Text by 金子厚武
Text by 今川彩香
音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。
同じ服飾系の学校に通っていたfuki(Vo&Gt)とpupu(Vo&Key)によって、 2023年に結成されたiVy。ライブハウス発のバンドシーンと、インターネット発のクラブシーンをまたいで注目を集めている、と金子は紹介する。ドリームポップ、エレクトロポップ、シューゲイズサウンド……といったさまざまな側面を持つ楽曲をはじめ、Y2Kや「セカイ系」の雰囲気も感じるMVからも目と耳が離せない。
「2人が共鳴した『好き』を、同調圧力や冷笑に屈することなく発信していくエネルギーは、聴き手をエンパワメントする力を持っている」——iVyについて、金子はそう評する。2月26日には、空気公団を含む3アクトの自主企画『yoU've Got Mail』も控えるiVy。いったいどんなユニットだろう? ほかのバンドとの共鳴もたどりつつ、紐解いていこう。
音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい連載です。
ライブハウスを熱狂させるオルタナティブなバンドシーンと、SoundCloud(※)を出自とするインターネット経由のクラブシーン。現在その両方から愛されている新たなアイコンと言うべき存在が、Vo&Gtのfukiと、Vo&Keyのpupuによる2人組・iVyだ。
iVy
2023年結成。東京を拠点に活動するVo/GtのfukiとVo/Keyのpupuによるオルタナティブポップユニット。
iVyの結成は2023年。同じ服飾系の学校に通っていた2人がSNSを通じて出会い、音楽やファッション、さらには漫画やアニメの趣味が一致していたことから意気投合し、架空のキャラクター(iVyちゃん)をコンセプトにした宅録ユニットとして活動を開始した。
最初はSoundCloudやYouTubeで楽曲を公開していたが、2024年7月に初のEP『幽泳プログラム』を発表。作詞作曲の軸を担うfukiは現在cephaloというバンドでも活動していて、内省的な歌詞とシューゲイズサウンドの組み合わせは初期のきのこ帝国を連想させる部分がある。
しかし、fukiはボカロ、pupuはTommy february6などをルーツに挙げていて、宅録ユニットとしてスタートしているように、ドリームポップ~エレクトロポップ色が強いのも特徴だ。特に“kirakirakiller”はエレクトロポップ色が強く、中期のスーパーカーを連想させる。
アニメや漫画をモチーフにしたアートワークを使い、匿名性を重視するバンドこそ増えたものの、その先駆けである相対性理論にも通じる「セカイ系」っぽい歌詞や、Daokoにも通じるポエトリー含め、インディのバンドシーンの中でiVyの存在は明らかに異彩を放つ。“kirakirakiller”のMVではfukiとpupuがロリータ系のファッションで楽しそうに歌い踊り、シスターフッド的な雰囲気をまとってもいる。
「ivy=ツタ」は毒を含んでいるように、日々感じる心の内の痛みや鬱屈は消えないが、それでも2人が共鳴した「好き」を、同調圧力や冷笑に屈することなく発信していくエネルギーは、聴き手をエンパワメントする力を持っていると言えるだろう。
「20年代型ネオ解釈邦楽カバーコンピレーションアルバム」と銘打たれ、主に00年代~10年代の邦ロック / J-POPの名曲(相対性理論やTommy heavenly6も含む)を、バンドやトラックメーカーを横断するかたちでカバーした『i.e』にも、iVyが参加している。
また、fukiはsafmusicとTelematic Visionsによる、くるり“ばらの花”のカバーにもフィーチャリングで参加しているが、“ばらの花”の原曲でコーラスを担当しているのもスーパーカーのフルカワミキで、2000年代のアイコンだったミキと2020年代のアイコンであるfukiのリンクも面白い。
2025年6月には、iVyとして初めて作った曲である“Prologue”の歌詞からタイトルを取り、「ずっと描き続けた日記を集めたメモリアルアルバム」として、1stアルバム『混乱するアパタイト』を発表。
『混乱するアパタイト』ジャケット
『幽泳プログラム』よりもプロダクションが明らかに向上していて、ドリームポップ的な側面とシューゲイザー的な側面の両方を進化させた、2025年のインディシーンを語るうえでは外せない作品の一つに仕上がった。前者の方向性では“ヴァンパイア”、後者の方向性では“any n◯ise”が特に素晴らしく、現在のiVyを代表する2曲だと言っていいだろう。
どちらのMVもブラウン管テレビのような荒い画質が特徴で、Y2K的なノスタルジーを感じさせるのだが、個人的に印象的だったのが“any n◯ise”。マジックアワーの砂浜で佇むfukiとpupu、女性と子どもが登場し、<声が届くまで 君の近くにいたいよ 僕が言葉を失っても 消えないように><I think it’s best we go our separate ways>と歌われるこの曲。それは大人と子どもの狭間で揺れる戸惑いをエモーショナルに表現していて、「混乱するアパタイト」=「未来に対する期待と不安」というアルバムの主題を象徴する一曲であるように思う。
アルバムのリリース後、8月15日に渋谷WWWで開催された初のワンマンライブ『秘色庭園』では、通常のユニット編成に加え、フルバンドセット、セッション形式の「iVy コンテンポラリー・パーク・オーケストラ♪」の3形態で演奏。フルバンドセットにはギターに京英一(雪国)と山北せな(ひとひら、その感激と記録)、ベースに田中慧(yonawo)、ドラムに木幡徹己(雪国)と、インディシーンの精鋭が集められていたのも、iVyへの期待値をさらに高めるものだった。
昨年10月にリリースされた最新曲“ゆがむ ぴんく”もバンドサウンドとプログラミングを織り交ぜたiVyらしい仕上がり。
ギャルファッションに身を包んだ2人の雰囲気やゲーム的な世界観が、Tommy february6同様に世界でバズを生んだHALCALIのような、ジャパニーズY2K的な捉えられ方をしているのかもしれない。
今年1月に公開された“ファミレス☆ロック”のミュージックビデオはDos Monosの没 a.k.a NGSが監督を務め、パソコン音楽クラブの柴田、楽曲でもコラボレーションをしているシンガーソングライターの穂ノ佳、iVyをサポートするWOZNIAK / DALLJUB STEP CLUBの星優太ら多数のゲストが参加。そのクリエイティブなつながりと広がりを強く感じさせるものだった。
2月26日に開催される自主企画 『yoU've Got Mail』には、iVyの他に空気公団と~離(DJ)の出演が決定。1997年から活動を続け、シティポップとのリンクでも語られる空気公団とiVyは世代も音楽性も大きく異なり、最初は意外な組み合わせにびっくりしたのだが、10年前にCINRAで行ったこのインタビュー(「空気公団って何者?SCLL藤枝が語る2010年代を先取りした音楽集団」)を読んでもらえれば、その謎も多少は解けるかもしれない。
「まず音楽ありき」の精神で、相対性理論よりも先に匿名性を重視した活動を行い、「グリーンピースくん」というキャラクターを作った初期から、徐々に開かれた活動へと変化し、さまざまなジャンルのクリエイターとのコラボレーションによって、その世界観を拡張していった空気公団の歩みは、まだわずか3年ではありながら、iVyの歩みとたしかにリンクする部分がある。自分たちの「好き」を信じて、周りに迎合しないその姿勢は「パンク」と言ってもいいもので、iVyが多くのクリエイターから支持されているのもその精神性が大きいと言えるだろう。
『yoU've Got Mail』フライヤー
iVyのSNSアカウント「ivy_atlantide」はアトランティス島から「架空の天国」をイメージしてつけられたという。架空の街をつくり、そこで暮らす人々の心情を描写する空気公団と、架空の天国をつくり、そこで生きる人々の心情を描写するiVy。どんな化学反応が起きるのか、非常に楽しみな一夜である。


![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)








