2023年は低価格のサブブランドを中心に、自社サービスの利用による値引きを前提とした携帯電話料金の値上げが目立ちました。ですがその一方で、料金引き上げの動きが見られなかったのがMVNOです。
なぜMVNOは値上げをせず、安価でシンプルな料金を維持できているのでしょうか?

系列サービスの利用で値引きする大手キャリア、複雑化が進む

2023年を振り返るにはまだ時期が早いのですが、今年は携帯電話料金の値上げが目立った年でもあります。とりわけその動きが目立ったのが、サブブランドを中心とした携帯各社の低価格プランです。

実際、2023年6月に新料金プランの提供を開始したKDDIの「UQ mobile」の場合、低価格の「ミニミニプラン」は通信量が4GBに増えているとはいえ、月額料金は2,365円と、1つ前のプランである「くりこしプランS+5G」(通信量3GBで月額1,628円)と比べ700円以上値上がりしています。1つ上の「トクトクプラン」は通信量が15GBと変わらないにもかかわらず、月額料金は3,465円と、やはり1つ前の「くりこしプランM+5G」(通信量15GBで月額2,728円)と比べ700円以上の値上がりとなっています。

ソフトバンクの「ワイモバイル」が2023年10月に開始した新料金プラン「シンプル2」も同様で、最も安い「S」プランは通信量が4GBで月額料金は2,365円と、「シンプル」の「S」プラン(通信量3GBで月額料金2,178円)と比べ200円近い値上げ。その上の「M」プランを比べてみても、シンプル2の場合は通信量20GBで月額4,015円、シンプルの場合は通信量15GBで月額3,278円だったことから、700円以上の値上げとなっています。


一方で、自社サービスと連携した割引を強化し、値上げした料金を安くする仕組みに入れ、その分料金の複雑化が進んだことも2023年の料金プランには共通した特徴といえるでしょう。実際、先に触れたUQ mobileやワイモバイルの新料金プランの多くは、自社系列のブロードバンドサービスや電力サービスの契約に係る割引に加え、自社系列のクレジットカードで料金を支払うと安くなる仕組みも追加されています。

その傾向をより顕著に表しているのが、KDDIの「au」ブランドに追加された「auマネ活プラン」や、ソフトバンクの「ソフトバンク」ブランドで提供される「ペイトク」ででしょう。実際、auマネ活プランは「auじぶん銀行」「au PAYカード」など、自社系列の金融サービスを利用することで安くなり、さらに金融関連サービスで多くの優遇が得られるなど、複数の金融サービスを利用しないとあまりお得にならない仕組みとなっています。

またペイトクは、以前の料金プランと比べ基本料金は値上がりしているものの、系列のスマートフォン決済サービス「PayPay」を利用する際により多くのポイント還元が得られることから、PayPayを利用するほど実質的な料金が下がる仕組みとなっています。純粋に値上げすると顧客が離れてしまうことから、自社系列の他のサービスにもお金を支払ってもらうことで、料金を安くしようと苦心している様子がうかがえます。


MVNOがインフレに強い理由は事業構造にあり

では、なぜ携帯電話会社が料金を引き上げる動きに出ているのかというと、おもな理由はここ最近のインフレによる運営コストの増大でしょう。円安などの影響からさまざまなモノやエネルギーの価格が値上がりしていますが、携帯電話会社もその影響を大きく受けているのです。

実際、携帯電話の基地局を動作させるには多くの電力が必要なことから、電気代の高騰が業績に大きな影響を与えるようになっています。ですが、より大きな影響を受けているのが携帯電話ショップで、電気代だけでなく人件費などさまざまなコストが上昇していることから運営費が増え、負担が大きくなっているのです。

加えて、菅義偉前首相の政権下で携帯電話料金の引き下げが国策として進められた結果、その影響を大きく受けて携帯大手3社は軒並み業績を落としています。それだけに、携帯電話会社としても業績を改善させるため、可能な限りユーザーに影響を与えない形を取りながらも、ある程度の値上げはせざるを得ないというのが正直なところではないでしょうか。


ですが、一方で料金が変わらないサービスもあり、それがMVNOが提供するサービスです。もちろん、ソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」が、2023年11月から新たな「かけ放題ジャスト」など新たな料金プランを追加する動きは見られますが、携帯大手のように料金を値上げしたり、自社サービスと組み合わせて複雑化したりするような動きはMVNOには見られません。

なぜMVNOがインフレに強いのかといいますと、ネットワークを自社で整備しておらず借りている、という事業構造が大きく影響しています。ネットワークを借りているので、保有する設備が携帯電話会社と比べ圧倒的に少ないことから、電力のコスト増などの影響を受けにくいのです。

そしてもう1つは、大半のMVNOが店舗を持っておらず、サポートもオンラインが主体だということも料金の維持には影響しています。人件費など店舗運営にかかるコストを気にする必要がないことから、低価格が維持できるわけです。


それに加えて、ネットワークを借りるのに係るデータ接続料も、法律によって所定の算定式で算出される仕組みなので携帯電話会社の業績を受けにくいですし、その接続料も年々下落傾向にあります。もともと低コストの運営で低価格を重視してきたこともあり、値上げの影響を受ける要素が少ないことが、MVNOがインフレに強い要因といえるのではないでしょうか。

ただそれだけに、ネットワークを借りている分使える帯域が狭いので混雑に弱い、店舗を持たない分手厚いサポートは期待できず、スマートフォンに慣れた人でないと利用につまずきやすいなどの弱点を抱えている点も変わっていません。それゆえ、利用にはスマートフォンやモバイル通信にある程度知識が求められるという弱点は依然存在しますが、さまざまなモノの料金の値上げが進む中にあって携帯電話料金を安くしたいのであれば、MVNOの利用を検討する価値は大いにあるのではないでしょうか。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。
現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら