石川清子さんの発案により、日本における意思決定過程への女性の一層の参画を通じ、女性の社会的地位の向上を図ることを目指して設立された「女性リーダー支援基金 ~一粒の麦~」。パブリックリソース財団が主催する同基金は、2022年11月26日に交流ミーティングイベントを開催。
第2回目となる2022年度受賞者の授与式のほか、昨年度受賞者による活動報告やトークセッションなどが行われた。

ジェンダー課題解決から薬物依存症者のサポートまで幅広い活動が採択

本年度の応募者は99人。その中から、社会起業家、社会活動の実践者や政治家希望者ら9人が選出された。彼女らの活動は、医療現場やIT業界におけるジェンダー課題の解決から薬物依存者のサポート、芸能従事者のセーフティネットワーク構築など多岐にわたる。採択者の活動の幅広さも、本年度の特徴だ。

#なんでないのプロジェクト」を率いる福田和子さんは、スウェーデン留学時に、性教育や避妊、より安全な中絶方法へのアクセスが不足している日本の現状に課題を抱いた。以降オンラインでの署名活動などを通して政策提言を行う福田さんは、2021年度の採択者でもあるNO YOUTH NO JAPAN 代表理事の能條桃子さんとともに、若手の女性地方議員を増やす「FIFTYS PROJECT」を実施したことも話題になった。

「声を上げても、社会はなかなか変わらない。まずは意思決定層における女性の割合を増やすことが大切」と、意気込みを語る。

また、大阪医科薬科大学一般・消化器外科学教室の河野恵美子さんは、結婚と出産をきっかけに外科医としての仕事が与えられなくなったという自身の経験を機に、ジェンダー問題に取り組み始めた。2015年には、「消化器外科女性医師の活躍を応援する会」を発足。

この15年で外科医は2万人減っているという現状は、あまり知られていない。その背景には、365日24時間働くことが前提とされている、男性中心の働き方がある

この課題を解決するには、女性医師の割合を上げる必要がある」(河野さん)

Webアプリケーション・システム等の受託開発を行うbgrass 代表取締役の咸 多栄(だむは)さんは、IT業界のジェンダーギャップ縮小に向けて、女性のための相談プラットフォーム「sister」を運営する。「IT業界に従事する女性を増やす動きは活発になっているが、業界自体が変わらないと結局は離職につながってしまう。今働いている女性に向けたエンパワメント、業界全体の変革に向けてのアクションの双方に取り組みたい」と語る。

パリテ・アカデミー トレーナーの町田彩夏さんは、選挙の際に若者たちが各主要政党に公開質問状を送るプロジェクト、「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」などに取り組む。

「市民活動が盛り上がる一方、これをどう政治につなげていくかが課題。若者が声を上げ、それを政党が受け取り社会が変わるというつながりを、もっと強めていきたい」(町田さん)

さらに、芸能従事者の地位向上やセーフティネットの構築を掲げて活動している日本芸能従事者協会 代表理事の森崎めぐみさん、薬物依存症の当事者である体験を活かして政策提言を行うスワローポケット 代表理事の風間 暁さん、夫婦同姓を強いる現状を変えるべく、地方議会と国会でロビー活動を行う選択的夫婦別姓・全国陳情アクション 事務局長 井田奈穂さんも、それぞれの思いを語った。

また、カラフルなアフリカンプリントを用いたアイテムが人気のライフスタイルブランド、RICCI EVERYDAY 代表取締役 仲本千津さんは、ウガンダからビデオで出演。同社はウガンダのシングルマザーや元こども兵を積極的に雇用するなど、社会的に疎外された人々を「作り手」として生産活動に巻き込んでいる。

仲本さんは今回新たに、日本の女子中高生向けにDE&Iの概念をベースとしたリーダーシップ開発プログラムを制作・提供することを発表。「若い世代の女性たちが、ありたい姿を実現できるように。また異なる価値観を持つ人たちとお互いを尊重し合いながら一つのものを作り上げていけるように、助けとなるプログラムを提供したい」と語った。

ジェンダー問題は、先送りできない喫緊の課題

トークセッションの様子。左から、ともにジャーナリストの長野智子さん、浜田敬子さん、パリテ・アカデミー トレーナーの町田彩夏さん。
長野さんは1985年、男女雇用機会均等法の施行年にフジテレビに女性アナウンサーとして入社。「TVは世論に大きな影響を与えるものですが、男性中心の業界。ジェンダーギャップについて意識せざるを得ない環境にいた。現在は、超党派の7人の女性議員とともにクオーター制を実現するための勉強会を実施している」と語る。

トークセッションのモデレーターを務めたのは、ジャーナリストの津田大介さん。「組織にジェンダーの多様性があると、会議体や意思決定のあり方、参加している男性の意識が劇的に変わる

女性リーダーを支援する取り組みは、非常に重要」とし、自身が芸術監督を務めた「あいちトリエンナーレ2019」で、アーティストのジェンダー比率を50:50にした経験にも言及しつつ語った。

特別ゲストとして、ともにジャーナリストの浜田敬子さんと長野智子さんを交えてセッションは進行。受賞者が感じる様々なジェンダーギャップの事例が共有された。

「IT、スタートアップ業界自体が、男性主体。sisterに寄せられる相談も、上司やクライアントからのハラスメントが多いが、その根底にあるのは無意識のバイアス。バイアスがかかった業界を変えていくのが、ミッション」と咸さん。

また、河野さんは「外科医のうち男女別に一人当たりの執刀数を比較すると、女性は少ない。高難易度の手術を行う機会がなかなか与えられないため、昇進にも差が出てくる。格差をなくしていく必要がある」と語る。

波風を立てよう。それはいつか大きな波につながるから

昨年度に引き続き審査員長を務めた上野千鶴子さん。

2022年度のジェンダーギャップ指数は116位と、ジェンダー平等に関して後進国である日本。社会を変えるためのブレイクスルーはどこにあるのだろう。

「以前、ある女性向けメディアの取材を受けた際に『会社で上司に何かを言われた時に、波風を立てない返答を教えてほしい』と聞かれた。私はこれまで『AERA』の編集長などを務めるなかで、ある種の忖度した働き方をしてきてしまった。そして今、若い世代にそれを内面化させてしまったことを、非常に反省している。

今は『波風を立てようよ』と言いたい。ただ、波風を立てた人が孤立してしまわぬように、周りも波風を立て続けることが大切。そうすることで、それは大きい波につながっていく」(浜田さん)

審査員長で社会学者の上野千鶴子さんも、「今回は20~50代の幅広い女性リーダーが採択され、第一回よりも業界の幅が広がった。どうか、この波をこれから先も途絶えさせないように、後に続く人、志を継ぐ人が出てきて欲しい」とコメント。

基金の副題となった「一粒の麦」は、「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。 しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」という聖書の一節から名付けられたという。次世代リーダーらの活動が実を結び、社会によりポジティブなインパクトが広がることを期待したい。

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