●受け継がれる“言葉で面白がってもらう”精神
毎年恒例の「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン新語・流行語大賞」が、今年で40回目の節目を迎えた。近年、様々な切り口で“◯◯流行語大賞”が乱立するようになったが、11月のノミネート30語発表から多くのメディアに取り上げられて注目を集め、芸人界では「トップテンに選ばれると消える」というジンクスまで生まれるほど、大きな影響力を持ち続けている。


昭和、平成、令和と時代とともに歩んできた「新語・流行語大賞」で選出された言葉から、社会の変化はどのように見えるのか。そして、コロナ禍を経た今年のノミネート語の傾向とは。12月1日に年間大賞とトップテンが発表されるのを前に、選考委員の『現代用語の基礎知識』大塚陽子編集長に話を聞いた――。

○■第1回表彰式の取材メディアはごくわずか

1年に使用された用語や時事の言葉を収録する『現代用語の基礎知識』は1948年に発刊。以来、誌面上で「新語・流行語」を紹介してきたが、80年代に入ってそれを顕彰するというアイデアが持ち上がり、84年に「日本新語・流行語大賞」という名称でスタートした。

第1回から表彰式を開催したが、取材に来たメディアはごくわずか。
受賞した登壇者も雑誌記者や大学教授、企業のトップといったお硬い面々だったが、第3回には「新人類」で清原和博・工藤公康・渡辺久信(当時・西武ライオンズ選手)、「プッツン」で片岡鶴太郎、「やるしかない」で土井たか子氏、「バクハツだ!/なんだかわからない」で岡本太郎氏と、著名人が多数駆けつけ、マスコミにも報じられるようになった。

回を重ねて認知されるとともに注目度が増し、今や年末の風物詩に。大塚氏は「最初は海の物とも山の物とも分からないものだったのが、気にしてくださる方が増えてきて、40回も続けてこられたのは、皆さんが興味を持ってくださっているからだと思います」と感謝する。

『現代用語の基礎知識』と競合するものとして、80年代に『イミダス』(集英社)、『知恵蔵』(朝日新聞社)が相次いで誕生したが、インターネットの台頭を受け、いずれも2006年に紙媒体が休刊。『現代用語の基礎知識』も2020年版で大幅にスリム化されてリニューアルしたが、現在も刊行を続けることができるのは、「新語・流行語大賞」の存在も大きいようだ。
○■ジャンルのバランスを考慮して選定

選考に当たって脈々と受け継がれているのは、“言葉で面白がってもらう”こと。
「言葉の賞ではあるのだけれど、その発生源と界隈(かいわい)に受賞していただくことで、面白がっていただけると思うんです」と狙いを説明する。

前述の「新人類」を流行させたのが『朝日ジャーナル』編集長(当時)の筑紫哲也氏でも、呼称される側だった3選手が受賞したり、「忖度」(2017年)では「忖度まんじゅう」を生み出した企業の代表が受賞したりするなど、対象者の人選にも遊び心が反映されている。

選考方法は、『現代用語の基礎知識』に掲載した言葉からピックアップした100語程度に、選考委員が事前に点数をつけて選考会で討議。単純に点数の高い言葉がノミネート30語、トップ10に入るわけではなく、総合的なジャンルのバランスや各委員の意見などを加味し、数時間にわたる議論を経て決めていく。コロナ禍に入った2020年は、コロナ関連が得点で上位を占めたが、「鬼滅の刃」「愛の不時着/第4次韓流ブーム」「フワちゃん」などもノミネートに入った。

●“◯◯流行語大賞”乱立に元祖の見解は…
40年という年月で、リビングにある1台のテレビを家族みんなで見るという時代から変わり、スマートフォンやタブレットの普及によって“大衆”が捉えにくくなったと言われる。
それに伴い、「流行語というものが生まれにくくなっているというのは、確かにあると感じています」という。

それと同時に近年感じる傾向は、流行語のサイクルの速さ。背景として、「SNSが生まれて一部のコミュニティで流行る言葉が増えてきて、その中で新しいものが繰り返し生まれるのだけれど、そこから外に広まっていない可能性があるのではないか」と分析する。

だからこそ、「新語・流行語大賞」は、「“この言葉はそんなに流行ってない”と批判的なご意見もずっと頂いてきましたが、やはりその年に生まれた言葉を記録して残すというのを意識しています」と使命感を持って選出。インターネットの普及でアンケート調査が容易になったこともあり、近年は様々な切り口での“◯◯流行語大賞”が乱立状態にあるが、選考委員がその意識を持って臨むことで、存在意義を示していると言えるだろう。

“元祖”の立場として、他の“◯◯流行語大賞”への見解を聞くと、「皆さんそれぞれのスタンスでやられているのは、いいことだと思いますし、私たちも面白く拝見しています。
うちはたまたま40年続けてやってきているだけで、自分たちが権威だとも思っていませんので」と謙虚に答えた。

「24時間タタカエマスカ」から「働き方改革」、「セクハラ」から「性加害」へ


大きく価値観が変わったジャンルの一つが、“働き方”。89年にはリゲインのテレビCMから生まれた「24時間タタカエマスカ」があったが、17年には「働き方改革」、18年には「時短ハラスメント(ジタハラ)」がノミネートされ、働き続けることに疑問を持たない時代から、ワークライフバランスが重視される時代になった。

99年のトップテンに選ばれた「癒し」を象徴した坂本龍一さんのヒット曲「energy flow」が、「24時間タタカエマスカ」を生んだリゲインのCMで使用されたというのは、この変化を象徴する事象と言えるだろう。

また、89年に選ばれた「セクシャル・ハラスメント」は世間に定着し、この言葉によって被害者が声を上げやすくなった効果もあるが、今年のノミネートに「性加害」が入った。旧ジャニーズ事務所の問題だけでなく、元女性自衛官が訓練中の性暴力被害を訴えたことも含めたものだが、ある選考委員からは「『セクハラ』という言葉は当時は新しかったけど、今思うと軽く感じる。もはやハラスメント(嫌がらせ)ではなく『性加害』という犯罪なんだ」と意見が出たという。


今年は「頂き女子」「闇バイト」という言葉もノミネートされており、大塚氏は「言葉が話題になって犯罪として認知される面は良いと思うのですが、言葉によって軽いイメージを持たれるのではないかと気になるところがあります」としながらも、世の中で使われた言葉として記録している。

テレビCM発が消えた中で健闘する朝ドラ

“大衆”から“個”への時代の変化に伴い、テレビ発の流行語が減少している。特に顕著なのは、テレビCMの言葉だ。かつては毎年のようにCMのコピーが選ばれていたが、近年ほとんどノミネートされないのは、テレビの影響力低下だけでなく、企業が広告効果を重視し、「クリエイティブで遊べなくなってきているのではないか」と見ている。

そうした中でも、91年に受賞した「ダダーン ボヨヨン ボヨヨン」(ピップフジモト)を、今年なかやまきんに君でリバイバルさせた日清食品は、他にもクリエイティブに振り切ったCMを多数制作しており、新たな流行語の発信に期待がかかる。

一方、テレビ発で健闘しているのは、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)。
第1回で「オシンドローム」(『おしん』)が新語部門・金賞に輝いたが、その後も「ゲゲゲの~」(10年『ゲゲゲの女房』)、「じぇじぇじぇ」(13年『あまちゃん』)、「びっくりぽん」(16年『あさが来た』)などコンスタントにノミネートされ、今年も「スエコザサ」(『らんまん』)が30語に入っている。流行語のサイクルが速くなった中で、半年にわたり平日毎朝放送されて習慣化しやすいことが、強さにつながっているようだ。
○■2023年は豊作、コロナ後の明るい気持ちを反映

今年の傾向を聞くと、「3月にWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)があって一気に盛り上がって、5月に新型コロナウイルスが感染症法で5類移行して様々なイベントが復活したことで、世の中が明るい気持ちになって、それが言葉にも反映されていると思います。昨年はコロナも3年目に入ってコロナ関連の言葉も定着して新しい言葉が生まれるわけでもないし、世の中が完全に動き出したわけではないのもあって、なかなか苦しかったのですが、その点、今年はわりと言葉が豊富にありました」と解説。

その反面で、「物価高や増税などがあって、防衛費も増えるということになって、タモリさんが昨年末の番組で言った『新しい戦前』という言葉が、今振り返ったときにとても印象に残るものと感じます。この言葉について、タモリさんがその後何か語っているわけではないですが、取り上げる人が多かったと思いますね」と印象を語る。

昨年は、サッカーのワールドカップ開催期間中に表彰式が重なり、「三笘の1ミリ」「ブラボー!」といった圧倒的な流行語や、10月クールに大ヒットしたドラマ『silent』(フジテレビ)が対象外に。今年の『現代用語の基礎知識』にはどれも掲載されているが、やはり年間を通してパワーを保ち続けることはできず、ノミネート入りを逃した。21年には、プロ野球・北海道日本ハムの新庄剛志監督の就任会見と、ノミネート30語の発表が同日ということで、新庄監督が発表した愛称「BIGBOSS」が漏れるという事態も。

こうした状況について、「“取りこぼし”は本当に残念で、1月1日から12月31日を対象期間にして、1月に発表という形が良いのかもしれませんが、年末に言葉を振り返るというのが定着しているので、難しいところですね。『現代用語の基礎知識』の校了が終わっても、“この言葉を入れたい!”とギリギリまで差し替えることが結構あるのですが…」と、悩ましい宿命のようだ。
○■「『現代用語の基礎知識』選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」ノミネート30語

・I'm wearing pants!(アイム・ウェアリング・パンツ)
・憧れるのをやめましょう
・新しい学校のリーダーズ/首振りダンス
・新しい戦前
・アレ(A.R.E.)
・頂き女子
・X(エックス)
・エッフェル姉さん
・NGリスト/ジャニーズ問題
・オーバーツーリズム
・推しの子/アイドル
・OSO18/アーバンベア
・蛙化現象
・5類
・10円パン
・スエコザサ
・性加害
・生成AI
・地球沸騰化
・チャットGPT
・電動キックボード
・2024年問題/ライドシェア
・ひき肉です/ちょんまげ小僧
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・別班/VIVANT(ヴィヴァン)
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・闇バイト
・4年ぶり/声出し応援
・Y2K