日本でクルマを販売する輸入車ブランドの中で、いわゆる「ストロングハイブリッド車」(HV)を売っているのはフランスのルノーのみだ。HV天国の日本で勝負するのは大変だと思うが、実際のところルノー製HVの燃費はどうなのか。
SUVの「アルカナ」で試した。

○「ルーテシア」は33.3km/Lを記録!

ルノー・ジャポンは2023年4月、コンパクトハッチの「ルーテシア E-TECH フルハイブリッド」で「燃費チャレンジ」を開催。東京~松山間(800km以上)を走って燃費を競う壮大な大会には多数のクルマ関係メディアが参加し、トップは驚きの33.3km/L(WLTCモード燃費は25.2km/L)という記録を叩き出したのだそうな。1位の副勝はなんと(取材をかねた)フランス旅行だったので、腕自慢のドライバーが数字を稼ぐため、さまざまな工夫を凝らしてドライブした結果だったのだろう。

そんなルノー・ジャポンが、今回は短い距離での「プチ燃費チャレンジ」を行うというので参加してみた。使用する車両はSUVタイプの「アルカナ R.S.ライン E-TECH フルハイブリッド」(現在はE-TECH エンジニアードというグレード名になっている)。
さて、結果はいかに!

○「アルカナ」ってどんなクルマ?

まずはアルカナ R.S.ライン E-TECHフルハイブリッドの基本情報を押さえておきたい。このクルマはルノー/日産自動車/三菱自動車工業のアライアンスが開発した「CMF-Bプラットフォーム」を採用している。ボディサイズは全長4,570mm、全幅1,820mm、全高1,580mm、ホイールベースは2,720mm。燃費に影響する車重は1,470kgだ。

パワートレインは最高出力94PS/5,600rpm、最大トルク148Nm/3,600rpmの1.6L直列4気筒自然吸気エンジンに、駆動用のメインモーター(49PS/205Nm)とスターター兼発電用モーター(20PS/50Nm)を組み合わせた独自の2モーター式フルハイブリッドだ。

最大の特徴はエンジン側に4つ、モーター側に2つのギアを備え、変速のコンビネーションを自動選択するところ。
パワー伝達にはF1由来の「ドグクラッチ」を使用し、小型軽量かつパワーロスが非常に少ないシステムに仕上げている。

タイヤは215/55R18サイズの韓国KUMHO製「エクスタHS51」。ボディが少し大きいのでルーテシアほどの燃費は望めないものの、WLTCモード燃費は22.8km/Lを公称していて、輸入SUVのカテゴリーではトップの地位を獲得している。

プチ燃費チャレンジは往復80km、エアコンはどうする!?


プチ燃費チャレンジは神奈川県川崎市殿町のホテル駐車場を起点とし、殿町ICから首都高、東京湾アクアライン、木更津北ICから県道33号線に入り、折り返し地点のかずさ4号公園でランドマークの塔とクルマの2ショットを撮影後、同じルートを通って出発地点に戻るというもの。往復の走行距離は約80kmで、そのうち高速が60km、一般道が20kmという内容だ。

チャレンジを前にしたミーティングでは「走行ルートを逸脱せず交通ルールを守り、時間内(2時間)に帰着すること」「天候の変化は考慮しません」「当日の自然渋滞などの影響は考慮しません(つまり、運も大事!)」「スタート時のガソリン残量は異なります(少ない方が軽いので少しだけ有利だ)」との説明があった。
優勝者はルノー・ジャポンのHPに写真とコメントが掲載されるとのこと。

ちなみに、同じルートを同社のテスターが走ってみた際の達成燃費は27.4km/L。つまり、このあたりが目標値ということになる。

さて、筆者の競技車両となったのは「横浜 35-04」ナンバーの白いアルカナだ。出発直前には、スタッフによって記念撮影(優勝したらHPに掲載される)が行われた。手渡されたQRコードでスマホにナビの目的地を設定して、アルカナのメーターに表示。
燃料計をリセットし、いよいよスタートだ。

3つあるドライブモードは当然、「エコ」を選択。EV走行で静かにスルスルと駐車場を出発して、すぐに殿町ICから首都高へ上がる。午後1時過ぎの出発だったため、この日の外気温は30度を超えていた。燃費には影響するけれども、体調を考えてエアコンはONのままとした。

おそらく、挑戦者の中にはエアコンOFFの極限状態で記録を狙っているドライバーもいることだろう。
この時点で「優勝は難しいかも……」と弱気になってしまい、J-WAVEを聴きながら、のんびりと走行車線を走ることにしようと気持ちを切り替えた。しかし、アクアラインのトンネルに入ったところで燃費計を確認すると、数値は25.9km/Lとなかなかの途中経過を示しているではないか。平日午後の時間帯でクルマが非常に少なく、ACCを70km/hに設定し、EVモードのままで走り続けられたのがよかったらしい。そのまま走っていると、燃費はすぐに30km/Lを超えた。これなら、ひょっとするといけるかも?

木更津北ICを降りてからの一般道はけっこうなアップダウンがあって、なかなかEV走行ができない。エンジンが始動してしまうと数字は一気に悪化。
折り返し地点では25.0km/Lになっていた。もちろん、これでも十分に優秀な燃費なのだが……。

復路も同じルートをたどり、使えるところではなるべくACCを使いつつ、エアコンはONのままで出発地点のホテルに戻る。アクアトンネル内で再び30km/Lを表示していたメーターの数字はゴール直前に29.9km/Lとなり、これが最終結果となった。

後日の連絡によると、最終順位は参加全27チーム中7位。1位の記録はなんと31.6km/Lで、6位までは30km/Lオーバーというからなかなかすごい。

筆者は大台の30km/Lに残念ながらのせられなかったが、走行時は特にエコランを意識したわけでもなく、エアコン全開で普通に走った数字なのだから、結果はほぼ実用燃費といってもいいくらいのデータだと思う。ルノー・ジャポンのスタッフでさえ、実用燃費はせいぜいWLTCモードの8~9割程度と思っていたというから、フランス製ハイブリッド恐るべしだ。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら