東京貧困女子”。

「東京」「女子」というかつてはきらきらしたイメージで使われていた言葉。

そして、今までどこか他人事だった(またはそう思いたかった)「貧困」という言葉。

そんな言葉たちが組み合わされたショッキングなタイトルの書籍が、目を背けてきた日本の現実を私たちに突きつけてきます。

現代の社会が抱える課題に気付かされる一冊です。

女子大生、シングルマザー……。周囲に頼れない女性たち

著者は大学時代から20年以上にわたりAV女優や風俗嬢を取材してきたノンフィクションライターの中村淳彦さん。本書東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか(東洋経済新報社)は、彼が「自らも非正規社員」だという担当編集者とともに続けてきた、貧困に苦しむ女性を追った東洋経済オンラインの連載をまとめ直したものです。

同連載のサイトでは、実際に貧困に苦しむ女性からのコンタクトを受け付け、ランダムに取材してい ます。女子大生、シングルマザー、派遣社員、介護職員、図書館職員、官僚の元妻など、さまざまな女性がこれまでに登場してきました。

そこで見えてきた共通点は、「困窮している女性は、周りに頼ることができない状況で、風俗で働いていたり、精神疾患を抱えていたりする割合がとても高い」ということでした。

大学生活を送るために売春で稼ぐ女子医大生

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ある女子医大生は、貧しい実家の家計を一切頼れない状況で、学費は奨学金、生活費はスーパーでのアルバイト、それでも足りない分を売春で稼いでいました。

無駄遣いしないし、なにも欲しいものはないし、部活をやって大学を留年しないで無事に卒業したいだけです。

それだけ。やっぱり月3万円くらい、どうしても足りない。
──『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』より引用

この記事がサイト上に公開されるとコメント欄は炎上。彼女が、練習時間が長く、遠征などでお金もかかる体育会系の運動部に所属していることを、身分不相応だとする人たちが「売春するくらいなら部活をやめろ」と批判したのです。

お金がないなら無駄づかいするな、たしかに、それは正論かもしれません。でも、苦労の多い暮らしの中で、唯一の楽しみが高校時代から続けてきた部活でした。彼女が自分らしく生きるために部活はどうしても必要だったのです。

「ほかにも方法があるのでは?」と他人は簡単に言えてしまいますが、彼女の日々の生活を生きているのは他ならない彼女。その辛さや難しさは彼女にしかわかりません

誰もが、普通の幸せを願っているだけ

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他の章に登場する女性達も、皆、自分らしい、ふつうの幸せを願っているだけ。それなのに、世界にはそれを妨げる、個人にはどうにもできない「ねじれ」があると読んでいて感じました。

本書には、日本の貧困にまつわるデータもちりばめられています。

いま、日本の「子どもの貧困率」は13.9%(2015年、厚生労働省「国民生活基礎調査」より)。なんと、7人に1人の子どもが貧困状態に陥っているといいます。また、私大生の全学生の半数以上が奨学金を借り、自宅外通学生の仕送り額は1994年の12万4900円から、2017年の8万6100円にまで減っています。

そして、著者はこう分析します。

自分たちが恵まれた青春時代を送った現在の大学生の親世代、祖父母世代はその苦境にまったくの無理解
──『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』より引用

2004年の奨学金制度の改変によって奨学金は年利上限3%の金融商品になりました。ですが、貸付には学生当人の返済能力は問われません。しかし、返済していくのは彼らです。月々の返済に苦しむ若者たちの何%かが、風俗や裏社会の仕事に足を踏み入れています

一方で、雇用の非正規化が進められたことにより、ある市の非正規職員は、生活保護とほぼ同額に設定された賃金で生活しています。職員として働ける期限は5年。期限が切れたあとの暮らしを恐れながら日々を過ごしています。

本書には、社会の強いねじれにさらされ、余裕を失い、心を病んで、追い込まれていく人々の言葉が、つぶさに記録されています。「自己責任」という正論とも思えるような言葉で片付けてしまっていた日本の現実。いつかこのねじれをなくすには、どうしたらいいのか——。

まずは「ひとりでも多くのケースを目撃することが必要だ」と、中村さんは語ります。この問題に気づくことで、私たちがとる行動も変わるかもしれません。

『東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか』

著者:中村淳彦
発行:東洋経済新報社
定価:1500円(税別)

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