順調に事業を伸ばしてきた経営者や、部署・チームを持たれるマネージャー、人事、意欲的な若手社員の方々から、「私の会社で色々な組織課題が出ており、手を打っているがうまくいかない」という相談を頂くことがあります。各社それぞれ試行錯誤をしていらっしゃいますが、その中での苦悩は少なくありません。


どのような考え方のもとで、どんな仕組みを取り入れているのか。たとえば急成長したベンチャーなど、他社の組織づくりの事例は大いに参考になります。前回に引き続きAlphaktの流石さんに、具体的な取り組みを中心にお話を伺います。

誰が社長になっても継続していく組織にする


――組織作りについて、数値目標を伝えるときに楽しめる設計にしているとのことでしたが、工夫やキーファクターについて具体的に伺えますか?

流石氏:まずは「KPIが同じ利害関係になっているか」を重視しています。例えば、営業組織や採用組織など複数のチームが連動するときなどは特に重要です。KPIは異なるけれど、他のチームのために頑張ってもらう場合に、追加KPIを持ってプラスの報酬設計をするなど工夫をしています。

自分のチームのミッション以外にも成果に貢献したのに、評価されない状態は疑問や不満が生まれてしまうので、感情の違和感を取り除く施策を講じています。
感情の違和感は全員が全員持つわけではないですし、はっきり伝えてくるわけでもありません。なので、チャットやミーティングの中での雰囲気などからキャッチできるようにしています。

――それがビジネスマネジメントシートの「シンセシス」に該当するんですね。感情の違和感に気づける関係性や距離感の組織、フラットな組織を目指しているように感じました。

流石氏:あえてカリスマ型の組織にせず、誰が社長になったとしても回るような組織設計を意識しています。そのためにも、私自身がいつでも相談しやすい存在であることを意識していますね。


例えば、目標未達だった時に「なぜ未達だったんだ!」など詰問するような感情的なコミュニケーションをとらずに、達成しなかった要因は何かを客観的に抽出して一緒に改善策を考えることを意識しています。
怒られると思うとどうしても相談するハードルが高くなってしまうと思います。
原因をメンバーではなく、組織側・仕組み側に求めることが、業務委託も多い組織のマネジメントでは重要なので、メンバーとの距離がさらに近いマネージャーにも同様の立ち居振る舞いを求めています。

カリスマ型の組織のほうがマネジメントはしやすいと思いますが、これからの組織設計を考えたら現在の形が最適だと感じています。

――より難易度の高いところにチャレンジできているのはなぜでしょうか?

流石氏:私自身がアンガーマネジメントであったり、コミュニケーションのテクニックなども学んで、「感情的なコミュニケーションをとることで、他者が変わることはない」という考えを持っているので、客観的に考えてどうしたらよいかを考える習慣が根本にあるのだと思います。

どんな人にもいいところがあるので、それを抽出してその強味を発揮してもらえる組織にできたら理想だと思っています。

変化を実感できるところまでをパッケージにする


――かなり細かいところまで意図をもってビジネスマネジメントシートを作られていることが伝わります。拝見すると「パッケージ」に面白いキーワードがありますが、5分ロープレとは何でしょうか?

流石氏:5分ロープレは、優秀な営業マンになるための要素を獲得するための訓練を、パッケージにしたものです。

営業のコツをまとめた虎の巻やマニュアルを作る起業も多いと思いますが、なかなか読まれなかったり、読んでも身につかなかったりすると思います。マニュアルが身になりにくいのは知識として入っても、行動というか実践に結び付いた設計になっていないからだと考えて、しっかり行動してスコア化するところまでをセットにしています。

たとえば、1回目のロープレは65点だった場合、次回スコアを上げるための改善点を渡します。2回目は前回の改善点を克服して85点になる、そんな流れで自分の弱点や営業の穴を埋めていける設計にしています。ロープレを受けている本人も、スコアを通じてスキルアップしていることを実感できるようにと考えています。


――成功体験を通じて身になるようにしているんですね。もう一つ、念仏とは何でしょうか?

流石氏:念仏は、ミッションやバリューの浸透を繰り返しの行動で根付かせるものです。

伸びている企業で毎日朝に口に出すことで、浸透を図っているという話を複数聞いていて、私自身もピザのデリバリーでアルバイトをしていたときのことを思い出して納得したんです。配達前に出入り口で必ずポスターを声に出してから出発することがルールで決まっていたんですが、やはりそこに意識がちゃんと向くようになると感じました。その時のポスターは「安全運転で笑顔で行ってまいります」という内容で、言葉にすることで頭に残るんですよね。

一方で、これが浸透を成功させる唯一解とは思っていないので、他の方法も模索しています。
人によっては、このようなアプローチに疑問を感じたり、ミスマッチを覚えたりもすると思います。例えば、営業組織は比較的フィットするけれど、エンジニア組織にはフィットしないかもしれないとなど、組織の性格に合わせてアプローチは考えていきたいです。

妥当性の検証と納得感の醸成ができると、生きた目標になる


――次に「モニタリング」の成果とプロセスの管理について、体系立てているものについて教えてください。

流石氏:モニタリングが営業力やコンサルティング力の大半を占めていると考えていて、成果とプロセスの両方を追うことが自分のためになるということがわかるようにしています。Monthlyでは全てのチームが取り組んでいるものがどう関係しあっているのかが可視化できるKPIマップを都度共有しています。リボン図で表現しています。


流石氏:Weeklyでは粗利の着地予想を見ていて、各チームのリーダーから報告をしてもらっています。Dailyでは行動結果に関して現状と改善の目標や行動内容などをSlack上で報告してもらっていますね。他にもKPI達成率が高い方やプロセス達成率が高い人には、要因なども含めて報告してもらって、仕組化につなげていきたいと取り組んでいます。
またモニタリングも重要ですが、作ったKPIが正しいのかの検証が一番難しいと思っていて、MECEに作ることも、検証して妥当か判断することも毎週議論しています。

――妥当性の検証と並んで、納得感の醸成も難しいテーマだと思いますが、いかがですか?

流石氏:妥当性の検証は、達成できているかはもちろんですし、どう頑張ってもこの目標では60%しか行かないという場合、早めにその見通しに気付いて私がテコ入れをしています。

納得感の情勢は、メンバーやマネージャーから目標に対して違和感を訴えられることはないですが、「うちの会社は目標が高すぎるんだ」など、不満や愚痴などで上がってくることはあります。こういうケースの原因は妥当性よりも納得感がないことが多いです。

納得感を醸成するために、なぜこの目標なのかを具体的な背景や比較対象を併せて伝えるようにしています。例えば、類似している上場企業のLTVや決算短信など公開されているものをベンチマークとして、それらと比較して自分たちのポジションからどうなっているから、この目標にしているという伝え方です。

――目標だけが共有されるのではなく、設定プロセスがわかると理解しやすいですね。他にも発信していることはありますか?

流石氏:念仏は、ミッションやバリューの浸透を繰り返しの行動で根付かせるものです。

納得感を醸成するというのは現在地と道のりに納得することだと思いますが、このまま進んでいったらどうなるのかという到達点まで浸透することが重要だと考えています。この目標を追うことで組織がどうなっているか、このまま成長していったら3年後、5年後に自分たちがどの会社と肩を並べることになるか、具体的な比較対象を見せるようにしています。目標浸透度までケアするイメージです。

――今回は、Alphakt社の組織作りとタレントマネジメントに着目し、KPI設定やカリスマ型を避けた組織の運営、独自の訓練法「5分ロープレ」を紹介しました。これらの視点や手法が読者の組織作りやマネジメントへの新たなヒントとなることを願っています。

権藤悠 ごんどうゆたか 株式会社キーメッセージ代表取締役。慶應義塾大学理工学部情報工学科卒。「持続的な企業成長の基盤となる、個人中心型の組織人事開発」をテーマに、株式会社キーメッセージを創業。過去、組織マネジメント・人事変革をテーマに合計社員数20万人以上の各業界企業を支援。その取組みがテレビ東京ワールドビジネスサテライト、日本経済新聞、雑誌Pen+等で取り上げられたことも。創業以前には、システム開発会社で人事・広報マネージャーや新規事業開発を担当。その後、株式会社ZUUで人事マネージャーを務め、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に経営コンサルタントとして入社。企業のDX実現に向けた組織・推進体制構築や人材マネジメント・育成の効率化・高度化をテーマとした組織人事・人材マネジメント変革・HRTech変革を構想策定、戦略構築、設計から運用まで参画・推進している。 この著者の記事一覧はこちら