現代の日本では、専業主婦の割合が年々下がり、今では共働き世帯の半分以下に減っています。多数派となっている共働き世帯の中には、「配偶者の収入が多ければ専業主婦(主夫)になりたい」と考える人も多いようですが、実際のところ、共働きと片働きはどちらがお得なのでしょうか。


今回は、世帯収入が同じ場合の共働きと片働きの手取り額の違いや、お金の面から見た専業主婦のメリット・デメリットをご紹介します。

■共働きと片働き、世帯年収が同じならお得なのは?

最近では、共働き世帯が専業主婦世帯より圧倒的に多くなっていますが、「世帯年収が同じなら、共働きより片働きのほうがいいのでは」と考える人は少なくないでしょう。

確かに、働き手が一人なら、もう一方は家事や育児に時間を使えますし、一人で高い収入を得たほうが効率的のようにも見えます。ところが、お金の面から考えると、同じ世帯年収でも共働きと片働きには手取り額に大きな差が生じ、共働きのほうが「お得」になることがほとんどなのです。

たとえば、片働きで年収1,000万円と共働きで年収500万円ずつでは、どちらも世帯年収は1,000万円になりますが、この1,000万円が丸々手元に入るわけではありません。それは、給与から各種の社会保険料や税金が引かれているためです。


また、社会保険料や税金は、収入や家族構成などによって金額が異なります。そのため、同じ世帯年収1,000万円でも、共働きと片働きでは手取り額に差が生じるのです。

では、世帯年収1,000万円の場合、共働きと片働きでは手取り額にどのくらいの差があるのでしょうか。家族構成は夫婦と小さな子どもで、夫婦は介護保険第2号被保険者(介護保険料の支払いあり)に該当し、東京都在住、ボーナスは考慮しないという条件で、引かれる社会保険料や税金、手取り額をシミュレーションしてみました。

<共働きで世帯年収1,000万円>

まず、共働きで夫と妻がそれぞれ年収500万円ずつ稼ぎ、世帯年収が1,000万円のケースです。

・社会保険料…約74万円×2=約148万円
・所得税・住民税…約37万円×2=約74万円
・手取り額…約389万円×2=約778万円

社会保険料や税金を引いた手取り額は、約778万円になりました。


<片働きで世帯年収1,000万円>

次に、世帯主が年収1,000万円で、その配偶者は扶養に入っているケースです。

・社会保険料…約130万円
・所得税・住民税…約135万円
・手取り額…約735万円

社会保険料や税金が引かれた手取り額は約735万円で、共働きの場合より年間43万円も手取りが減ってしまいました。稼ぐ金額は同じなのに、共働きと片働きでここまで手取り額に差があるのはなぜなのでしょうか。

その主な要因は、「所得税率」にあります。所得税は、所得が増えるほど課される税率も高くなる「累進課税」で計算され、先ほど行った手取り額のシミュレーションでは、片働きで年収1,000万円の場合は税率20%、共働きでそれぞれ500万円ずつ稼ぐ場合は税率10%が適用されています。

また、給与から差し引く「給与所得控除」は、年収850万円超からは一律の金額となり、これも片働きで年収1,000万円の所得税が高くなる一因となっています。


社会保険料については共働きの方が多くなっているものの、片働きの所得税の多さは圧倒的です。そのため、同じ世帯年収1,000万円でも、片働きで年収1,000万円より、共働きで500万円ずつ稼いだほうが手取り額が多くなるケースがほとんどなのです。
■お金の面から見た専業主婦のメリット・デメリットとは

世帯年収が同じ場合、片働きよりも共働きのほうが手取り額が大きくなり、お得になることが多いです。しかし、一概に「共働きのほうがいい」とは言えず、違う角度から見てみると、夫に扶養される専業主婦は優遇されている面もあるのです。

一方で、専業主婦には収入がないことによるデメリットもあるでしょう。次に、お金の面から見た専業主婦のメリット・デメリットをご紹介します(便宜上、妻が夫の扶養に入るとする)。

<メリット>

・配偶者控除が適用され税金が軽減される

扶養には、「税金上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2つがあります。このうち、税金上の扶養については、扶養している配偶者の税金が軽減されるという形でお得になります。

妻が夫の扶養に入っている場合、夫の所得税と住民税を計算する際には「配偶者控除」が適用され、税額が軽減されます。配偶者控除の金額は、控除を受ける納税者本人(夫)の収入によって変わりますが、夫の合計所得金額が900万円(年収の目安は、給与収入のみの人で1,100万円程度)以下の場合、38万円です。

この金額に、所得税と住民税の税率をかけた金額が、得をしている金額ということになります。住民税の税率は所得に関わらず一律10%ですので、たとえば夫の所得税率が20%の場合は、38万円×(所得税率20%+住民税率10%)=11万4,000円です。


・健康保険料と年金保険料の支払いがない

社会保険上の扶養については、扶養されている本人(妻)には社会保険料の支払いがないという形でお得になります。また、扶養に入っているからといって、夫の社会保険料が妻の分だけ増えるわけでもないのです。

たとえば、専業主婦になると国民年金の第3号被保険者になり、その保険料は、夫が加入している厚生年金制度の財源から国民年金に支払われています。夫の厚生年金保険料を徴収する際、妻の保険料も一緒に徴収されているわけではありません。

仮に妻が自分で社会保険料を支払うとなると、国民健康保険料は年間5万5,300円(東京都在住、介護保険料の支払いなし)、国民年金保険料は年間19万8,240円です。

扶養で得をしている税金と社会保険料を合わせると、年間では約37万円という金額になります。

<デメリット>

・将来受け取る年金額が少なくなる

専業主婦のデメリットとしては、自分で年金保険料を支払わない分、働いて厚生年金保険料を納めた場合と比べて、将来受け取れる老齢年金が少なくなるという点です。

将来夫婦が受け取れる公的年金の金額を確認しておく、老後生活を不安なく送れる資金を蓄えるなど、今からできる対策をしておきましょう。

・夫に万が一のことがあった時困る

夫だけが働き収入の柱が1本だけですと、夫に失業や死亡など万が一のことがあった時、経済的に困ることが考えられます。また、妻が代わりに働きに出ようとしても、長く専業主婦をしていると再就職が難しいケースも少なくありません。

専業主婦世帯は、夫の収入が途絶えた時のことも考えておく必要があるでしょう。

・出産時の給付金に差がある

専業主婦は、働く女性と比べて出産時にもらえる給付金の種類が少なくなります。出産時の給付金には大きく「出産一時金」「出産手当金」「育児休業給付金」の3種類があり、働く女性の場合、受給要件を満たせばこの全てを受け取ることができます。

しかし、専業主婦の場合、受け取れるのは出産一時金のみです。また、働く女性の場合、育児休業中は社会保険料が免除され、さらに、休業期間は「社会保険料を納めたもの」とみなされるメリットがあります。

元々夫だけの収入で生活できる家庭であれば、出産時の給付金は大きな問題にならないかもしれませんが、子どもが生まれることで支出が増えたり、夫が育児休業を取得して収入が減少したりする可能性も考慮しておきましょう。
■自分たちに最適な働き方を選択しよう

今回は、世帯年収が同じ場合の片働きと共働きの手取り額の違いについて、また、お金の面から見た専業主婦のメリット・デメリットについて解説しました。ただし実際は、どのような働き方を選択するかは「得かどうか」だけで決められるものではないでしょう。

それぞれの夫婦が自分たちに最適な働き方を選択し、そのうえで生じるデメリットをどうカバーしていくか考えることが大切です。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら