「日本ってどんな国?」
「なぜ日本人は“カワイイ”ものが好きなの?」

海外の人からこんな質問を受けたとき、あなたならどう答えるだろうか。

歴史や文化をもとに語るのもいいけれど、ときにはもう少しユニークな視点で答えてみたいもの。

例えば、日本の土台となる「地形」に注目する、という視点もそのひとつかもしれない。

「地形」から日本の力を考える

「グローバル化が進むいま、私たちは今一度、日本をどのように伝えるかを見直す必要があります。こうした認識から始まったのが『地形が生んだJAPAN ORIGIN(ジャパン オリジン)』のプロジェクトです」

そう話すのは、一般社団法人 日本国際広報戦略機構 JAPAN ORIGIN研究会事務局長の槙 英俊氏。日本水フォーラムの代表理事である竹村公太郎氏とともに、「地形」から日本の固有性を考え、そのオリジナリティを未来に活かす試みを進めている。

一般社団法人 日本国際広報戦略機構 JAPAN ORIGIN研究会事務局長の槙 英俊氏。

「以前、東京にオリンピックを誘致するための紹介フィルムを制作したとき、初来日のイギリス人の女性プロデューサーがこう言ってくれたんです。『飛行機を降りた瞬間にホッとした。これはあなたの国の大切な特徴だと思う』と。

日本の特質を研究しようとすると、歴史認識問題のように、本来の趣旨とは違う議論に引き込まれてしまうことがあります。でももっとフラットに、優劣とは関係ないところで日本の個性を捉えることで、見えてくるものがある。そこで注目したのが、客観性の高い『地形』という視点です」(槙氏)

「地形」は日本の“底”であり“土台”

JAPAN ORIGINの紹介冊子より。

政治、経済、宗教、哲学、文化、芸術——「日本とは何か」を考えるために、これまで様々な視点からの見方が生まれてきた。

しかし竹村公太郎氏は、これらの視点には、日本の“底”であり、“土台”である「地形」という視点が欠けていたと言う。

建設省(現・国土交通省)の官僚として、日本の河川行政に長年携わってきた竹村氏。

宮ヶ瀬ダムをはじめとする3つの大型ダムの建設を指揮し、出張や転勤で日本全国のあらゆる地形や気候を体感したことから、「地形」の重要性に気づいたと話す。

「例えていうと、人は気球にのっているときは全く風を感じません。自分が風になっているからです。地形の特質も同じで、そこに住んでいる人は気づかないよそものだからわかるんです」(竹村氏)

これまでのキャリアの中で育まれた竹村氏の理論は、『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫)などのベストセラーに結実。「JAPAN ORIGIN」でもその発想の源となっている。

日本水フォーラム代表理事の竹村公太郎氏。

9つの要素で日本を捉える

「JAPAN ORIGIN」では、日本の地形の特質を9つの要素で捉える。

01.端にある
02.離れている
03.山が多い
04.どこにでも川
05.長い
06.海流がぶつかる
07.豊かな水運
08.険しい街道
09.災害が多い

難しい知識は不要。誰にでも提示されている「地形」という視点を通して、分かりやすく、子どもにも理解できるように日本を語ってみようというのが、「JAPAN ORIGIN」のコンセプトだ。

「冒頭の『端にある』に関して言うと、日本は四方を海に囲まれ、世界の端に位置しています。日本はブラックホールのようなもので、外から来るものを“希少なもの”としてなんでも大切にするその結果、生まれ故郷の国では失われたのに、日本には生き続けている文化がたくさんあります

その一方で、ものごとを吸収するけれど発信しない入るのは簡単だが出るのが難しい、という特質もあると思います」(竹村氏)

三内丸山遺跡の謎を解く鍵は「漂着ゴミ」

JAPAN ORIGINの紹介冊子より。

「地形」から紐解くと、これまで日本史上の謎とされてきたことにも近づけるという竹村氏。

「青森県に三内丸山遺跡という縄文時代の遺跡があります。なぜこんなに早く、厳寒の地に巨大な集落ができたのかと、長らく疑問視されていました。

ところが近年、防衛大学が外国漂着ゴミの調査をしたところ、ゴミの分布地点が日本全国の遺跡の場所と一致していたのです。三内丸山遺跡の場所も、漂着ゴミの多い場所でした。

ゴミが流れ着くということは、海流の影響です。海流はゴミだけでなく、貴重なものも人も運んできます。古代遺跡がこれらの地に生まれた理由も、同じだったのではないでしょうか」(竹村氏)

この竹村氏の着眼点には、とても驚き興奮したと話す槙氏。

様々なものを迎え入れるという日本文化の特質は、こんなところから来ているのかもしれませんね」(槙氏)

カワイイものが好きなのはなぜ?

日本人の“カワイイもの好き”も、「地形」という光を当てると新たな理由が浮かび上がる。

「古代ローマ時代からヨーロッパには車があり、平地を疾走していました。でも日本は国土の70%以上が山という山国で、街道も険しかったので、車の登場はとても遅く、舟のネットワークか徒歩で移動していたのです。

歌川広重が描いた『東海道五十三次』のスタート地点、日本橋の絵を見ると、人足が箱を背負って歩いています。日本人は多くのものを、車を使わず自分で担いでいただから、荷物を軽くすることには命がけだったし、細かくして詰め込むことが大好きなんです。

『かわいい(可愛い)』というのは、小さなものを愛おしむ言葉。この感覚が非常に強いのは、日本人の特性です。それはおそらく、山国であることや、自分ひとりで持ち運べる小ささをよしとする感覚からきていると思います」(竹村氏)

「つ(詰)まらないやつだ」という言葉が侮辱になるほど、何かを詰め込むこと、凝縮することに価値を置いていた日本人。それは少量化や省エネルギーのように、世界の未来につながる視点でもある。「地形」から日本の固有性を考え、そのオリジナリティを未来に活かそうと試みる「JAPAN ORIGIN」は「日本版SDGs」になり得ると、両氏は語る。

島国に育ち、外から入ってきた文化や人を大切にする。拡大よりも収縮が得意——そう考えると、よく言われる日本人の弱みが強みに変わるようで、なんだかワクワクしてはこないだろうか。

「地形」を通して、世界の人に日本を語る言葉を持つこと。それが「日本版SDGs」を探すための、意外な近道になるのかもしれない。

竹村公太郎(たけむら・こうたろう)
認定NPO法人日本水フォーラム 代表理事。1970年東北大学大学院土木工学修士課程修了、建設省(現・国土交通省)入省。宮ヶ瀬ダム工事事務所長、中部地方建設局河川部長、近畿地方建設局長を歴任し2002年国土交通省河川局長を最後に退官。2004年財団法人リバーフロント整備センター理事長。2006年より、日本水フォーラム代表理事・事務局長。著書に『日本文明の謎を解く』(清流出版、’03年)、『土地の文明』(PHP研究所、’05年)、『幸運な文明』(PHP研究所、’07年)、『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫、’13年)、『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社’16年8月)など。

槙 英俊(まき・ひでとし)
1986年早稲田大学政治経済学科卒業。(株)アリーナプロジェクト代表。(株)電通で長く国際スポーツ事業を手がけ、世界28か国で業務経験を持つ(※)。東京オリンピック招致業務で日本のことを外国人に伝える困難さに直面。竹村公太郎氏の著作から「地形の特徴から日本の特性を説明する」ことの客観性・分かりやすさを学び、2019年、賛同メンバーとともにJAPAN ORIGIN研究会を立ち上げる。

※ アメリカ、カナダ、メキシコ、イギリス、スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ノルウエー、デンマーク、フィンランド、スイス、ロシア、チェコ、オーストリア、クロアチア、ギリシア、トルコ、ナイジェリア、セネガル、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、中国、韓国、シンガポール

撮影/中山実華、取材・文/田邉愛理

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