いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。


今回は、国分寺のうなぎ屋さん「うな太郎」をご紹介。

○うなぎを食べていない人も「うな太郎」

国分寺駅北口の「富士そば」脇を入って三鷹方面へ。以前ご紹介した食堂「だるま屋」を左に眺めながらさらに進むと、これまたご紹介済みの中華料理店「淡淡」よりも少し手前の左側に「うな太郎」というお店があります。

その名のとおりのうなぎ屋さん。店頭に出ている立て看板には「いまどきな~んと?!」と書かれていますが、つまりはうなぎを低価格で食べられるお店です。

ちなみに僕の記憶に間違いがなければ、昔この看板のキャッチコピーには「いまどきな~んと?! うな丼○○円」と価格表記があったはず。
いまはそれが消えていますが、とはいえ「いまどきな~んと?!」と強調したくなるほど安価であることは変わっていないようです。

とか知ったようなことを書いていますけれど、じつは僕、このお店でうなぎを食べたことがないんですよ。過去に何度か伺ったことはあるんですけどね。って、意味わかりませんか? まあそうだろうと思われますが、早い話、うなぎ以外のものをいただいていたからなのです。

というのもこのお店、なぜか「しょうが焼」が有名なお店でもあるのです。それを伝え聞いていたから、お邪魔するたび流されるかのようにしょうが焼を選んでいたというわけ。


主体性のないやっちゃなーという感じですが、だから、いつかはうなぎを食べてみなければと思っておりましてね。てなわけで土用の丑の日の前の週、何十年ぶりかで(かよ)足を運んでみたのでした。

すっきりまとまった清潔な店内は、左側にテーブル席が4卓。右奥の厨房前にはカウンター席があり、白い壁に黒いテーブル、そして椅子の黄色いシートと、全体の色調が統一されています。

のれんをくぐったのは開店直後の11時半過ぎでしたが、すでにカウンター席には一杯やってる方がいらっしゃいますね。うらやましいなあ。
でも、これだけ暑けりゃ、やっぱりビールぐらい飲みたくなりますよね。

だから少しだけ気持ちが揺らいだのですけれど、いや、ここは我慢だ。なにせ、目的はうなぎなのだ。そこで、すぐに出てきた麦茶でのどを潤し、メニューをチェック。

せっかくだから「特うな重」で行くという選択肢もあったのですけれど、「いまどきな~んと?!」の実態を確認するべく、いちばん安い「うな丼」にしてみました。1450円らしいので、たしかに破格ですね。


僕のあとにも、次々とお客さんが入ってきます。いかにも地元の人気店といった趣。そして、うな丼のオーダーに混じり、「しょうが焼ください」という声が聞こえてきたりもします。やはりいまでも、しょうが焼は人気メニューであるようです。

店内奥にはテレビがあって、ニュース番組が流れています。飲食店ではよくある光景ですが、ちょっと意外な気がしたのは、入り口右側、うなぎ蒲焼のポスターの下に、昨年のブルーノ・マーズ・ジャパン・ツアーのポスターが貼られていたこと。
お好きなんでしょうかね。

さて、ほどなく登場したうな丼は、たれの染み込んだたっぷりのご飯の上に、蒲焼きひとつがのったシンプルなスタイル。

肝吸いではなく味噌汁、そしてお新香がついてきました。

人によってはもの足りなく感じられるかもしれませんが、なにしろこの値段ですぜ。しかも実際にいただいてみれば、量的にもまったく不満を感じさせず、しっかり食べごたえがあるのです。

というよりねー、ちょっと驚いてしまったくらいなんですよ。
なぜって、予想していた以上にきちんと手間がかかっていることがわかったから。

当たり前だとツッコミを入れられれば、たしかにそのとおりかもしれません。けれど正直なところ、「ここまでやってくれるなら、もっと値段を上げてもいいのでは?」と感じたりもしたのです。いわば、そう思えるほどのクオリティであったということ。

ほどよくこげ目のついたうなぎは意外と肉厚で、ふんわり柔らか。濃いめのタレとの相性も申し分なく、ご飯がどんどん進んでしまいます。これは、とてもよいうな丼だ。

中央線沿線にもうなぎの名店は多く、僕にも昔からたまに利用しているお店はあります。が、当然ながら値段が高かったり、出てくるまでに時間がかかったりもするじゃないですか。そんなところもまた楽しみだという考え方もあるでしょうが、こうした大衆食としてのうなぎにも大きな魅力を感じるんですよね。

「暑い夏にはやっぱりうなぎだな」

だから食べながら、そんな当たり前のことをいまさらながら感じたりもしたのです。

●うな太郎
住所: 東京都国分寺市本町2-3-4
営業時間: 11:30~14:30、17:00~20:30
定休日: 木曜

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら