いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。


今回は、西国分寺の喫茶店「ガルリカフェ」をご紹介。

○80年代カフェブームを思い出す、ノスタルジックな店

西国分寺の北口を出たら、迷う間もなくすぐ目の前。目印は「おいしいコーヒー・紅茶とケーキをどうぞ」という看板と、「galerie CAFE」という文字が入った赤いフロアマット、そして立て看板くらい。

しかも、お店があるのは狭い階段を上がった2階。

ただでさえ目につきくいのに、隣の焼き鳥屋さん(地元では有名なお店らしい)の壁にかかっている「とりあえずビールがおトク!」という広告のほうが目立っていたりするので、なんとなく「ビールがおトクなカフェ」であるかのような誤解を生みそうな感じ(いや、さすがにそんなことはないぞ)。

にしても、絶好のロケーションでありながら、ともすれば見逃してしまいそうなのは事実。
それでいて、いろんな意味で気になるお店でもあるーー。

今回ご紹介する「ガルリカフェ」は、そんなお店です。

めったに降りない西国分寺で用事があった際、たまたま見つけたんですよ。でも、駅真正面のこういう場所に、こういうちょっと個性的な喫茶店があるとなると、そりゃー興味を引かれるわけですさ。

階段を上がると右側に、ガラス窓の入ったこげ茶色のドアが開いたままになっています。足を踏み入れると、すぐ目の前に現れるのは湾曲したカウンター。


印象的なのは、そのカウンターの右側にある出窓前の席。

木製の大きなテーブルで、古いタイプライターが置いてあったり、アンティークっぽいランプが灯っていたりもするのです。だから、なんだか誰かの書斎にお邪魔したかのような気分になれるんですよねー。

とても雰囲気がよかったものですから、最初はその席にしようかと思ったんです。でも気が変わり、その脇、すなわち右の窓際の席に座ることにしたのでした。そちらは格子窓から陽が差し込んでいて心地よかったし、お店全体を見渡すこともできるなと思ったから。


事実、その席から改めて左側を確認してみたところ、奥に4人がけのテーブル席があることに気づいたりもしました。決して広いお店ではないのだけれど、いろんな表情が備わっているといえそうですね。

ちなみに喫煙できるようで、もともとは白かったのであろう壁もいい感じにすすけています。とはいえ、少なくとも僕がお邪魔したときにたばこの匂いはしなかったし、壁の色もむしろいい味。

少し前、阿佐ヶ谷の「カフェド・フー」というお店をご紹介した際にも触れましたが、1980年代にはチェーン店「カフェ・ラ・ミル」を筆頭に、こういう雰囲気の喫茶店がたくさんあったものなのです。当時はそれらの店によく行っていただけに、こういう空間にいると、いろんなことを思い出してしまいます(青春時代特有のお粗末を含む)。


さて、メニューを見てみると、やはり基本的にはコーヒー専門店のよう。「かるいお召し上がりもの」と表記があるように、食べものはクロックムッシュとかトーストとか、あるいはケーキ類程度。でもランチのあとだったし、コーヒーが気になったので、店名を冠した「ガルリブレンド」をお願いすることにしました。

伺ったのは13時すぎ。他にお客さんがいなかったこともあって、とてもゆっくり時間が流れています。窓から外を眺めてみれば、眼下には静かな西国分寺駅前の日常。


いい雰囲気だなー。

これは悪くない出会いだったかもしれません。せっかくなので読みかけの本を開き、貸切状態でひとときを楽しむことにしましょう。店内にはオルガン楽曲(たぶんバッハ)が流れていましたが、邪魔にならない適切な音量なので読書もはかどりそう。

やがて運ばれてきた「ガルリブレンド」の深い色を目にしたときに思い出したのは、やはり80年代のカフェブームのことでした。

70年代の喫茶店で出てきたコーヒーとも、近年のサードウェーヴ系コーヒーとも異なる、独特の深みのある味。
どうやらオールドビーンズをお使いになっているようですが、時流に左右されることのない普遍的な味わいであるといえます。

マスターはかつて、都内の同名店で働いていた方なのだそう。ってことは、かなり昔に銀座のコリドー街にあった「ガルリカフェ」の流れを汲んでいるわけか。もっと詳しく聞いてみるべきだったかもしれないけど、なんとなく謎が解けたぞ。

ちなみにこの地に店を開いたのは、27年前だったのだとか。1996年ということになりますから、がっちり平成ですね。でも、それ以前の変遷を確認してみれば、源流が昭和にあることは間違いなし。

なので、昭和カテゴリーに入れて差し支えのないお店だといえるのではないでしょうか。
西国分寺って頻繁に立ち寄る駅ではないけれど、いつか近隣に用事ができたら、またお邪魔してみよう。

●ガルリカフェ
住所: 東京都国分寺市西恋ヶ窪2-3-1
営業時間: 平日11:00~23:00、日祝11:00~22:00
定休日: 月曜日

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら