順調に事業を伸ばしてきた経営者や、部署・チームを持たれるマネージャー、人事、意欲的な若手社員の方々から、「私の会社で色々な組織課題が出ており、手を打っているがうまくいかない」という相談を頂くことがあります。各社それぞれ試行錯誤をしていらっしゃいますが、その中での苦悩は少なくありません。


どのような考え方のもとで、どんな仕組みを取り入れているのか。たとえば急成長したベンチャーなど、他社の組織づくりの事例は大いに参考になります。前回に続いてアクシスコンサルティング株式会社常務取締役の伊藤さんと、経営戦略室の長谷部さんに、「人的資本経営実現のエッセンス」と「公平公正な活躍の場を作る人事データベースの仕組み」についてお話を伺います。

アクシスコンサルティング株式会社
2002年創業。「人が活きる、人を活かす。」の理念を軸に、コンサルティングファームやIT業界へのハイエンド人材紹介を強みとして、社会や産業が求めるハイエンド人材の最適配置の推進と、ハイエンド人材が持つ能力・スキルのシェアリングを拡大・浸透させるべく、人材紹介とあわせてスキルシェアの複合サービスを提供している。
○公平公正に活躍の場を生み出すタレントマネジメント-人事データベースの構築

――御社の人事や組織開発での計画や構想、目指しているところについてお伺いできますか?

長谷部:当社が目指している世界観の実現や、事業およびマーケットに価値を提供していくための組織人事が重要だと考えています。
企業として持続的に成長していくために、人的資本に対し投資をしていく必要があります。人的リソースをどう確保していくのか、確保した人的リソースに対してどう投資・育成・最適化・再配置をして、その人たちのエンパワーメントを最大化して価値を高めていくのか、という2点が、今後の3年5年10年後を考えた時に当社の成長の一つの重要な肝になると考えています。まだ段階的ではあるものの、着実に一歩一歩進めていきたいと思っています。

――長谷部さんが考える「組織哲学」についてお聞かせください。

長谷部: 1つは「マーケット・顧客起点という根強いカルチャーがある」ことです。どうやってマーケットや目の前のお客様に対して価値提供をしていくのか、に重きを置いている会社なので、そこがぶれていないからこそ人材に対しても組織に対しても一貫した対応ができているのだと思います。
例えば組織を作っていく際に、「社内政治に引っ張られて目指す組織になれない」ということは起こらず、検討の起点が「顧客やマーケットに対して、最善最適な価値を提供していくためには」で考えられています。常にこの姿勢がぶれることがないので、非常に柔軟に組織を設計することができていると感じます。

もう1つが、「人的資本の最大化・最適化・再配置」という当社のミッションに通じる部分を「事業で体現して、対外的な部分だけではなく自組織においても実現しようとしている」ことです。社員が考える“数年後にありたい姿”を踏まえ「このタイミングでこういう経験ができた方がいいだろう」と経営層やマネジメント層も組織づくりや個々人のキャリア形成に気を配っています。

――前回の伊藤さんのお話からはカスタマーサクセスを重視している点が伝わってきましたが、長谷部さんはエンプロイーサクセスも同じレベルでこだわっていらっしゃいますね。

長谷部:そうですね。
ただ一方で、当社も今100名の壁を越えたぐらいの規模感ですが、今後200人、300人と組織規模や事業を拡大していく中で階層化していった時に、経営陣の目が個々の社員まで届かなくなっていくことも想定し、「タレントマネジメント」の強化をはかっています。

――人事戦略や制度の更なる構築と、人材データベースの見える化も更に進めていかれていますが、このきっかけや起点になった事柄についてお伺いできますか?

長谷部:顕在的な課題というよりも、今後潜在的な問題になるだろうという考えがベースになっています。例えば人事機能を見た時に、配置や登用を検討していく中で、今だと経営陣がこの人はこういう人物だと把握できる規模感なので、個人に目が届く世界観だったのが、今後規模が大きくなってきたときに全社員に対して経営陣が目を配り続けるのは難しくなっていくでしょう。そこに先んじて、タレントマネジメントや従業員情報の見える化・可視化を進めてデータベースとして整理しておくことの必要性につながっていると思います。

伊藤:可視化していくというところが重要で、それが公平公正につながるのではないかと思っています。属人的に評価をするのではなく、しっかりルールに則って公正に公平に評価していくように進めていますね。


マーケット視点で組織を作っていくことや、体制を整えていくことが結果的に市場価値の高い人が集まり、市場価値の高い人材に育つようになるんですよね。マーケットのテーマに対して、サービスを作って組織を整えていくことは自分たち目線ではなくマーケット目線で組織を作っていくということですから、その組織の中で活躍する社員の市場価値も上がっていくと思いますし、そう在るべきだと思っています。

長谷部:「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン」という考え方は昔からありますが、今だと表現が変わって「ダイバーシティ・エクイティ・アンド・インクルージョン」になっていると思っています。

公平という意味の「エクイティ」が付いて、多様な人たちが居るだけでは生まれない価値が、多様な人が一緒になっていく事によって生まれる。では、それを一緒になって取り組んでいくために何が必要なのか?というところで、「機会の公平」を表現するために「エクイティ」という言葉が付いていると思っています。そのように「公平」にしていくためにもデータベースで見える化・可視化を進めていき、客観的に見ることができる環境を作ることで企業としても価値を創出していける集団になると考えます。


伊藤:顧客サービスをどう最大化していくかにつながっていきます。ハイエンド人材とどう対峙するのか、企業の経営層とどう対峙するかに集約されます。

それらを実現しようと思ったときに、実現に導ける一定レベル以上の組織が必要ですし、それに合わせたサービスである必要もあります。一人一人のレベルを育てていく部分での研修も、配属も組織も連動していくことが必要だと考えています。

――長谷部さんのお話から、伊藤さんが強調されている世界観がしっかり実を結んでいると感じるのですが、どういう育成や取り組みによって育まれたと感じますか?

長谷部:仮に成長できているとしたら、ポイントは経営・役員クラスの方々をはじめとした、ハイエンド人材と相対させてもらった機会や経験が大きいです。元々私も営業側の人間でしたので、自分よりも優秀なハイエンドの方々とお話しするためには、当然ながら同じ視座・視点を持ち、サービスレベルをどんどん上げていくことが求められる環境にあると思っています。
そういった経験の中で、人は人によってでしか磨かれないと実感するような経験を積ませてもらいました。

――マーケットやお客様第一という哲学があるからこそ、タレントジャーニーといえるものがどんどん更新されていっている、そのようなイメージですね。

長谷部:顧客やマーケットへ良いサービスを提供して、それによって自分たちにも返ってきているものが、自分たちの財産になっていると思います。

人的資本の投資と人的リソースの最適化は、企業の持続的な成長に重要です。今回のインタビューを通じ、同社は事業哲学として、また組織哲学として「マーケット顧客起点」と「人的資本の最大化・最適化・再配置」が組織の持続的な成長を支えると考えていることが伺えました。組織をマーケット視点で作り、その結果として社員の市場価値を上げるという点では、自社のビジネスと個々の社員が市場と同期して成長することの重要性を示しています。このような観点が、組織開発と人事戦略のフィールドに更なる深みをもたらすことを期待しています。

権藤悠 ごんどうゆたか 株式会社キーメッセージ代表取締役。慶應義塾大学理工学部情報工学科卒。「持続的な企業成長の基盤となる、個人中心型の組織人事開発」をテーマに、株式会社キーメッセージを創業。過去、組織マネジメント・人事変革をテーマに合計社員数20万人以上の各業界企業を支援。その取組みがテレビ東京ワールドビジネスサテライト、日本経済新聞、雑誌Pen+等で取り上げられたことも。創業以前には、システム開発会社で人事・広報マネージャーや新規事業開発を担当。その後、株式会社ZUUで人事マネージャーを務め、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に経営コンサルタントとして入社。企業のDX実現に向けた組織・推進体制構築や人材マネジメント・育成の効率化・高度化をテーマとした組織人事・人材マネジメント変革・HRTech変革を構想策定、戦略構築、設計から運用まで参画・推進している。 この著者の記事一覧はこちら