金システムです。13億人の人口を持つアフリカでは今、急速にスマホが普及していて、ケニアでは普及率が110%を超えているのですが、その多くがプリペイド携帯。 後だと請求先がわからなくなる場合もあるので 、前払いをするのです」(椿さん)

アフリカではスマホ・携帯の急速な普及拡大がビジネスの成長に拍車をかけていると語る椿さん。 撮影:俵和彦

スマホにチャージすれば、M-PESAを通して送金したり、現金に戻したりコンビニなどで決済に使ったりすることができる。

「クレジットカードが普及していないこともあって急速に成長し、ケニアでのトランザクションはGDPの半分に及ぶ年間5兆円規模に伸びています」(椿さん)

アフリカにはレガシーや既得権益者がいない

多くの国を渡ってきたサコさん。アフリカが抱える課題はビジネスのヒントになると語る。 撮影:俵和彦

アフリカではスマホ・携帯の普及を利用した、医療のオンライン診断サービスやEコマース、保険サービスなどの企業も年間400%に及ぶ成長を遂げている。

「見逃せないのが、レガシーや既得権益者がいないということです。スマホ関連以外でも、ナイジェリアのラゴスでは『西アフリカにドバイを作ろう』というコンセプトで1000ヘクタールの建設プロジェクトが進み、新幹線のような鉄道も発達しています。設立10年以内で企業評価額が10億ドル以上のユニコーンベンチャーも今後7、8年で40社以上できてくると思います」(椿さん)

広大な土地が地続きでつながっていることと、豊富な資源は、植民地時代からの「アフリカのパワーの源」だとサコさんは指摘する。そしてECOWAS、COMESAなどいくつかの経済共同体を作って活発に自由貿易を行っている。

マリ共和国に生まれ、中国で建築学を学んだサコさん。その後、来日して京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程を修了。京都の町家再生など社会と建築の関係性を調査し、2018年から京都精華大学学長に就任した。

「2050年までには人口がさらに伸び、その分布も郊外より都市部に広がっていきます。人口増や都市化、低工業開発など、現状で抱えているアフリカの課題のすべては可能性というポジティブな視点に変えることができます。外国企業にとっても非常にやりがいのある大陸となるはずです」(サコさん)

「人口の6割が25歳未満」の底力

先進国がアフリカで事業の実験やテストを行う事例が増えていると語る、藤井さん。 撮影:俵和彦

アフリカ全体の特徴としていえることは、若者が多いことだ。

6割が25歳未満であり、だからこそ、教育はとても重要」とサコさんは言う。さらに公共交通機関が少ないため、自動車の需要が伸びるとともに、バイクタクシーなどの新しいビジネスも生まれている。

「ただし、約80%がインフォーマルな経済活動であり、どのように国が介入するなどしてフォーマルにしていくのかが課題でもある」(サコさん)

朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の藤井さんは、2020年にルワンダで現地取材を行い、その発展ぶりを目の当たりにした。

「アフリカの奇跡といわれるルワンダは、年平均8%の経済成長を続けています。都市部のメインストリートにはまったくゴミが落ちていないし、夜10時に一人で歩いても、まったく危険を感じないほど治安が良くなっています。女性議員が6割という世界一多い国でもある」(藤井さん)

ただし、Wi-Fi環境が整っていない、社会格差が大きい、一領域一社という独占的なビジネスが中心であるなど課題も多い。

「その分、アメリカの企業がドローンで病院から血液を届けるZiplineの検証をしていたり、イギリス企業がスマホ診療のサービスを展開していたりと、先進国の実験の場のようになっています。そうしたプロジェクトは、日本でも高い注目を集めているようです」(藤井さん)

現在のアフリカを理解する「コンテンポラリー」というキーワード

アフリカを拠点に活動するマキさん。アフリカでは自分たちのアイデンティティを軸にして、未来を創る動きが広がっているという。 撮影:俵和彦

南アフリカのケープタウンやナイロビを拠点にクリエイティブ業界のアドバイザリー活動などを行うマキさん。南アフリカ人のデザイナーと協働してファッション・インテリア雑貨のブランド展開を手がけた経験も持つ。

「日本人はアフリカというと、別の惑星の話であるかのように感じている」とマキさんは指摘する。だが、エチオピアの首都・アディスアベバと東京間、ニューヨークと東京間では、直線距離でいうと前者のほうがやや近い。

「アフリカが遠いと感じるかどうかは、マインドセット次第。また、アフリカは一つではなく、単一のステレオタイプで捉えるのも危険です。アフリカの都市部は東京以上にグローバルで、若者たちは英語を理解し、スマホで世界の情報を得ながら、自分たちの役割を理解して新しいものを作っています。私はアフリカの経済成長を支える鍵は若者であり、クリエイティブ産業が重要な意味を持つと考えています」(マキさん)

マキさんは近年のアフリカの傾向として、「地元のベンチャーや中国、欧米の外資の大企業がインフラに投資し、それを活用して多くのクリエイターがファッション、建築、メディアなどデジタルコンテンツを生み出しています。ストリートウェアやコンテンポラリーなジュエリーなどファッションも盛り上がりを見せています」と語る。

「アフリカには植民地としてすべてをはく奪された歴史があり、アーティストやクリエイターはそうした過去と和解して先に進むために、常にアイデンティティについて考えています。また、起業家が直接的な課題解決に取り組む中で、クリエイターはその作品を通して問題提起を行うことで、間接的に影響を及ぼすことができるでしょう。そして、アフリカ人が主体となってアフリカの未来を作っていく、アフロ・フューチャリズムにもクリエイティブの力が欠かせません」(マキさん)

経済発展の「アフリカモデル」を構築せよ

アフリカは経済発展しつつ、現在、先進国が抱えているサステナビリティや環境変動の問題も解決していかなければいけない。その意味で、アフリカの発展は欧米の通りとはいかず、「クリエイター的な考えが重要な意味を持つ」とマキさん。近年ではフランスなどヨーロッパ諸国からのファッションや映画産業などクリエイティブ業界への投資にも注目が集まっており、「こうした分野における投資や協業は、日本がアフリカとつながるための選択肢の一つになるのでは」と語る。

これに対し、ビジネスでもクリエイティブでも「同じ21世紀のものであり、アフリカで通用するものは日本でも通用します」とサコさん。それを前提として、

「アフリカでは、人との関係性でビジネスを構築すると伸びやすいという特徴があります。そうした特性と現代の世界的な情勢を捉えた、欧米とも日本とも違う、経済発展のアフリカモデルを作ってほしい。そこで日本人が活躍できるのではないかと考えています」(サコさん)

セッションを通し、「とにかくアフリカの都市部を歩いてみてほしい」「アフリカの人のやさしさに触れてほしい」という声も出た。チャンスを得るためには、まずアフリカの現状を知り、同時代の身近な存在として捉え直すことが重要といえそうだ。

撮影:俵和彦

MASHING UP conference vol.5

Look Africa! リープフロッグ現象からみるアフリカの今

ウスビ・サコ(京都精華大学 学長)、椿進(Asia Africa Investment and Consulting代表取締役/代表パートナー)、ナカタマキ(アドバイザー/ライター/クリエイティブ・ディレクター)、藤井涼(CNET Japan編集長)