セブン銀行は、現金の決済という従来のATMの概念を超えた新たな価値提供となる、新型ATMの新サービス「+Connect(プラスコネクト)」を9月26日より開始する。9月12日、ATMサービスプラットフォーム事業構想発表会」を開催した。


○■ATMであらゆる手続き・認証の窓口が可能に

発表会ではまず、セブン銀行 代表取締役社長の松橋正明氏が登壇し、同社の概況を報告。現在、同社のATMは2万7,000台が稼働中で、1台あたり1日におよそ100件の取引が行われており、年間で10億件にも達している。さらに、銀行、証券会社、クレジットカード会社などの金融機関だけではなく、スタートアップなど640を超える企業と提携し、多数のサービスを展開。これがATMの数と取引の深さを支えているという。

“お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける。”をパーパスに、「今までになかった新しいサービスをお客様にお届けすることを日頃の発想、考え方として進めてきた」という松橋社長。
続けて、セブン-イレブンから受け継いだDNAとして、業界の枠にとらわれずに「お客さまの立場で考える」と話す。そして、その時々の最新テクノロジーを使って「新たな挑戦を続ける」ことによってパーパスを実現していく。

今回の発表会では、“あらゆる手続き・認証の窓口となり人と企業をつなぐ新しいサービス”を発表。具体的には、キャッシュカードを主とした“現金の出し入れ”に加えて、スマートフォンやマイナンバーカードを使った“情報の出し入れ”によってATMサービスの深化・進化を図り、コンビニでATMによっていろいろな窓口サービスができることを目指していくという。

同社の保有基盤として「安心安全と便利の両立が可能な進化基盤」を挙げ、2007年頃から進めている、非接触テクノロジーを使った電子マネーのチャージや非常に高いセキュリティ基準を求められる海外カード、さらにはQRコードやマイナンバーカードなどへの対応など、時代の流れにあわせて順次新しいテクノロジー、ムーブメントにATMを適合させ続けてきたという松橋社長。

今回のサービスは「これらをよりギュッと詰め込んで、お届けする」と自信を見せる。
また幅広い企業や行政との連携についても、「いろいろな業界とのリレーションを含めて、お客さまだけではなく、提携いただいている企業さまのニーズにもお応えできるサービスをお届けしたい」と続ける。松橋社長は「順次拡大して、コンビニに行くといろいろなことが簡単に一人でできるようになる世界、その第一歩となるプラットフォームにしていきたい」との展望を明かした。
○■「+Connect」第一弾は「ATMお知らせ」「ATM窓口」

続いて、セブン銀行 常務執行役員 ATM+企画部担当の深澤孝治氏が登壇し、「人と企業をつなぐ新たなATMサービス」として新サービスを紹介。

「+Connect」が提供するサービスは、今後拡大していく予定だが、その第一弾は、地域の金融機関を支援し、銀行の窓口手続きがコンビニATMでできるというもの。ここから、クレジットカードの申込みや保険の手続きなど、幅広い金融機関の手続きサービスにも広げていく。さらには、ホテルのチェックインや行政の手続きなど、金融にはとどまらない、あらゆるサービスを提供することで、このプラットフォームを大きく広げていくという。


そして、「+Connect」の第一弾として、9月26日からサービス開始となるのが「ATMお知らせ」と「ATM窓口」。「ATMお知らせ」は、ATMを通して、One to Oneの情報発信ができるというもので、それに対するフィードバックや回答を企業が受け取ることができるのが特徴。そして、銀行業界で対応が求められている継続的顧客管理や残留期限管理などの確認や回答もATMで簡単に、そして現金を下ろすついでに行うことができるようになるなど、同社のATMを新しい顧客接点としても活用できるサービスとなっている。

一方「ATM窓口」は、その名の通り、コンビニにあるATMをあたかも銀行の窓口のように使うことができるというもの。銀行口座の開設や住所・電話番号の変更が、原則24時間365日、近くのコンビニで気軽にできるサービスとなっている。

「+Connect」のサービスは、さまざまな手続きに必要となる本人確認がATMで行える点が大きな特徴。
そして、金融機関などで求められる厳格な本人確認から、シェアリングサービスのようなもう少しライトなものまで、あらゆるシーンで活用できるという。さらに、ユーザーフレンドリーで、特に難しい本人確認の操作がATMだと簡単に行えるのも大きな特徴となっている。

本サービスにおける本人確認書類は、マイナンバーカード、運転免許書、在留カードの3種類。すべて本人確認書類は置くだけの操作で、本人確認書類の中に格納されているICチップに書き込まれた本人の情報データをそのままATMが読み取ることで手続きが進む。また、顔認証自体も難しい操作は不要で、ATMの前に立ち、カメラを見るだけの自然な操作で実現されており、銀行の口座開設の申し込みの場合は、最短約3分で手続きが完了するという手軽さが大きな魅力となっている。

さらに、ATMを長らく運営してきた同社が提供するサービスだけに、「安心・安全」をもっとも大事にしているという深澤氏。
ATMで本人確認を行うにあたって必要となる高いレベルでの本人認証の精度、不正利用の対策、プライバシーへの対策、情報管理を含めたシステム・セキュリティへの対策、そして操作のサポートまで、「これまで通り、セブン銀行らしい安心・安全なサービスを提供してまいります」と力を入れる。

「+Connect」のサービスを通して、ユーザーには、いつもの近くのコンビニで、いつでも簡単に安心して手続きができる環境を提供。「お客さまの“あったらいいな”“できたらいいな”という期待に引き続き応えていきたい」という深澤氏。金融機関をはじめとする企業に対しては、ATMを通して、顧客接点の強化や業務の合理化を支援し、「企業の皆さんの自社チャンネルとして、当社ATMを活用していただきたい」との希望を述べた。

なお、第一弾のサービス提供企業は下記の通りとなるが、これから順次、日本全国の金融機関のサービスに広げていくという。なお、金融機関によって対応するサービスが異なっており、「ATM窓口」を導入する金融機関でも、口座開設には対応しない場合もある。


そして、まだ開発中ながら、第二弾のサービスとして「顔認証ATMサービス」を紹介。このサービスでは、一度ATMを通して顔情報を登録すると、それ以降はキャッシュカード不要で、顔認証によって入出金取引ができるという。このサービスは2024年春のリリース予定。
○■パネルトークや実機によるデモンストレーションを実施

続いて、「人と企業をつなぐATMによる新たな価値創造」に関するパネルトークが実施。日本マイクロソフト エバンジェリストの西脇資哲氏による進行のもと、静岡銀行 デジタルチャネル営業部長の大石康太氏、モデル・タレントの谷まりあさん、セブン銀行 ATM+企画部長の柏熊俊克氏が登壇し、「コンビニATMが果たす役割」「顧客接点としてのコンビニATM」をテーマにトークが繰り広げられた。

「+Connect」は、2019年10月から実証実験が行われてきたが、この取り組みに賛同した静岡銀行の大石氏は「世の中の金融取引はどんどんスマートフォンに移り変わっていると思いますが、スマートフォンの金融取引はセキュリティ的に不安なユーザーが少なくない」と現状を分析。スマートフォンに不安を抱えるユーザーでも、ATMは比較的抵抗なく使用できるというデータから、「こういったお客さまにどういったサービスを届けられるか」を確認するために今回の実証実験に参加。その結果、同行の店舗がないエリアや、窓口の閉まっている時間帯での利用が多くなることが確認されたため、「これは行ける! ということで、正式に導入することになった」とサービス導入の経緯を語った。

「我々の強みは2万7000を超えるATMネットワーク」と話す柏熊氏は、「24時間365日稼働しているのが圧倒的な強みであり、これを最大限に活かしたサービス」と強調。実際、事業者に導入検討意向を確認したところ、「検討したい」という回答が89%にも及んだという。

そして、柏熊氏があらためて「ATMお知らせ」「ATM窓口」のサービスについて紹介すると、谷さんは「窓口に行くのは時間の制限があり、明日の何時までにいかなきゃっていう不安感が焦りを生むので、24時間どこでもになると安心感が生まれます」と笑顔を見せた。

パネルトークの後は、新型ATM実機デモンストレーションとして、柏熊氏の指導のもと谷さんがATMで口座開設に挑戦。画面の指示に従って画面をタッチしていくだけの簡単操作で、顔認証も非常にスムーズ。入力するのはマイナンバーカードに記録されていない電話番号とカナでの名前、そして暗証番号のみ。あっという間に手続きが終了し、谷さんも驚きの声をあげていた。

糸井一臣 この著者の記事一覧はこちら