三者三様のホールド物語
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“人気になるのは、セッターさんのおかげ”

ホールド輸入業を始めたのは、1997年に大阪でクライミングジム「CRUX」を開業する少し前でした。今と比べると輸入代理店もホールドの種類もまだまだ少ない時代。その当時に過去に類を見ない新しいホールドを出していたのが「Pusher」でした。
「Teknik」がここまで有名なメーカーになるとは予想していませんでした。なにせ「The Boss」(写真)のように突拍子もないサイズや複雑さ、奇抜さのほうが評価される時代でしたので。それに比べると「Teknik」は見た目がシンプルで、味気ないというか。反対にトレーニングには持ってこいで、小型で手順調整などもしやすく、セッティングがしやすいんですよ。だからジムで使うのには良かったんだと思います。でも、これはどのメーカーさんもそうだと思いますが、人気になったのはセッターさんのおかげです。彼らの創造性と挑戦が、ホールドの新次元の料理法や感動的な選手の登りを見せてくれる。ホールドの魅力を発信してくれるんです。
自分が登っていて、かつホールドの流行りについていける限りは、この仕事を続けていくと思います。「こういうシェイプもあるのか」と驚かされることはありますが、でもまだ「なるほどね」っていう感じで。
平嶋元
“昨年、念願だったシェイプを始めました”

僕がクライミングを好きになったきっかけはホールドなんです。クライミングを始めた23歳の時、当時いた新潟にできたジムに行ったところ、「Stone age」というブランドのホールドをすごく気に入ってしまい、思わずジムの人に「貸してください」って言ったんです(笑)。レモンを半分にして巨大化したような形で、いわゆるスローパーなんですけど、初めての僕にそんなの持てるわけがなく、でもそれを掴んで登っている人がいた。あまりにも不思議だったし、そういった形状の存在にすごく違和感があり、逆に興味が湧いて「明日も来るので、ちょっと貸してもらえますか?」って。そのやり取りが何度かあって、そのたびに壁に付いていたものを外してもらいました(笑)。
家でもずっと持っていたくなっちゃうんです。いろいろな形状があることに、純粋に惹かれてしまったんですね。自宅には昔からお気に入りのホールドを飾ったり手元に置いたりしています。ずっと触っていると落ち着いて、ジムでもホールドを触りながら会話したり。セッターにそういう人は多い気がします。
ホールドには可能性があります。
2019年から「TENTOMEN」というホールドメーカーが動き出し、その一員として念願だったシェイプをしています。2021年春頃の発売に向けて、試行錯誤を繰り返す日々です。様々なブランドのホールドが仕上がってきている中、僕らは新参者なので、しっかり努力していかなくちゃいけない。身が引き締まる思いです。
植田幹也
“解説者としてホールドの魅力も伝えたい”

今回の座談会であらためて木織さん、(平嶋)元さんはホールドが本当に好きなんだなと、相当な熱量を感じました。木織さんはご自身でホールドを輸入販売されていますし、元さんは一度自宅にお邪魔したことがあるんですが、家の壁にホールドを絵画のように飾っていたほど(笑)。それに比べたら僕なんかはまだまだニワカで、知らないことが多かったです。
僕がホールドに対してもっと知識を得ようと思ったきっかけは、大会で実況解説をするようになってからです。例えばインスタグラムで片っ端からホールドメーカーをフォローしまくって、情報をキャッチするようにしました。ホールドの種類がわかっていないと持ち感などがわからず、解説する自分が課題の難しさを把握できませんから。
クライミング仲間とホールドの会話をすることも多いです。僕が店長を務めている「ライノ&バード」(東京都荒川区)では、スタッフが個人でホールドを購入するくらい好きで、ジムのセットで付けるのに自費で買ったり、日常的に「ヤフオクでこんなのが出てたよ」といった話をしたり。やっぱりみんな、ホールドが好きなんですよね。