「withコロナ」の今、社会はこれまでにないスピードで変貌を遂げている。これからの組織は、働き方は、労働市場はどうなるのか。

2020年5月、オンラインコミュニティ「MASHING UP SALON」では、「働く意味と、これからの働き方と。OECDコラボサーベイから見えたこと」と題したセッションを開催。

&Co.,Ltd. 代表取締役 / Tokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏をモデレーターに、OECD東京センター所長の村上由美子氏ONE JAPAN共同発起人・共同代表の濱松誠氏をゲストに迎え、コロナ前とコロナ禍中における2つの意識調査をもとに、働き方の変化や課題について議論した。

コラボサーベイに見る「働き方」の変化への意識

MASHING UPでは、2020年2月にOECD東京センターの協力を得て「働き方」に関するサーベイを実施。日本型雇用、男性育休、転職に対するおよそ1,100人の意識が浮き彫りとなった。

本格的にコロナ禍が始まる直前のこのサーベイについて、「全体的に、変わらなければいけないことはわかっている。ただ、実際に変わるとなると不安もあるということで、皆さん、モヤモヤしていることがよくわかる結果でした」と村上氏。

たとえば、終身雇用、年功序列などの日本型雇用については、多くの人が変わらざるを得ないと感じていることだろう。しかし、今回の結果では日本型雇用の崩壊に「賛成」が38.9%、「反対」15.2%、「どちらともいえない」が45.8%と、判断がつきかねている人が多い。

また、ワークライフバランスを大切にしたいと回答したのが女性の4割、男性の2割強だったことに対しては、「日本は先進国の中で、女性が家事をする時間が断トツで長いことが調査でわかっています。そのため、女性のほうがワークライフバランスへの意識が高いのは当然でしょう」と村上氏は指摘した。

そして迎えたコロナ禍で、働き方はどう変わったか

しかしこの2月のサーベイ以降、世の中はコロナ禍によって数々の変化を強いられた。リモートワークやバーチャルオフィスなど、ソーシャルディスタンスを保つためのさまざまな工夫が模索される中、それぞれの働き方はどう変わったのか。村上氏は、OECDの本部のあるパリとの距離がむしろ縮まったと話す。

「すべての会議がオンラインになり、今まで出られなかった会議にも出られるようになったのが発見でした。こうした例が、国際機関や多国籍企業を中心に広く起こっていると思います」(村上氏)

コロナ禍中の意識調査から見えた“3つの壁”

ONE JAPAN共同発起人・共同代表の濱松誠氏。

若手・中堅社員を中心とした約50の企業内有志団体が集う実践コミュニティONE JAPANでは、まさにコロナ禍中の4月中旬に、「新型コロナウイルス感染拡大『働き方』意識調査~大企業の若手中堅社員1400人の声」を行っている。

「実際にリモートワークを経験したことで、これからも在宅勤務を望む人は95%と非常に高くなりました。これはまさに、ニューノーマルといえるでしょうね」(濱松氏)

一方で、リモートワークには「運用面での課題がある」と感じている人も8割いた。濱松氏は、これには“3つの壁”があることを痛感したという。

1つ目は“意識の壁”

特に上司の側の意識で、対面やこまめな報告を望むことが壁になります。2つ目は“ハンコの壁”3つ目がWi-Fi環境など“インフラの壁”です。この他に、子どもたちが休校になったことによる“育児の壁”もありますね。こうした壁についてお互いに認識し、コミュニケーションをしっかり取っていかなければならないと思います」(濱松氏)

自立しつつ、孤独を感じないコミュニティを作る

OECD東京センター所長の村上由美子氏。

この“3つの壁”の中では、「やはり意識の壁が一番高いでしょうね」と村上氏。

個人がプロとして自立していれば、リモートでも成果は出せる。

しかし、誰もがそうした働き方ができるわけではなく、孤独を感じる人も出てしまう。

これに対しては、「例えば有志のコミュニティを社内に作ることや、孤独を防ぐためにランチをオンラインでつなぎ一緒にたべる「バーチャル食堂」、また、今年の新入社員は未だリアルに出社していない人も多く彼らをオンラインで歓迎する「コロナ時代の新入社員歓迎・交流会」を開催するなど、社員の心理的なディスタンスを縮めて、『一緒に頑張ろう』と思えるような努力をしなければいけないでしょう」と濱松氏は指摘する。

自分のキャリアは自分で築く

海外では、従来から社員の多くが自立している環境にあると村上氏。

「日本の企業では人事が敷いたレールに乗っていくのが一般的ですが、海外では自分で自分のキャリアを築くという意識を、会社に入る前から誰もが持っています」(村上氏)

コロナを経て、日本の企業も新卒一括採用のメンバーシップ型ではなく、仕事に合わせたジョブ型雇用に加速度的に移行すると言われている。

「そこでは、成果をどう評価するか、会社でものさしを作ります。社員は会社から言われたことを受け身でやるということではなく、自分はこうあるべきだという意識を入れ込んで、『自分はこういう風に貢献できます』とか、『やり方はこう変えさせてもらいます』など、お互いが能動的に言い合えるような環境にしていかなければ、前に進むことはできません」(村上氏)

「上司」はもういらない?

&Co.,Ltd. 代表取締役 / Tokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏。

「若手からは、リモートワークを経て『上司っていらないよね』という声も上がっていますよね」と横石氏。

これには、「確かに、中間管理職の人たちは仕事がなくなるかもしれません。

『いらないよね』という声に、ひやりとした人は多いと思います」と村上氏。

「リモートワークが主流になり、顔を合わせずに、成果によって客観的に評価される時代になると、部下の評価という上司の仕事はなくなってしまいます。対人関係がいまいちでもアウトプットがあればいいという流れは、性格などの俗人的な評価を排除する大きなきっかけになると思います」(村上氏)

コロナ後の上司の役割とは

では本当に上司は不要かというと、そういうわけではない。

「オフィスに行かないことでリアルな切磋琢磨がなくなり、自分と違う価値観を持つ人と議論をぶつけるという、イノベーションでは重要な化学反応が起きにくいという弊害があります。そこをいかにバーチャルで実現できるかという付加価値を出せれば、上司の仕事は残ります」(村上氏)

つまり、管理職は生き残るとしても、仕事の内容は変わらざるをえない。会社としては、新しい中間管理職のマインドのあり方を検討しなくてはいけないという。

世界が変わる「ガラガラポン」が起きてしまった

「上司にとっては、『オレが生きている間には来ないだろう』と思っていたガラガラポンが起こってしまった。下剋上と言う人もいるし、日本が変わる最後のチャンスという人もいますが、これから上司に必要なのは“学び”です」(濱松氏)

今まではリアルな経験とカンで「オレについてこい」と言えたかもしれないが、これからはそれでは通用しない。

「上司のほうから部下に対して『一緒に考えよう』あるいは『教えてほしい』と言えるような素直さが求められると思います」(濱松氏)

依存するのではなく、自立した者同士が助け合う社会に

ここまで社会の構造について語られてきたが、個人のマインドとしてはどうだろうか。

濱松氏は、「社内外を問わず、自分が面白いと思う仲間と一緒に、好きなことをやっていけばいいと思います。これまでも副業が盛んになりつつありましたが、アフターコロナではさらに広がるのではないでしょうか」と指摘する。

自身が夫婦で約1年間の世界一周の旅をしたばかりでもあり、「会社との関係も夫婦やパートナーの関係と一緒。相手を尊重し、目的を共有して、依存しない自立した関係性を築くことが重要だと思います」と続けた。

村上氏は「コロナによって、世界、そして社会やコミュニティとの関わりの強さを実感しました」と言う。

助け合いの大切さや、ひとりではできないということを、皆さんが感じられたのではないでしょうか。自由な移動や外食という当然の権利を奪われ、死生観や幸福のあり方について考え直す人も多いと思います」(村上氏)

これからの不確実な世界を生きるために

質疑応答では、「社会が大きく変革する中、企業が新しいビジネスチャンスを掴める人を求めています。だからこそ、これからの転職や就職活動では、コロナの経験を強みに、私ならこういうことができるということを積極的にアピールするべき」(村上氏)という意見も。

最後に、「コロナ後にすべて変わるということではなく、ハイブリッドな生き方になると思います。VUCA時代(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語)になるとよく言われますが、曖昧で不確実な世界の中で、自分が自立すること、上司は学ぶこと、そして皆が外の世界の存在を知るということが求められます」(濱松氏)

「コロナという前代未聞のLearning opportunity(学びのチャンス)を経て、自分で今後のキャリアを築いていく意識をぜひ皆さんに持ってもらいたい」(村上氏)という意見で締めくくられた。

データをもとに、これからのあり方を社会と個人の視点から語った今回のセッション。中間管理職や若手など、それぞれに学ぶべきことが多い内容だったのではないだろうか。

MASHING UP SALON vol.2

働く意味と、これからの働き方と。OECDコラボサーベイから見えたこと

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