以前ご紹介した『ハンバーガー・ヒル』やジャン=ポール・ベルモンド特集などのときにも感嘆したことですが、ソフトや配信の普及もあって、もう二度と銀幕ではお目にかかれないだろうと諦めていた旧作映画がこのところ続々とリバイバル上映されるようになっています。

そして今回、何と1980年代を代表する青春ダンス映画の名作『ダーティ・ダンシング』(87)が5月21日より東京シネマート新宿にて上映開始! その後、全国順次公開予定です。

ビル・メドレー&ジェニファー・ウォーレンによる主題歌《タイム・オブ・マイ・ライフ》が1987年度のアカデミー賞&ゴールデングローブ賞&グラミー賞の各最優秀主題歌賞を受賞したこの作品、当時の熱狂を知らない今の若い世代にもぜひ体感してほしいのです!

映画史上最も鳥肌が立つクライマックスのダンスシーン!

『ダーティ・ダンシング』レビュー:リバイバルされた1980年代青春ダンス映画の代表作とその軌跡!


エミール・アルドリーノ監督作品『ダーティ・ダンシング』は1963年の夏、避暑地にやってきた“ベイビー”こと17歳のフランシス(ジェニファー・グレイ)が、そこでダンス教師のジョニー(パトリック・スウェイジ)と出会い、まもなくして彼のパートナーとしてダンスの猛特訓を受けることになります。

まだアメリカがヴェトナム戦争に深く介入する前で、ケネディ大統領も暗殺されていなかった、ある意味平和で保守的なものが良識とされていた時代。一方では、ビートルズによる新しい音楽の波が世界を制覇する直前でもありました。

フランシスもまた“ベイビー”と周囲から呼ばれるほどのお子ちゃまだったのが、情熱的かつ官能的なダンスによる異性の汗と熱気に取り込まれ、次第に恋へ落ちていくわけですが、両親ら大人たちはそんな彼女の恋をなかなか認めようとはしません。

今から60年ほど前の時代を舞台にしつつ、今なお我が子に対して保守的になってしまう親が多いように思われる現代から振り返っても、本作の構図は実質そう古臭いものではないでしょう。

また、そういった保守的な時代の中でエロティシズムあふれるダンスを次々と繰り出していくことで、その錯綜もまた本作の大きな魅惑のひとつとなっていき、やがてはクライマックスの《タイム・オブ・マイ・ライフ》をバックにした一大ダンスシーンへと突入するのです。

この主題歌、それまでメインタイトルを飾るザ・ロネッツの《ビー・マイ・ベイビー》をはじめ、主体的に流れていたオールディーズ・ソングとは一線を画し(練習風景に流れるエリック・カルメンの《ハングリーアイズ》など、本作のために書下ろされた歌なども、いくつかさりげなく挿入されます)、1980年代ならではのダイナミズムを発露しまくっていて、その意味では時代が一気に60年代から(80年代当時の)現代へ駆け上っていくかのようなカタルシスがみなぎっていたのでした。

1960年代初頭の保守的なノスタルジーが内包する安楽な心地よさは、70年代のウーマン・リヴ的な過剰なものを一気に飛び越えて、もっと等身大のものとして輝いていたいと願う普通の女の子の行動に即した80年代の刺激的躍動感の心地よさへと変貌していきました。

さらにはそこに80年代から一気に台頭していくミュージック・ビデオ・クリップの一大ブームと呼応し合っていくことで、世界中の若者たちが虜になり、喝采。

そして、ついには「映画史上、最も鳥肌が立つダンス・シーン」として讃えられることにも繋がったのです!

主演のジェニファー・グレイとパトリック・スウェイジは、これ以前にアメリカを占領した共産軍に徹底抗戦する高校生レジスタンス集団の悲劇を描いた近未来戦争映画『若き勇者たち』(84)でも共演しており、ダンスシーンも含めて息の合ったコンビネーションを発揮。

またパトリック・スウェイジはこの後『ゴースト ニューヨークの幻』(90)に主演し、こちらも世界的に大ヒットしてスターの座を揺るぎないものにしますが、2009年に57歳で死去しています。

全体の3分の1をしめるダンス・シーンの振り付けを担当したケニー・オルテガは80年代ダンス映画を語るときに欠かせない才人で、2006年には『ハイスクール・ミュージカル』を、2009年には『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』を監督しています。マイケル・ジャクソンとも長年の仕事仲間で、最期のドキュメンタリー映画『マイケル・ジャクソンTHIS IS IT』(09)を監督したのも彼です。

なお本作はこの後、キューバを舞台にしたリブート的要素の強い作品『ダンシング・ハバナ』(04/パトリック・スウェイジも出演)が発表され、2010年代にはケニー・オルテガ監督でリメイクも企画されましたが、こちらは未だに実現できていません。

--{『ダーティ・ダンシング』へ至る青春音楽映画の軌跡}--

『ダーティ・ダンシング』へ至る青春音楽映画の軌跡

『ダーティ・ダンシング』レビュー:リバイバルされた1980年代青春ダンス映画の代表作とその軌跡!


『ダーティ・ダンシング』初公開時のクリーン・ヒットを目の当たりにしたリアル世代としては、そこに至るまでの青春音楽映画の流れをも想いを馳せてしまいます。

どのあたりをその起源にするかは人それぞれでしょうが、1960年代後半より勃興するアメリカン・ニューシネマの中では常に反体制的ロック音楽が鳴り響き、それらと呼応し合うかのように『ウッドストック 愛と平和と音楽の三日間』(70)のようなロック・ドキュメンタリー映画も数多く作られていきました。

そして1970年代、日本では『小さな恋のメロディ』(71)が大ヒットし、その音楽を担当したザ・ビージーズが再び映画主題歌などを担った『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)が、当時の『スター・ウォーズ』(77)などサントラ盤ブームの波に乗って、世界的に大流行。

主演のジョン・トラヴォルタは続いてロック・ミュージカル『グリース』(78)で当時の人気アイドル、オリヴィア・ニュートン=ジョンと共演し、そのオリヴィアも『ザナドゥ』(80)でロックとオールディズ・ムードを融合させたミュージカルに主演(往年のミュージカル・スター、ジーン・ケリーの出演も話題となりました)。

その他、ブロードウェイの反戦ロック・ミュージカルの映画化『ヘアー』(79)や、ダンサーを目指す若者たちの熱気を描いた『フェーム』(80)などを経て、いよいよ1980年代、音楽に画を重ねてプロモーションしていくミュージック・クリップが大流行していきます。

ラジオやテレビの深夜音楽番組がこうしたアメリカの洋楽とその映像一色に染まっていく中、まさにクリップ感覚で作られた青春音楽ダンス映画が『フラッシュダンス』(83)であり、『フットルース』(84)でした。これらの作品は当時音の性能を飛躍的に向上させたHifi機能を備えたビデオデッキの販売とも相乗効果をもたらし、かくして1980年代はミュージック・クリップ&ビデオ・ブームが到来していきます。

一方で80年代は若手スターによる『セント・エルモス・ファイアー』(85)『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(86)『フェリスはある朝突然に』(87)などの青春映画が華盛り。

そしてケニー・オルテガは『ザナドゥ』を手始めに実はこれらの青春音楽映画にも携わっており、こうしたキャリアを経て『ダーティ・ダンシング』の栄光へと向かっていったのでした。

一方ではこのあたりの時期より、いわゆる映画音楽ファンとしては、発売されるサントラ盤に本来の劇中音楽(スコア)を担う作曲家による楽曲ではなく、主題歌はもとより劇中に流れたのか流れなかったのかも定かではない歌ばかりが収録されるようになり、どうにも忸怩たる想いを抱き続けていたのも事実ではありました(そして、その傾向は今も続いています)。

もっとも、『ダーティ・ダンシング』は脚本段階からオールディーズ・ソングを意識した音楽構成にのっとって作られているので、そのサントラ盤にも違和感のないものがありました。



また”MUSICAL SCORE”としてクレジットされている作曲家はジョン・モリス。

『ブレージングサドル』(74)などメル・ブルックス監督作品の常連で、メルが製作したデヴィッド・リンチ監督の出世作『エレファントマン』(80)の音楽も担当した名匠として知られています。スティーヴィー・ワンダーの主題歌《心の愛》が大ヒットした『ウーマン・イン・レッド』(84)のスコアも彼の担当でした。

主題歌や挿入歌ばかりが映画音楽であると勘違いされがちな昨今、実は映画を音から支える真の功労者としての映画音楽作曲家の存在にも注目していただきたいと切に願う次第です。

(文:増當竜也)

--{『ダーティ・ダンシング』作品情報}--

『ダーティ・ダンシング』作品情報

ストーリー
1963年の夏。17歳の私(ジェニファー・グレイ)はまだ“ベイビー”と呼ばれていた。その夏は父が久し振りに休暇をとって一家で知り合いの山荘へ避暑に出掛けた。山荘に着いたその晩、ベイビーは山荘の経営者の孫ニールにダンスを誘われた。

そしてベイビーはホールでこれまでに見たこともないようなセクシーで激しいダンスをするカップルを見つけ、唖然とした。2人は山荘のダンス教師だった。その夜遅く、ベイビーはボーイのビリーに案内されて、従業員だけの秘密のダンスホールに行く。そこであのダンス教師に再会。

彼はビリーの従兄でジョニー(パトリック・スウェイジ)といい、早速、べイビーにダンスのパートナーを申し込んだ。あんな激しくセクシーなダンスはとても……拒否するベイビーだったが、やがてジョニーのいわれるままに自然に身体が動き出していった。そんなある日、ジョニーのパートナーのペニー(シンシア・ローズ)が妊娠していることが判った。相手はバイト従業員のロビーだった。責任逃がれをするロビーに変わってベイビーが父親から中絶費用を借り、ペニーにさし出すが、彼女はそれを受けとろうとはしなかった。

そしてさらに、ペニーの手術の日が彼女とジョニーの大事なショーの日と重なってしまった。困ったジョニーはベイビーに代役をたのみ、その日からベイビーの特訓が始まった。木曜日がきた。ショーはあっけなく終わった。いくつか失敗はしたが、ジョニーは「よくやった」とベイビーをほめた。山荘に帰るとペニーが苦しんでいた。

もぐりの医者による手術が原因だったが、ベイビーの父親の応急処置でことなきを得た。だが、父親はジョニーをペニーの相手だと思い、べイビーにも厳しくあたった。

やがて夏の終わりも近づいてきた。あれ以来、父親の不機嫌は続いていたが、ベイビーはジョニーにますます魅かれていった。ところが、今度はジョニーが盗難事件の犯人にデッチあげられ、結局、山荘を去るはめになってしまった。

夏の終わり。山荘でのお別れパーティの夜、盗難事件の真犯人も判り、父親のジョニーに対する誤解もとけたのだが、ジョニーの姿はない……。ホールでマンボが始まった。するとそこヘジョニーが現われた。感激するベイビー。2人のダーティ・ダンシングが始まった。

予告編


基本情報
出演:パトリック・スウェイジ/ジェニファー・グレイ/シンシア・ローズ/ジェリー・オーバック/ジャック・ウェストン/ジェーン・ブラッカー/ケリー・ビショップ/ロニー・プライス/マックス・カンター/ニール・ジョーンズ/ウェイン・ナイト/ポーラ・トルーマン

監督:エミール・アルドリーノ

公開日:2021年5月21日(金)

製作国:アメリカ