順調に事業を伸ばしてきた経営者や、部署・チームを持たれるマネージャー、人事、意欲的な若手社員の方々から、「私の会社で色々な組織課題が出ており、手を打っているがうまくいかない」という相談を頂くことがあります。各社それぞれ試行錯誤をしていらっしゃいますが、その中での苦悩は少なくありません。


どのような考え方のもとで、どんな仕組みを取り入れているのか。たとえば急成長したベンチャーなど、他社の組織づくりの事例は大いに参考になります。今回は、アクシスコンサルティング株式会社 常務取締役 伊藤さんに「これからのハイエンド人材のキャリアパス」と「人的資本経営実現のエッセンス」を中心にお話を伺いました。

アクシスコンサルティング株式会社
2002年創業。「人が活きる、人を活かす。」の理念を軸に、コンサルティングファームやIT業界へのハイエンド人材紹介を強みとして、社会や産業が求めるハイエンド人材の最適配置の推進と、ハイエンド人材が持つ能力・スキルのシェアリングを拡大・浸透させるべく、人材紹介とあわせてスキルシェアの複合サービスを提供している。

優秀人材のシェアリングは三方よしの可能性を秘める


――DXや生産性の課題を生む根本的な課題やそれを生み出す背景についてお聞かせください。

労働人口とビジネスの回転スピードの2点が考えられると思います。
アメリカと日本の労働人口を比較すると、アメリカは日本の2.5倍ぐらいの労働人口がいまして、IT人材に限ると4倍ぐらいいます。それだけの人数がいても、グローバルで見て人材不足の状態です。IT人材になりうる情報系の大学生に関しても、アメリカは毎年増加している一方で日本は少子化も相まって毎年減少しています。

特にデジタルの領域も、若い人の方が得意なはずなのに若い人がいません。第二次ベビーブームの世代が50代に入ってきましたが、この世代と比較すると今の大学生の人数は60%程度です。

ビジネスの回転スピードは人材の流動性と関係が深いと思いますが、日本では生涯3.5社ぐらい勤めるのに対し、アメリカは10.5社ぐらい勤めると言われています。
単純計算すると、アメリカ人は3~4年に1回くらい転職することになります。ビジネスのサイクルは3~5年が多いといわれていますので、ほぼ連動しているといえます。自分のスキルや価値が所属する会社の中で標準化・平準化されると転職していくので、ビジネス側も次のステージに移らざるを得ないし、人材も常に自分が価値貢献できる場所に動いていく・動いていけるように考えるわけです。

――そういった潮流の中で、IT人材を筆頭に企業とマッチングするところが肝になると思うのですが、こういった背景から現在の事業に取り組まれたのでしょうか?

労働人口が減ると、産業全体や国全体の生産性も下がってきます。2050年に向けて20-25%労働人口が減ると予測されている中で、生産性を国として上げていくために取るべき方法は3つしかないと考えています。

1つ目はオペレーティングな仕事をITに代替していく方法です。
もう2つ目は高付加価値でクリエイティブな業務が可能なハイエンドな人材をシェアリングしていく方法(スキルシェアリング)、3つ目にそのようなハイエンド人材の流動化を推進していく事。この3つの組み合わせ解決していくことが重要と考えています。つまり、すでに足りていないことが明らかなDXなどのハイエンド人材をどう確保していくか、ということです。先にお話しした通り、労働人口が減っていきますのでシェアリングしていくことはもちろんなのですが、高付加価値なことを考える人やそういった仕事を作る人は、10年後20年後に確実に減っていくことを念頭に置いて考えなくてはいけません。

優秀な1人が1社に対して価値提供していくのではなく、優秀な1人が3社に対して価値提供して行く世の中も作っていかなくては、と私たちは考えています。大手コンサルティング会社を中心に副業を解禁したので、副業スキームを使ってリーズナブルにコンサルティングを活用できるサービスを考えるに至りました。


――企業の生産性という意味でも、個人が社内業務と副業を通じてキャリアを開発し、そのスキルをシェアしていくのは市場全体としては大きな潮流になっているといえるでしょうか?

そうですね。副業・兼業をしながらも優秀な人材、いわゆるハイエンド人材のスキルがシフトしていくというのも、この次のステップと言わず、同時に目指したい世界観です。

例えばSFA(Sales Force Automation)などの導入コンサルタントであれば、Salesforceの構造を理解してデジタルマーケティングの概念も習得できているので、「シンプルなデジタルマーケティングであればアドバイスできる」はずです。加えて、副業などで「デジタルマーケティングのアドバイスを中小企業10社に対して行った」となれば、その人のキャリアはSalesforceの導入コンサルタントとデジタルマーケティングのアドバイザーという2つのスキルを持っているといえます。そこから、この2つのスキルを3社へシェアリングできるようになれば、当初のスキル1つだけ持っていた時に比べると、活躍できる範囲が変わってきますよね。本人のキャリアも変わってきますし、世の中の人材活用のあり方も変わってきます。


また、SAPなどERP(Enterprise Resources Planning/企業資源計画)システムの人事モジュールを導入した経験のある人ならば、人事システムの導入のコンサルティングはもちろん、中小企業であればビジネス・業務領域の人事コンサルティングが可能です。大手のコンサルティング会社の顧客は大手企業が中心ですので、副業・兼業などで中小企業・ベンチャー企業等の企業に対するコンサルティング経験を積むことはキャリアパスとしてもプラスになります。

コンサルティング会社に在籍するコンサルタントであれば、キャッチアップするスキルがあることがすでに前提としてあるので、副業で新しいものを取り入れ、何かを得ていくという経験の積み方などは合っていると思います。特に中小企業・スタートアップ企業など、これから変革や成長していくフェーズで経験を積むことができれば、価値の還元と同時に新たなスキルの開拓が両立できるでしょう。

――コンサルティングスキルがあるだけでも構造化や推進の場面で重宝されますね。

ITコンサルティングを長く提供している人も、少し視点を変えると、ビジネスのアドバイスも提供できます。
特にSAPなどのERPシステムを導入するコンサルタントは、システム導入時に業務改善をしますしPMO(Project Management Office/プロジェクトマネジメントの支援)の経験もある場合が多いです。業務改善やBPR(Business Process Re-engineering)の経験があるので、この領域の経験・スキルを副業・兼業で磨いていけばキャリアは変わっていきます。

――持っているモノやサービスや考え方はいいのに、外部人材をうまく活用できてないような中小企業が気軽に外部の意見を入れて、より可能性を広げられるというのはいいですね。

今はオンラインで色々な事ができるようになりました。コンサルティングファームのプロジェクトもオンラインで進めるケースが増えおり、以前と比較するとプロジェクトルームに常駐するプロジェクトは減ってきています。

副業のスキームを使うと、例えば昼間は本業で東京の大手企業A社の経営企画に対して戦略のコンサルティングをしているコンサルタントが、副業で夕方に九州にある中小企業B社の社長の壁打ちをするということも可能です。オンラインでコンサルティングが完結することがこの3年間で証明されたので、中小企業やローカル企業がこの仕組みを活用することができれば、大きな恩恵を受けられると思っております。今までコンサルタントの活用が難しかった中小企業・ベンチャー企業にとっては大きなチャンスだと思います。

――スキルの整理ができていないが故に、すでに確立されたキャリアパスしか選択肢にできない人が少なくなく、それが日本全体の生産性に大きな歪みをもたらしているように感じます。

コンサルタントの場合、大手事業会社の企画部門に転職するか、同業のコンサルティングファームへ転職するかというキャリアパスを考えていた人が、副業を経験することにより、今まで考えていなかったキャリアや選択肢を広げてもらえたらと思いますね。中小企業にスポットでアドバイスをするなどして、裁量の大きさとリソースの不足感、不安定さと自由度みたいな雰囲気を感じていただけると嬉しいです。コンサルタントの経験者は中小企業やベンチャー企業のほうがフィット感ある人が結構いますので。

実現したいことを確実に叶える採用を提案する


――具体的にはどのような相談が多いのでしょうか?

一番多いのは「正社員を採用したい」というところからお問い合わせをいただくケースです。特にハイエンド人材の正社員採用は、採用は目的ではなく手段である場合が多いです。

例えばCIOとかCTOを正社員で採用したいとなると、そもそも市場に経験者が少ないため競争率も高いですし、採用できるまで1~2年かかるケースもあります。それでも今の情報システム部門やテクノロジー担当の部長ではスキルが足りないのであれば、プロフェショナルなフリーランスや副業のコンサルタントが定期的に伴走するだけでプロジェクト等が前に進められますよね、などの提案をします。CIOやCTOクラスになると採用する事ではなく、課題の解決や新規に何かを始める等が目的なので、人的資源の組み合わせにより目的を達成できれば良い訳です。

――スキルシェアリング領域の今後の展開はどのようにお考えですか?

フリーランスの人やフリーランスになろうと考えている人、副業にチャレンジしたい人が何を一番必要としているのかは常に考え続けたいと思っています。

例えばコンサルタント経験者によるCtoCサービスはニーズが高いかもしれないですね。一定以上経験のあるコンサルタントは共通スキルや要素があると思います。そういった方にコンサルティングファームへ入社した後にはどのようなスキルが必要なのか、Excelやパワーポイントはどの程度できなければいけないのか、身に付けておいて役に立ったスキルは何かなどを直接聞くことができる機会は、これからコンサルティング業界を目指す人は興味があると思います。書籍やインターネットにも色々情報はありますがインタラクティブにコミュニケーションできると解像度は高くなりますしコンサルタントになった後も成果は出しやすくなるのではないでしょうか。

(後編に続きます)

権藤悠 ごんどうゆたか 株式会社キーメッセージ代表取締役。慶應義塾大学理工学部情報工学科卒。「持続的な企業成長の基盤となる、個人中心型の組織人事開発」をテーマに、株式会社キーメッセージを創業。過去、組織マネジメント・人事変革をテーマに合計社員数20万人以上の各業界企業を支援。その取組みがテレビ東京ワールドビジネスサテライト、日本経済新聞、雑誌Pen+等で取り上げられたことも。創業以前には、システム開発会社で人事・広報マネージャーや新規事業開発を担当。その後、株式会社ZUUで人事マネージャーを務め、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に経営コンサルタントとして入社。企業のDX実現に向けた組織・推進体制構築や人材マネジメント・育成の効率化・高度化をテーマとした組織人事・人材マネジメント変革・HRTech変革を構想策定、戦略構築、設計から運用まで参画・推進している。 この著者の記事一覧はこちら