●『ヒプノシスマイク』の世界で大事な「ラップバトル」を見せたい
9月3日に大阪・大阪城ホールで初日を迎え、盛り上がりを見せるライブ公演『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Battle of Pride 2023-。キングレコード EVIL LINE RECORDS が手掛ける音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』(通称 ヒプマイ)の舞台化作品シリーズである『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage(通称『ヒプステ』)の全ディビジョンが集結し、現キャスト全員が卒業となる大型ライブ公演で、この後7日~10日にかけて横浜・ぴあアリーナMM公演を開催、初日公演(3日12:00)、千秋楽公演(10日17:00)の模様はABEMA PPV ONLINE LIVEにて配信も行われる(見逃し配信あり)。


今回は、シリーズ立ち上げとなった2019年の「track.1」に出演していたイケブクロ・ディビジョン“Buster Bros!!!“山田 一郎役の高野洸、ヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW“碧棺 左馬刻役の阿部顕、そして全公演の演出を務める植木豪にインタビュー。稽古で感じたことや新たな一面、また『ヒプステ』卒業を前にして、改めてお互いへのメッセージなどについても話を聞いた。

※この記事は公演内容のネタバレを含みます

○■稽古の中で演出・植木豪が思いを伝えた場面とは

――全ディビジョンが集まり、出演者は総勢41名とうかがっています。2021年に行われたライブ公演「Battle of Pride」もあったかと思いますが、前回を経た公演という意識はあるのでしょうか?

植木:前回を経てというよりも、ずっと『ヒプステ』の中でみんなで作り上げてきたものをしっかり見てもらえたら、ということと、全ディビジョンがそろったここでしか見られないものを見せること、それから原作を好きな方にも喜んでもらえるような掛け合わせを見せることが大事だと思っています。

――これだけの人数が集まって、新たな一面を発見した方などはいましたか?

阿部:僕、まっきーくん(白膠木 簓役:荒牧慶彦)がラップに苦戦して悔しがっているのを、初めて見ました。なんでも器用にできるイメージがあるから、苦戦してるのが珍しくてうれしいです(笑)。
ステージ本番では絶対に出さないし、僕らしか見られない一面なので「おお~」って感じです。

植木:今回、荒牧くんには大変な課題が課せられていて、普通は生でやらないようなパフォーマンスをやってもらっているんです。稽古ではすさまじい気迫で仕上げてきていますし、その迫力がかっこいいんですよ。

高野:たしかに! 凌大(波羅夷 空却役:廣野凌大)も、なんでもこなすイメージがあったけど、稽古場の隅でひっそり耳に音源をあててずっと聞いている姿を見て「あ、いいな」と思いました。

植木:リーダー6人の曲も大変で。

高野:初披露ですもんね。


阿部:最後のサビの歌詞が難しくて、頑張っています。

植木:「練習しなさい!」ってマイクで怒鳴っちゃいました。

阿部:豪くん、一言も言ってないですよ!(笑)

3人:(笑)

植木:今のは嘘です!(笑) サービストークです。

高野:でも今回、豪さんが気を引き締めてくれことがありましたよね。後半に僕たちがディビジョンごとにバトルをする場面があって、「バキっといきたい」という豪さんのイメージや思い、ライブの中での位置付けを改めて伝えてくれたので、みんなで練習して帰りました。

植木:みんな、かっこよかった。
『ヒプノシスマイク』の「-Division Rap Battle-」というタイトルがすごく大事だと思っていて、『ヒプステ』の中でも絶対に外せない要素だと思っているんです。原作もラップバトルから始まって、『ヒプステ』でもみんながキャラクターと真摯に向き合って作り上げてきたものなので、ちゃんと「ラップバトル」を見せたくて。『ヒプノシスマイク』の世界の1番大事な部分だと思うので、『ヒプステ』のライブでも体感してもらいたい。キャストの皆さんが実際に戦っている姿を稽古場で見て、「これだ!」と思いました。

――それは楽しみです。ちょっと気になっていたのですが、阿部さんは植木さんのことを“豪くん”と呼ばれていますよね。


阿部:たしかに、“豪くん”か、“豪さん”ですね。

植木:出会った時から、9割9分“豪くん”じゃない?(笑) track.1のときにたくさんのことを話し合ってきたんです。今、僕が演出について細かく言わなくても伝わるのは、始まりの時に話し合って作りあげてきたからで……そういうところも踏まえての“豪くん”ってことだよね?

阿部:そうです(笑)。洸なんか、豪くんのことを“豪”って呼んでるもんね? 呼び捨てで「豪さ~、明日どうする?」って。

3人:(爆笑)

植木:逆に僕の方が“洸くん”と呼んでいます(笑)。もう彼はプライベートから一郎だから、“豪”と……。


――これは訂正しなくていいんでしょうか?

阿部:大丈夫です!

植木:本当にそうだから(笑)

高野:「本当にそう」じゃないですよ!!(笑) 嘘です!

――高野さんも、自身がプロデューサーを務める企画の時に植木さんに演出を頼まれていたり、『ヒプステ』からつながっているところはあるんですか?

高野:僕は豪さんと『ヒプステ』で初めてご一緒して、ステージの演出や技術を見て、照明のこだわりも本当にすごくて、びっくりしました。なので、自分がプロデュースさせていただく企画でも、おこがましいけど、豪さんにお願いできればなと思いました。

高野洸・阿部顕嵐安井謙太郎・鮎川太陽・荒牧慶彦・廣野凌大はどんな存在?

○■原作ディビジョンのリーダー6人は全員ボケ役

――先ほどおっしゃっていたように、今回は原作に登場するディビジョンのリーダー6人で歌う場面があったりもするかと思いますが、6人はどのような存在なんですか?

植木:僕から見たら、全員ボケ役です。

高野・阿部:(笑)

植木:全員ボケなので、2番手3番手役のキャストがツッコんでる感じです。

高野:僕はやっぱり……ボケですかね。

3人:(笑)

植木:洸くんは、本当は二郎役の(松田)昇大くんより年下なんだけど、ステージで見たら本当にお兄ちゃんに見えると改めて思いました。
全員を引き連れてる感じもするし、不思議です。ふだんは若いし性格もかわいいんですけど、ステージに立った時に「頼んだぞ」という気持ちになれる。プライベートとステージの上に立っている姿が違う、アーティストのスイッチみたいなものがバチバチにある人だと思います。

高野:ふだんから昇大くんへの敬語をやめようとしてるんですけど、全然抜けないです(笑)

阿部:僕は昇大くんのことを同い年だと思ってたから、敬語じゃないんだよね。track.1が終わるまでずっとタメ口で話していたら、最後に「俺、年上だよ?」と言われました(笑)。タメ口だったことがどうというより、たぶん「勘違いしてるな」とバレてたんだと思う。

植木:昇大くん、ずっと思ってたんだ(笑)。でも全然怒らないでしょ?

阿部:全然! めちゃくちゃいい人だから、今も敬語じゃないです(笑)

植木:洸くんはステージマナーとかについても、二郎や三郎(永島龍之介)にも教えてあげています。例えばライブの時のイヤモニの聞こえ方についても「こういう風に聞こえたら大丈夫なんだよ」とアドバイスをしていて。

高野:もし他の現場で何か言われたらと思うと、先に教えてあげるのが、本人のためかなと……。

阿部:洸は、けっこう言いにくいことも言ってくれるよね。

――阿部さんはどういう存在ですか?

阿部:ボケですね(笑)

植木:顕嵐くんは、スイッチを切り替えてステージに出るんじゃなくて、袖からそのまま来るんです。そこがすごい武器だと思います。どんなに大きなステージに立っても「さあ、やるぞ!」じゃなくて、舞台とそれ以外の差がないまま入ってくるので、とにかくかっこいいんです。ちょうど昨日「緊張することあるの?」と聞いたら、「しないね~」と言ってた(笑)

阿部:(笑)

植木:僕も「マジで?すごいね! 俺はするよ」と(笑)

阿部:逆に洸は“変わる”人だから、正反対。

植木:スイッチをガンと入れるタイプと、そのままパッと出てくるタイプだね。そういう点だと、洸くんは挨拶の最後を噛んだりすることがあるけど、セリフでは噛まない。

高野:いやいや……。

植木:一郎のセリフ量を考えると、圧倒的に噛まない。僕は芝居において“噛まない”ことが重要なわけではないと思っているけれど、そこで変わる洸くんはそれだけ切り替えて演じているんだなと感じますし、お客さんにも伝わっているんだと思います。2人ともそれぞれ違うタイプのすごさがあって、稽古場でも「やっぱりかっこいいな」と見ていました。

――せっかくなので、他の4人のリーダーについてもうかがえればと。飴村 乱数役の安井謙太郎さんはいかがですか?

高野:俯瞰で見てくれている感じがあります。

阿部:謙ちゃんは『ヒプステ』の現場をすごく楽しんでいるなと思います。

高野:そうなんだ!

植木:楽しみつつ、すごく冷静沈着にステージ全体のことを見てくれている感じもある。

阿部:そうですね、 “プロフェッショナル”です。まっきーくんともちょっと近い気がする。

高野:僕は今回久しぶりに共演して、ビビりました。乱数という役を追求する速度がエグすぎて、すごいなと思いました。

植木:本当にそうだね。

阿部:あと、生で歌っている声がほぼ音源のまま出てくるんです。ピッチがめっちゃいい! ラップのリズム感もいいなって、毎回聴きながら思っています。

――次に、神宮寺 寂雷役の鮎川太陽さんは?

阿部:太陽くんはおもろい。体のサイズと比例してます、面白さが(笑)

高野:1番ボケ!

植木:でも、1番原作の設定に忠実に演じようとしていますね。稽古中も「こういう風に言いますか?」「こういう風に動きますか?」とたくさん確認してくれます。そして100%「ありがとうございます」(低音)と帰っていきます(笑)

阿部:原作に対してのこだわり、キャラに対しての思いがすごい。みんなすごいんだけど、ちょっと異質なすごさがあるんです。ゲーム(『ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-』)もやりこんでいるし、原作についても詳しいし、僕も時々太陽くんに確認して、教えてもらうことがあります。

高野:僕はこの前舞台を観に行ったら、背の高い人がいて。「太陽くんぽいな」と思って連絡したら、本人だったんです。いろいろな作品を観に行ってるんだなと思います。

阿部:本人がオタク気質だから、理解も深くて素敵ですよね。

――白膠木 簓役の荒牧慶彦さんは?

高野:プロだよね。魅せ方もうますぎて。

植木:必ずどこでもかます人。

阿部:いい意味で、常に何か狙ってる。

植木:簓の目を開くタイミングも全部考えているし、虎視眈々と狙ってるんじゃないかな? 今回の左馬刻とのシーンも、毎回稽古を見ながら鳥肌が立ってます。

阿部:実は今回初めてちゃんとステージ上でご一緒できて、驚きました。まっきーくんのような何でもできる人って、いつも一定の演技を返してくるのかなと勝手に思っていたんですけど、実は熱い。稽古でも毎回こっちが投げかけた倍くらいの熱量の芝居が返って来て、すごく感情が飛んでくる方です。

高野:荒牧くんも、ピッチの安定がやばいよね。音程がめっちゃ気持ちいいところいってくれるし、簓の特徴的な裏声とか、いいところを刺激してくる。

阿部:わかる!

――最後に、波羅夷 空却役の廣野凌大さんは?

阿部:うざいです!

3人:(笑)

植木:僕は1番真面目だと思っています。彼にはいつも「そんなに外でパンクにしなくてもいいんじゃない?」「その真面目さが1番パンクだよ」と言っているんです(笑)。常に全力投球で、稽古場でも声をからしながら空却になって大暴れして汗びっしょりになって……そういう生き様を役に乗せてくる。

阿部:本当に、真面目だからこそ、ちょっとやんちゃに見せたいんですよ。かわいいよね(笑)

植木:やんちゃな風貌なんだけど、どうしてもきれいな澄んだ目をしちゃってる(笑)

3人:(爆笑)

植木:目が合うと、子犬と出会ってしまった時のような気持ちになるくらいの澄んだ目。

高野:今回空却と一緒にやる曲で、澄んだ目の凌大と会話した後に豹変されるから、より寂しいです(笑)。でも本当に空却そのものだから、すごい。

阿部:僕は、凌大が洸の後輩というイメージもあるんだけど。

高野:いや、そんなことないよ!

阿部:たまにあるよ!

高野:たまにね。
○■気持ちは“豪”と一緒

――Battle of Pride 2023を前に、改めて互いに言っておきたいことはありますか?

植木:『ヒプステ』は、新しい世界を広げてくれました。まさか40歳を過ぎて、新しい友達や戦友ができるなんて、思ってなかった。でも、そうじゃないんだなと教えてもらったし、稽古を見ながらいつも「ここにいる全員に感謝だな」と思っています。もし何か新しい扉があったとしても、そこからさらに広がっていけるかはそれぞれだかもしれないけど、『ヒプステ』は僕にとって他の可能性につながる場所だったし、参加する一人一人にとってもそんな場所だったらうれしいです。本当に最初はいろんな意見をぶつけながら作っていったけど、キャスト、ダンサー、映像チーム、照明チーム、音楽チーム、衣装チーム、メイクチームとみんながハードルを超えて来たからこそ、ここまで続けてこれたんじゃないかな、と。「学ばなきゃ」「進化しなきゃ」と思わせてくれる現場だし、洸くんと顕嵐くんの2人は特に、track.1でいろいろなハードルを跳び越えてくれたことへの感謝があります。自分としては、今後もこの2人を驚かせなきゃいけないと思っていますし、何より『ヒプステ』に関わっている全員へ感謝しなければと、毎日考えてます!

高野:本当に、一緒に壁を乗り越えられたこと、感謝しかないです。たくさんの方に応援してもらえる作品になったのは、豪さんや顕嵐をはじめ、みんなのマインドがあったからこそで。『ヒプステ』はキャストの見た目もやんちゃで、舞台作品としては一見異色に見えると思うんですが、みんなスキルを磨きながら前向きな姿勢を持っているのがかっこよくて、刺激を受ける現場だったし、何より楽しかったです。

阿部:僕も、track.1は個人的にも転機になるタイミングだったから、『ヒプステ』との出会いは人生において意味があるんだろうなと思っていましたし、そこで出会えたのがヒップホップの反骨精神と尊敬に溢れた方たちだったのがうれしいことだなと、常々思ってます。毎日考えてます!

高野:“豪”と一緒じゃん!

3人:(爆笑)

――すごいですね、いい感じにオチがついて。

阿部:伏線回収したね(笑)

植木:見出しにしてほしいです(笑)

■高野洸
1997年7月22日生まれ、福岡県出身。2009年、NHK教育『天才てれびくんMAX』全国オーディションによりDream5を結成し、14年にはレコード大賞・紅白歌合戦に出演する。主な出演作にドラマ『美しい彼』シリーズ(21年~)、『明日、私は誰かのカノジョ』(23年)、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(17年~)、舞台「タンブリング」(21年)、舞台「キングダム」(23年)など。

■阿部顕嵐
1997年8月30日生まれ、東京都出身。俳優、7ORDERのボーカルとしても活躍する。主な出演作にミュージカル『October Sky-遠い空の向こうに-』(21年)、PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビットホール』(23年)、ドラマ『さよなら、ハイスクール』(22年)、映画『ツーアウトフルベース』など。今後『BREAK FREE STARS』(23年10月)、舞台「桃源暗鬼」(24年2月)上演を控える。

■植木豪
1975年12月15日生まれ、福岡県出身。1998年よりダンスパフォーマンスグループ・PaniCrewのボーカルとして活躍し、俳優としても多数の作品に出演する。主な演出作品にダンスショー「WasaBeats」シリーズ(14年~)、舞台「アクダマドライブ」「進撃の巨人」-the Musical-(23年)など。今後『BREAK FREE STARS』(23年10月)、ミュージカル『刀剣乱舞』千子村正 蜻蛉切 双騎出陣(2023年冬)クリエイティブディレクション、オリジナル・ミュージカル『The Agent』(2023年12月)出演を予定している。