最新作『BECKY』監督コンビの出世作『ゾンビスクール！』『ブッシュウィック』の衝撃と潔さ！

(c)2020 BECKY THE MOVIE,LLCジャンル・ファンにとって毎年のお楽しみ、世界最古＆最大のファンタスティック映画の祭典“シッチェス”映画祭が公認する日本開催版、今年で8回目を迎える「“シッチェス映画祭”ファンタスティックセレクション2021」が、10月29日から東京ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪シネリーブル梅田、以後も名古屋シネマスコーレ、アップリンク京都などで全国順次公開予定。今回のラインナップの中で、早くもファンの間で話題となっているのが『BECKY ベッキー』（20）です。父親とその再婚相手らがネオナチ脱獄犯4人組に拉致されてしまい、13歳の少女ベッキーが色鉛筆や三角定規など年齢に見合ったアイテムを駆使して壮絶なる反撃に出るというストーリー。血まみれヴァイオレンス版『ホーム・アローン』か、少女版『ランボー』かといった戦慄のテイストで迫る、全米興行2週連続第1位を記録したヒット作でもあります。ヒロインを演じるのは『アナベル 死霊人形の誕生』の名子役ルル・ウィルソン。そして監督が、あの『ゾンビスクール！』『ブッシュウィック 武装都市』のジョナサン・ミロ＆カリー・マーニオンのコンビなのでした。今回はシッチェス2021開催および『ベッキー』日本上陸の予習復習として、注目監督コンビの前作2作品を再チェック！キッズVS教師の壮絶バトル『ゾンビスクール！』ゾンビ映画は数あれど、この作品のアイデアを実現させたこと自体がすごいというか、残酷描写などの規制が激しいアメリカで、よく企画が通ったものと驚嘆させられる内容。はい、この映画は小学校の子どもたちがゾンビ化しちゃうお話なのです。主人公クリント（イライジャ・ウッド／本作の製作も務めています）は小説家の夢をあきらめて小学校の臨時教師となったものの、初日から子どもたちにはなめられ、同僚の教員たちはなぜか変人ばかり……。そんな中、給食のチキンナゲットを食べた女の子が突如ゾンビ化し、周りの同級生を襲い始めたことから、次々とその数が増殖！しかも、なぜか子どもだけが感染するゾンビ・ウィルスのようで、大人が咬まれたら死ぬだけです。かくして学校は閉鎖され、校内ではキッズ・ゾンビＶＳ教師たちの壮絶バトルが開始されていく！……のですが、いくらゾンビになったとはいえ相手は子どもたちなのに、大人（しかも教師！？）たちの情け容赦ない反撃の数々に、「これでいいのか？」と驚嘆！ユニークなのが、闘う武器がラクロスのスティックだったりシンバルだったり、学校内の器具を駆使しているところで、このあたりの監督コンビのセンスは新作『BECKY』にも受け継がれているようです。日頃ナマイキな子どもたちへの鬱屈を晴らさんがごとく（！？）、マジにイカレているとしか思えないクレイジー教師たちは、大人気もなくヴァイオレンス！子どもたちも実際のところは人の心を失くした凶悪ゾンビになっているので、こちらはこちらで情け容赦なしのゴアゴア・モード！恐怖と阿鼻叫喚の地獄絵図を炸裂させながらも、なぜか妙にブラック・ユーモアにも満ち溢れたこのバトル、果たしていかなる結末を迎えるのか？『ゾンビスクール！』配信サービス展開一覧※2021年9月17日現在の情報□U-NEXT□ひかりＴＶ□TSUTAYATV□NETFLIX□Amazonビデオ□RakutenTV□iTunes□Google地下鉄を出たらそこは戦場？『ブッシュウィック 武装都市』大学院生のルーシー（ブリタニー・スノウ）は彼氏のホセを育ての祖母に紹介すべく、地下鉄に乗ってニューヨーク・ブッシュウィック駅へ赴きました。しかし、駅の構内は無人で、そこに突如地上から火だるまの男が降りてきた！ルーシーを置いて地上に上がったホセは黒焦げになって息絶え、意を決して彼女も地上へ上がったところ、そこでは市街戦が展開されていた！？何が何だかわからないまま戦場の真っただ中に立たされ、数々の危機に直面しながらも、途中で知り合ったスチュープ（デイヴ・バウティスタ）の助力を得てルーシーは祖母の家に到着しますが、祖母は既に発作で死んでいました。ルーシーは近所に住む妹と合流し、やがてこの戦いがアメリカ合衆国からの独立を目指すテキサスなどの南部連合によるものであること、非武装地帯から市民は脱出できることなどを知らされます。3人は非武装地帯をめざし、銃弾の飛び交う街を駆け巡っていくのですが……。かつてのアメリカ南北戦争が現代に再来！といった緊急非常事態を想定した戦争サバイバル・アクション映画。空は軍用ヘリなどが飛び交い、地上では銃撃戦が繰り拡げられ、乾いた発砲音とともに情け容赦なく人民が殺害されていく地獄絵図の中、ヒロインたちも戦わざるを得なくなっていきます。そんな本作の新たな挑戦が、およそ10カットほどの長回し撮影で94分の上映時間が成されていること。これによって映画を見ている観客も戦場の中にいるような臨場感を味わうことが出来るのです。そして鑑賞した人々の間で賛否両論真っ二つとなった、衝撃のラスト！これはぜひご自身の目で確認し、賛か否かを判断してみてください。『ブッシュウィック 武装都市』配信サービス展開一覧※2021年9月17日現在の情報□dTV□U-NEXT□Amazonビデオ□RakutenTV□iTunes□Google情け容赦ない徹底した姿勢と映画愛で迫る才人監督コンビ 『ゾンビスクール！』にしても『ブッシュウィック』にしても、突然のサプライズを基軸にドラマが展開していきます。なぜこんなことになったのか？ といった理由よりも、とりあえず目の雨で起きている非常事態にどう対処するかというサバイバルに焦点が絞られており、これはアルフレッド・ヒッチコック監督『鳥』などの影響も大きいものと思われます。『ゾンビスクール！』の場合、子どもたちの理由なき反乱という構図はスペイン製ホラー『ザ・チャイルド』のゾンビ版といったテイストを感じさせます。クライマックスの校庭バトルへと至る夜の校内脱出シーンは『エイリアン２』を彷彿させるものもありますね。『ブッシュウィック』の現代版南北戦争という設定もまた、アメリカ映画伝統の南北戦争劇の21世紀的な再生を彷彿させてくれるものがありつつ、一方ではイラク戦争などのPTSD問題などにもさりげなく言及。教会内での一連の描写は『オーメン』ではありませんが、こういった非常事態を前に神の存在が何の意味も成さないことが神々しく描出されています。こうした2作品および最新作『BECKY』を世に放ったジョナサン・ミロ＆カリー・マーニオンの監督コンビは、現代アメリカ映画界の若手監督の例にもれず、かなりの映画マニアで、そういった先達の作品群を糧として血肉にしながら新たな創作を試み続ける意欲的な才人コンビとみなして間違いありません。何よりも全ての作品群に共通する、情け容赦のない世紀末的様相をも呈したヴァイオレンス！こういった徹底した姿勢が、壮絶ながらもどこかしら潔い映画的醍醐味を満喫させてくれているのでしょう。（文：増當竜也）