Text by 佐伯享介
SM ENTERTAINMENTによるライブイベント『SMTOWN LIVE 2025 in TOKYO』が8月9日と10日に東京ドームで開催。所属アーティスト16組65名が出演し、両日約4万7,500人の観客を集めた。
K-POPの4大事務所(※)の一つとされ、今年で設立30周年を迎えたSM ENTERTAINMENTは、東方神起やSUPER JUNIOR、少女時代、SHINee、EXO、NCT、aespa、RIIZEといったアーティストを輩出してきた。所属アーティストが勢揃いするファミリーコンサートである『SMTOWN LIVE』は、2008年に初開催され、日本では2011年に初上陸。今回の2日間も含めて通算36回にわたって日本で開催されている。
節目の年に開催された今回の公演では、SM ENTERTAINMENTの歴史を示すとともに、現在と未来を鮮やかに照らし出していた。この記事では8月9日公演の模様を振り返る。
※韓国の4大事務所とは、SM ENTERTAINMENT、JYP Entertainment、YG Entertainment、HYBEを指す。BTSが所属するHYBEの登場以前は3大事務所と呼ばれていた。
SM ENTERTAINMENTの創業者である音楽プロデューサーのイ・スマン(現在はSMを離れて活動)は、ドキュメンタリー映画『イ・スマン:キング・オブ・K-POP』で自身のプロデュースワークについて「ビビンバのようなもの」と語っている。
違うジャンルを混ぜるのが好きだ。楽器を変えたり、テンポを調整したり。-ジャンルを混ぜるほど、より新しく多様化したものが出来て、さらに美味しくなる。K-POPをビビンバにたとえるのが一番理解しやすいかもしれない。
K-POPの開拓者であるイ・スマンの言葉が明示するように、アジアを中心に世界を席巻するK-POPの核の一つとなっているのは、強力な折衷主義である。R&Bやヒップホップ、EDM、ハウスといった既存の音楽スタイル、欧米のトレンドをそのまま踏襲するのではなく、さまざまに組み合わせることで沸き立つような音楽的エネルギーを生む。そうした「ミックス」の力学こそがK-POPを前へ、前へと推し進めてきた原動力なのだと言えるだろう。この日の東京ドーム公演においても、多種多様なミックスによって生まれる熱が随所から感じられた。
K-POP最初期の事務所であり、ことアイドルグループの分野においてはイノベイターであるSM ENTERTAINMENT。1996年、同事務所が最初に世に送り出したのが、ボーイズグループのH.O.T.だ。『SMTOWN LIVE 2025 in TOKYO』にはそのオリジナルメンバーであるKANGTAも参加していた。SMのレジェンド的存在であるKANGTAはソロパフォーマンスだけでなく、WayVのXIAOJUN、HENDRY、RIIZEのWONBIN、ANTON、NCT WISHのSION、YUSHIらとコラボし、H.O.T.の楽曲“Full of Happiness”を披露した。
K-POPには、デビュー時期によって世代を分けてグルーピングする慣習があり、2023年頃から今年にかけてデビューした最新のグループは「第5世代」とされている。K-POPアイドルの黎明期にデビューしたH.O.T.は「第1世代」。

KANGTA × MALE GROUP(XIAOJUN, HENDRY, WONBIN, ANTON, SION, YUSHI)(写真:田中聖太郎写真事務所)
多様な世代間のミックスは、SEULGI(Red Velvet/第3世代)xSUNGCHAN(RIIZE/第5世代)、HYOYEON(少女時代/第2世代)×YANGYANG(WayV/第3~4世代)×GISELLE(aespa/第4世代)といったコラボでも実施。昨年にYOASOBIの“IDOL”をカバーして東京ドームを盛り上げたCHANGMIN(東方神起/第2世代)×KYUHYUN(SUPER JUNIOR/第2世代)×SHOTARO(RIIZE/第5世代)のユニットが、今年はSNSでバズった“愛♡スクリ~ム!”のカバーを披露して会場を大いに沸かせた。
このように世代やグループの枠組みを超えた組み合わせでアーティストの新たな一面を目撃できるのも、『SMTOWN LIVE』の醍醐味の一つだ。ちなみに“愛♡スクリ~ム!”は日本のメディアミックス作品『ラブライブ!』シリーズの楽曲なので、世代のみならず、日本のサブカルチャーともミックスされたパフォーマンスだったということになる。

“愛♡スクリ~ム!”を披露したCHANGMIN × KYUHYUN × SHOTARO(写真:田中聖太郎写真事務所)
SMの名曲をカバーしたパフォーマンスも見どころだった。今年デビューし、『SMTOWN LIVE』初参加となったガールズグループHearts2Heartsは、少女時代の“Gee”で会場を盛り上げた。
EXOはH.O.T.の楽曲“闘志,Git It Up!”を、当時をオマージュした衣装で披露。ノスタルジーと現代性を巧みにミックスしてみせた。
Red Velvetによる少女時代“Run Devil Run”のカバーはジャズアレンジを施し、しっとりとした空気を表現。東方神起によるRed Velvetの名曲“Psycho”のカバーは楽曲に新たな生命を吹き込んでいた。SMの練習生で構成されるSMTR25は大先輩SHINeeの“Lucifer”、EXOの“Growl”をカバー。
ミックスのもう一つの実践とも言えるこうしたカバーでは、楽曲そのものが持つ強さを感じることができた。とくにイベント序盤に披露されたHearts2Heartsによる“Gee”のカバーは、誰もが知る名曲とあって、観客たちから『SMTOWN LIVE』に立ち会う喜びを引き出していたようだった。Hearts2Heartsのさわやかではつらつとしたパフォーマンスもこの楽曲にマッチしていた。
Hearts2Heartsといえば、リーダーのジウがMCで「練習生時代にaespa先輩の東京ドーム公演を見て、必ずこのステージに立つことを誓いました」と語っていたことが印象的だった(日本語の上手さも)。歌い継がれる名曲のカバーパフォーマンスから、そして『SMTOWN LIVE』のステージに立つ特別な気持ちを言葉にするMCの端々から、バトンを受け継ぐように続いてきたSM ENTERTAINMENTの歴史の息吹が感じられた。

Hearts2Hearts(写真:田中聖太郎写真事務所)
レジェンドから新人まで総勢65人が集った『SMTOWN LIVE 2025 in TOKYO』。どのアクトも大きな歓声を受け、ファンから愛されていることが伝わってきたが、とりわけ会場を沸かせていたのは今年でデビュー20周年を迎えるSUPER JUNIORだろう。

SUPER JUNIOR(写真:田中聖太郎写真事務所)
ヒチョルも加わった完全体でのステージを披露したベテランは、MCで「SUPER JUNIOR、20歳。SM、30歳。シンドン、40歳」と述べて会場の笑いを誘うと、その後は勢いのあるトークでふざけまくった。代表曲“SORRY, SORRY”や最新曲“Express Mode”を大歓声の中で披露。衰えることのないキレのあるパフォーマンスで喝采をさらった。
表現力やクリエイティビティの高さで観客を圧倒したのはKEY(SHINee)のソロステージだ。赤髪で登場したKEYは、新曲“HUNTER”をサプライズで披露。

KEY(SHINee)(写真:田中聖太郎写真事務所)
自らのビジョンを的確に表現する卓越したスキルに支えられたKEYのパフォーマンスは、祝祭感あふれる東京ドームに異世界を現出させるかのようなステージだった。MCでは「昨日、自分の家で染めました。SHINeeの初東京ドーム前日も、寮で自分で赤に染めたんです」とはにかみながら語る様子が感慨深げだった。もちろんMINHO(SHINee)のパフォーマンスも素晴らしく、瑞々しさを感じさせた。SHINeeとしてのステージをまた『SMTOWN LIVE』のステージで見ることを楽しみにしたい。
東京ドームが割れるんじゃないかと思わされるほどの絶叫、大歓声で迎えられたのがNCT 127。とくにラップのアカペラから流れ込んだ“Fact Check”は本イベントのハイライトと呼べる大盛り上がりのパフォーマンスだった。NCT DREAM、NCT WISHの歓声もものすごく、シズニの熱さを感じた。

NCT 127(写真:田中聖太郎写真事務所)
2023年のデビューから勢いの止まらないRIIZEも熱量の高い歓声を集めていた。終盤に披露した“Fly Up”は解放感にあふれ、本イベントのムードにマッチしていた。

RIIZE(写真:田中聖太郎写真事務所)
いまやK-POPのガールズグループを代表する存在となったaespa。四人が立っているだけでカリスマ性が溢れてくるというのか、とにかくかっこよく、会場の大半を占めていた女性客たちからも熱狂的に迎えられていた。

aespa(写真:田中聖太郎写真事務所)
ライブ本編は所属アーティストたちが歌う、『SMTOWN LIVE』恒例の楽曲“Hope from KWANGYA”でフィナーレ。ステージ上で肩を組んだり、笑い合ったり、ファンに語りかけたりするアーティストたちを見ると、開演から4時間以上も経過しているのに、こんな時間がずっと続けばいいのにという気持ちが湧いてくる。最後までファンたちに手を振り、ジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとするアーティストたちの姿が記憶に残った。
イベントを通して印象的だったのは、幅広い年齢層の観客が混在していたことだ。親子で楽しむ姿、友人同士で盛り上がる学生、一人で真剣に見入るファンの姿。多様な楽しみ方が許容される懐の深い空間は、創設30周年という歴史を誇るSM ENTERTAINMENTだからこそ実現できたものと言えるかもしれない。
終演後には『SMTOWN LIVE 2025-26 in FUKUOKA』が1月31日、2月1日にみずほPayPayドーム福岡で開催されることも発表された。福岡では初めての『SMTOWN LIVE』になる。どんなステージになるのか、今から楽しみだ。

写真:田中聖太郎写真事務所
東方神起 / Rising Sun
SMTR25 / Lucifer
SMTR25 / Growl
Hearts2Hearts / The Chase
Hearts2Hearts / Gee
NCT WISH / WISH(Japanese Ver.)
NCT WISH / Steady
RIIZE / Boom Boom Bass
RIIZE / Bag Bad Back
aespa / Whiplash
aespa / Dirty Work
XngHan&Xoul / Heavenly Blue + Waste No Time
SEULGI x SUNGCHAN / Bad Boy, Sad Girl
SUPER JUNIOR-M / ⾄少還有Ni(Korean Ver.)
KANGTA / My Life
MINHO(SHINee)/ CALL BACK
KEY(SHINee)/ Gasoline
HYO / Retro Romance
NCT DREAM / CHILLER
NCT DREAM / Moonlight
WayV / Give Me That(Korean Ver.)
WayV / Love Talk
NCT 127 / Walk
NCT 127 / Fact Check
SUHO(EXO)/ 1 to 3
CHANYEOL(EXO)/ 考えてみたら
KAI(EXO)/ Wait On Me
HYOYEON × YANGYANG × GISELLE / DESSERT
MARK × HAECHAN / +82 Pressinʼ
CHANGMIN × KYUHYUN × SHOTARO / 愛♡スクリ~ム!
KANGTA × MALE GROUP(XIAOJUN, HENDRY, WONBIN, ANTON, SION, YUSHI)/ Full of happiness
KEY(SHINee)/ HUNTER
MINHO(SHINee)/ Something About U
Red Velvet / Bad Boy
Red Velvet / Run Devil Run
EXO / 鬪志, Git It Up!
SUPER JUNIOR / Sorry, Sorry
SUPER JUNIOR / Black Suit
東方神起 / Psycho
SMTR25 / SM 30th Tribute Performance
Hearts2Hearts / STYLE
NCT WISH / poppop(Japanese Ver.)
RIIZE / Fly Up
aespa / Supernova
NCT DREAM / BTTF
WayV / BIG BANDS(Korean Ver.)
Red Velvet / Red Flavor
NCT 127 / 2 Baddies
SUPER JUNIOR / Express Mode
東方神起 / 呪文-MIROTIC
SMTOWN / Hope from KWANGYA