声優初挑戦で感じた“運命”
今年6月に解散した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHの元メンバー、セントチヒロ・チッチ。ソロプロジェクト・CENTとして歌手活動を行うほか、加藤千尋として本格俳優デビューも果たし、映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(12月8日公開)では声優に初挑戦した。
活動の幅を広げているチッチにインタビューし、声優初挑戦の感想や、BiSH時代に培った武器、ソロになってからの変化、今後の抱負など話を聞いた。

○■「お話しすることも、お芝居することも好きだな」と改めて実感

『チャーリーとチョコレート工場』(2005)で有名な工場長ウィリー・ウォンカの“夢のはじまり”を描く本作。セリフに加え、劇中に登場する全13曲の楽曲も同じキャストが吹替をする完全吹替版で、チッチは主人公ウォンカの魔法を信じる孤独な少女・ヌードル役を務めた。

チッチは「すごく楽しくやらせていただきました」と感想を述べ、「お話しすることも、お芝居することもやっぱり好きだなと思った時間だったので、ヌードルに出会えたのはすごく運命的だったなと思います」とにっこり。

「『チャーリーとチョコレート工場』が大好きだったということもあり、このお仕事が初めての声のお芝居というのは、運命だったのかなと思いますし、不思議と吹き替えする中で自分が元気をもらえたりすることが多かったので、すごく好きな時間でした」と語った。

アフレコでは、声のみで演じる難しさも感じたという。


「彼女はただ天真爛漫な少女ではなく、裏側に切なさや何か諦めたような表情が混ざっていて、繊細に大人びた少女の部分が出てくる感じが難しかったです」

特に「叫ぶシーンが一番難しかった」と言い、「普段、陽キャじゃないので『ヤッホー』とか言わないし、そこは葛藤しながらやりました。どれだけ明るく言えるか。一生懸命でした(笑)」と振り返った。

○■BiSH時代の経験も生かして「物怖じせずに演じられた」

また、BiSH時代に培ったものも本作に生きたと語る。

「表現することはBiSHの中で培ったものですし、形は変わっても自分らしさを残しながら表現するというのは、昔の私じゃできなかったと思います。BiSHの活動においていろんな表現に挑戦してきたので、物怖じせずに演じられたというのもあると思いますし、歌も、セントチヒロ・チッチとして生きてきたからこそ向き合えた表現があったので、すごく大事だったなと思います」

演じたヌードルとは「ずる賢さ」が似ているという。


「ヌードルは頭のいい子で、どうやったら現状からみんなを救って逃げ出せるかというのを考えるずる賢い部分があり、そういうところは少し似ていると思います。あと、ヌードルは人のためにいっぱい考えて頑張れる人なので、そこも似ていたらいいなと思いました」

そして、BiSHの活動においても「ずる賢さ」は必要だったと言い、「そうじゃないとBiSHをまとめられなかったので。ずっと考えて生きてきました」と語った。

ソロになってからの変化や挑戦を語る

BiSH解散後の自身の変化を尋ねると「肩の力が抜けました」と答えた。

「BiSHの時は、『何も見落としちゃいけない』『まとめなきゃいけない』というのがずっと頭にあり、常に考えることをやめないと自分で決めていたので、肩に力が入っていたのだと思います。解散してグループとしての枠がなくなると、自分自身でしかないので、気をつけないといけないことも減り、話もしやすくなりました」

そして、プレッシャーは「グループのほうがもっとありました。リーダーみたいな立ち位置だったからかもしれませんが……」と打ち明け、「解散後は、6分割していた目が1つになった感じで気持ちが楽になり、生きやすくなった気がします」と穏やかな表情で語った。


BiSH時代に培ったもので今でも大切にしていることを尋ねると、「嘘つかないこと」「素直でいること」と自身のポリシーを明かした。

「そうやってステージに立つことで伝わるものがあったので、これからも真っすぐ生きていきたいなと。言いたいことは言うし、言ってほしいと思って生きてきて、私はそのほうが生きやすかったですし、隠さずにいろんな人と話し合うことは大事だと感じています」

仕事の広がりに喜び「自分の知らない自分に出会うことが多い」


BiSH解散後、CENTとしてアルバムリリースやライブ開催など精力的に活動。加藤千尋として俳優デビューも果たし、長編舞台作品に初出演した。さらに本作で声優初挑戦と、幅広く活躍しているが、チッチは「まだまだできることがあるんだなと知れて本当にうれしいです」と笑顔を見せる。

BiSH解散時は「歌をメインでやるとか何も決めてなかったです」と言い、「自分がやりたいことをやって、新しいことに挑戦し続けるということだけ決めて、ソロ活動を始めました」と説明。自分の中で可能性を狭めなかったことで、「最近は自分の知らない自分に出会うことが多く、ワクワクできている」と新しい自分に出会えたという。


「舞台や声優のお仕事をすることで、自分の中になかった表現に出会えたり、ヌードルの生き方を見ることで、そこに乗っかった自分が自分の知らない自分だったり、びっくりすることも多いです」

だからこそ今後も、方向性を絞ることなく、さまざまな挑戦をしていきたいと考えている。

「これからも自分のことを決めつけずに、もっといろんなことに挑戦していきたいですし、自分が面白いと思う方向に生きていけたらいいなと思っています」

演技挑戦による変化もあるそうで、声優初挑戦となった本作に関しては「人の表情の移り変わりに敏感になった」と告白。「誰かの表情を見ながら、その人の思いを繊細に受け取らないといけない時間が多かったので」と述べ、敏感になりすぎるのもよくないと感じているようで「自分らしさを忘れず生きていきたいです」と笑った。

さらに、「ただ歌うだけではなく、いろんな声で歌ってみたい」という思いも芽生えたと言い、「いろんな声の表情をつけたことで、『こういう声も私出せるんだ』と気づけたところもあったので、それも歌に生かせたらいいなと思います」と語った。

夢は“イケオバ” オノ・ヨーコを目標に

本作はウォンカが亡き母と約束した“世界一のチョコレート店を作る”夢を追うことから、「夢見ることからすべては始まる」というメッセージが込められているが、チッチも「私も夢はずっと見続けてきました」と言い、「夢は形を変えていくと思っていて、諦めるのではなく、夢の形を変えると思ってきました」と夢に対する考えを述べる。

また、夢を叶えるには周囲の愛情が必要だと本作で感じたという。


「家族とか友達とか恋人とか、何か1つでも自分がもらえる愛情に気づけたら、夢への糧になると思ったので、目の前にある愛情にちゃんと気づいて、自分の夢のためにパワーにできたらいいなとすごく思いました」

そして、「応援してくれている皆さんも当たり前ではない」とファンへの感謝の思いを改めて実感。「大きな愛情を注いで応援してくれているので、その愛情をしっかり確認しながら自分のパワーにして、夢を追いかけたいです」と語った。
○■オノ・ヨーコを目標にしたら「自分の生きたい人生になりそうだなと」

自身の夢は、「かわいくてイケているおばあちゃん“イケオバ”になること」だという。

「そのために好きなことに真っすぐ生きていきたいし、あまり決めつけず、諦めず、期待もしすぎず、自分の幸せの方向に挑戦しながら生きていきたい。その結果、かわいくてイケているおばあちゃんの自分がいたらいいなと」

目標にしているような人物はいるのか尋ねると「オノ・ヨーコさん」と回答。コロナ禍に強く惹かれたそうで、「今まで憧れの人はいなかったけど、この人を憧れとして生きていったら、自分のなりたい、生きたい人生になりそうだなと思った人で、大好きです」と目を輝かせた。


そして、彼女のことを深く知ることになったきっかけについて、「コロナ禍で人と会えなくなった時に、ラブやピースに目覚めなきゃいけないと感じた時があって、愛ってなんだろうと漠然としたことを考え出した時に、ビートルズやジョン・レノンとオノ・ヨーコの存在が自分の中で大きいと思って深掘りするようになり、すごく影響を受けました」と説明。

「女性として強くあるべき姿を見せてくれていると思うし、物怖じせず世界平和を謳いながら、自分の家族への愛情もしっかり示して生きている姿がかっこいい」と魅力を熱弁し、「『かっこいい女になりたい』とずっと言っていましたが、『これだ!』と思ったあるべき姿だった感じがします」と、目標とする人物が見つかったことをうれしそうに語ってくれた。

■セントチヒロ・チッチ
5月8日生まれ。2023年6月29日に解散したBiSHの元メンバー。2022年8月にCENT(セント)としてソロ活動を本格始動し、2023年8月23日に1stアルバム『PER→CENT→AGE』をリリース。11月14日より初の全国ツアー「Hello Friend Tour」を開催中で、13都市で15公演を行う。また、加藤千尋名義で俳優デビューし、11月3日~12日に上演された舞台『雷に7回撃たれても』で長編舞台作品に初出演。映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(12月8日公開)で声優に初挑戦した。