早くから「人的資本経営」を推進し、社員の人生を支援するパートナーであり続けようとする総合デジタルファーム、電通デジタル。

「人が財産」を掲げる彼らは、社員の人生を支援するパートナーであり続ける=企業価値の向上と位置づけ、常に社員のライフスタイルやキャリア形成に寄り添う取り組みを進めている。


では、実際に電通デジタルは、社員らに対してどのようなサポート体制を敷いているのか。その背景や今後の展望について、取締役副社長執行役員の石川圭介氏に話をうかがった。

■「社員こそが会社の財産」だと言える理由

ーー電通デジタルが「人的資本経営」に取り組み始めた背景について教えてください。

日本企業が「人的資本経営」に注目し始めたのは2022年5月、経産省がまとめた「人材版伊藤レポート2.0」の発表がきっかけでした。

レポートには人的資本経営の重要性が書かれていて、我々もこれは非常に重要な流れだと感じたのですが、一方で、電通デジタルの既存の取り組みと照らし合わせてみると、すでに達成している部分も少なくなかったんです。むしろ、「我々がやってきたことは決して間違いじゃなかったんだな」と再確認できました。


もちろん、遠隔地勤務の推進や、優秀な人材確保を前提とした副業の解禁など、今後お手本にできるかもしれない部分もたくさんありました。今後もさまざまな取り組みを加速させ、電通デジタルがこの道のトップランナーとなれるよう思いを新たにしたところでもあります。

ーー電通デジタルでは、どういう理念のもと「人的資本経営」にこだわっているのでしょう?

我々のサービスは、メーカーやソフトウェア会社と違い、社員のデジタルに関するノウハウやスキルをクライアントに提供することがメインです。サービスを提供する社員がいて初めて成り立つ事業なので、社員こそが会社の財産なんですね。

つまり、社員にどれだけ投資できるかが重要で、彼らにパフォーマンスを最大限発揮してもらうためにも、教育投資はもちろん、エンゲージメントや満足度なども上げる投資を行っていかなければならないんです。

ーーホームページでは、ワークスタイルや福利厚生、キャリアサポートなど様々なテーマで詳細なデータが公開されていますね。


電通デジタルは上場企業ではないので、特に開示しなければならないわけではありません。だからこそ、情報を外部に向けて誠実に開示することは有効なのだと考えています。

胸を張ってデータを示し、データを示すことで襟を正し、今後の目標なども掲げたうえで有言実行していく。理想的な水準に達していない部分もすべて正直に公開することで、自分たちに対するプレッシャーにもなるという意味合いもあります。

もちろん、私たちは決して人的資本経営に関して遅れを取っているわけではないので、データを表に出すことが、プラスのアピール材料になるとも考えています。

電通デジタルは「人」という財産を持つ会社だからこそ、そこに対してずっと投資を続けてきました。
結果、日本企業の平均点を上回っている部分も多いので、転職を考えていただくきっかけになると思っていますし、新卒の皆さんにも企業選びのプラス材料として参考にしていただけると思っています。
■制度を用意するだけでなく、カルチャーを醸成することが重要

ーー実際、優れたデータがずらりと並んでいますが、例えば「女性育休復帰率 100%」はどのようにして達成できているのでしょう?

復職後の働き方を柔軟に選択できる環境が整備されているからだと思います。

弊社はリモートワーク率が非常に高く、育児中の短時間勤務なども利用しやすい体制になっていますし、フレックスタイム制も用意しているので、保育園の送迎や仕事の中断などがしやすい環境となっています。

また、育児中の社員がなるべく残業しないで済むよう、みんなで助け合うための意識改革にも取り組んできました。ただ制度を用意するのではなく、制度を気兼ねなく利用できるカルチャーが浸透していることが重要ですから、例えばマネージャークラス向けに研修を行ったり、本人の復職面談を丁寧に実施したりもしています。

ーーそれにしても、100%を実現するのは凄いですね……。


我々はクライアント企業のコンサルやマーケティングを生業としているので、女性の視点、母親の視点というのもすごく大事なんです。実際に、ワーキングママ向けの商品を扱うクライアントから、「育児中のお母さんを担当に入れてほしい」と指定されることも少なくありません。

もはや我々のビジネスは、彼女たちの戦力なくしては立ち行きません。今後は女性の管理職比率もさらに高めていかなければなりませんし、まだまだ道半ばですけどね。

ーー「男性育休取得率 63%」も高い数字だと思いますが、これに関する取り組みについて教えてください。

男性の育休にはいろんなパターンがあって、パートナーの出産に合わせて取得するケースもあれば、パートナーの職場復帰でバトンタッチ的な形で取得するケースもあります。
育休の取り方はあくまで人それぞれなので、正解はありません。だからこそ、どういう方法が自分に合っているのかを考える必要があります。

そこで電通デジタルでは、育休セミナーを実施して先輩社員たちの体験談をシェアしたり、育休に関するハンドブックを作って知識を得てもらったりすることで、社員ひとりひとりが理想の育休パターンを探せる環境を整えています。

とは言え、「育休を取るのは気が引ける」「もうちょっと長く休みたかったけど遠慮してしまった」といった声があるのも認識しているので、もっと思い切って休めるよう、さらに制度やカルチャーを整えたいと思っています。

ーー「有給休暇を5日間取得すると追加で有給が支給される」という制度があるそうですが、その目的や効果について教えていただけますか?

「年間5日間の有休取得」は政府が推奨していることでもありますが、我々としては年末ギリギリにまとめて消化するよりも、早め早めに計画的に消化していただくほうがいいと考えています。

年末は繁忙期になることも多く、有休を消化し損ねてしまう可能性もあるので、9月までに5日間の有休を消化しきった社員には、追加で10~12月にも1日ずつ特別休暇を付与する制度を設けました。


結果、多くの社員が9月末までに有休を消化し、追加の有休を取得しています。そういう意味では社員の満足度も高いと思いますし、電通グループ全体で「有休推奨日」を設けているので、自分だけが休んで他の人が働いてるという後ろめたさもなく、グループ内でのメールのやりとりなどを気にしないで済む環境にもなっています。

ーー週次で開催されているという「ナレッジ共有会」についても詳細を教えてください。

これは主にインターネット広告を担っている部署内で2016年頃から実施している定例会ですね。全体で1,000人規模の部署ですが、社員それぞれがビジネス上で得た知見を共有することで、効率よく生産性の高い仕事をするために設けました。希望者がいれば、他部署でも参加可能です。

それぞれのナレッジを共有することで仕事の時短にもなりますし、クライアントへの新たな提案にも繋がります。毎回テーマを設け、さまざまな知見を共有し合っていますが、社員にとって確実にプラスの場となっているので、任意参加ではありますが、出席率はだいたい毎週60%を超えています。
■専門領域を超えた「ダブルスキル」の取得も課題

ーー最後に、現状の課題や今後さらに強化をしたいポイントなどについてお聞かせください。

電通デジタルは、デジタルに関するあらゆるものを広範に提供するという特性があるので、社内にはデジタルマーケティングのプロフェッショナル、クリエイティブのプロフェッショナルなど、いろんな専門家がいます。

今後は幅広い領域で事業展開しているという特性を活かし、社員にも特定領域の単体のスキルだけではなく、例えば「プログラミングを担いながらクリエイティブも担う」など、領域を超えた「ダブルスキル」を身につけてもらいたいと考えています。これを実現するための教育プログラムやプラットフォームづくりも課題になってきますね。

あとはより生産性を高めるため、社員たちには生成AIを上手く業務に組み込んでもらいたいと思っています。既存の業務を省略することで、より創造的な仕事に注力してほしいですし、そのためのトレーニングツールも提供したいと考えているところです。

「人が財産」であることに徹底的に向き合おうとする電通デジタル。その人的資本経営に対する取り組みは、今後もさらなる発展を遂げようとしている。

就職や転職を考えている人は、ぜひ電通デジタルの人的資本経営をひとつの基準に据えた企業選びをしてみてはどうか。