いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。


今回は、中野のハンバーグ専門店「ハンバーグハウス」をご紹介。

○白線通り沿いの超穴場「ハンバーグハウス」(中野)

中野駅北口を出て、すぐ目の前のアーケード商店街「サンモール」を直進。三番街を通り越し、少し前にご紹介した甘味処「梅家」を右に見ながらさらに進むと、かの有名なサブカルスポット「中野ブロードウェイ」がどどーんと現れます。

そんなのいまさら強調するまでもないことですが、そのブロードウェイ前を横切っているのが「白線通り」。

その名のとおり地面のタイルに白線が敷かれた小さな商店街です。

でね、その線に沿って右に進んでいくと、ほどなく左側にレトロな外観のお店が見えてくるんですよ。
地味さが(いい意味で)逆に目立っているそこが、今回ご紹介する「ハンバーグハウス」です。

そもそも、直球なネーミングが素敵じゃないですか。ハンバーグ専門店であることは明らかで、牛丼が出てくる可能性はゼロ(そりゃまあ、そうでしょうねえ)。「はんばーぐはうす」っていう語感のみならず、すすけた茶色い日よけテントに書かれた「ハンバーグ」のフォントもかわいい。

気にするなといわれても気になってしまう魅力的なルックスなので、ずーっとずーっと気になっていたんですよ。毎度のことで、「いつか、そのうち」と思っているうちに時間が経過してしまったわけですけれど。
そこで今回、11時半の開店時刻を狙って伺ってきたのでした。

右側の厨房と向き合うようにカウンター席が並ぶオープンキッチンの店内は、予想以上に奥行きがあって広々としています。

木目の壁やカウンターの端の部分もいい具合に年季が入っていて、いかにも昭和の洋食屋さんといった趣。

奥に見えるコカ・コーラの赤い冷蔵庫も、色調的にいいアクセントになっています。

いいなあ、ここ。

当然ながらメニューはハンバーグが中心ですが、和風とかメキシカン、ハワイアンなどバリエーションは意外に豊富で、「ジャンボバーグ」「スーパージャンボ」などのガッツリ系もあるようですね。


だからなんだか気分的に盛り上がってしまい、「いっそチーズとベーコンとハワイアンのスーパージャンボにしてもらおうか」などと思考が暴走しかけたのですけれど、それではさすがにカロリー的にヤバそう。そもそも初めてなのだからと気持ちを落ち着かせ、「スタンダードバーグ」をお願いしたのでした。

ワクワクしながら待っていると、やがて大きな鉄板でハンバーグが焼かれはじめます。

手前の席に座っちゃったから、近くで拝見できなかったのが悔やまれるところであったな。ともあれ、まずは先に味噌汁とライスが登場。

スープではなく味噌汁が出てくる"昔の洋食店スタイル"が、個人的には非常にうれしい。


でも、それは続いて運ばれてきた「スタンダードバーグ」にもいえること。

デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグ、

半熟具合が絶妙すぎる目玉焼き、

シンプルなスパゲティソテーが鉄板上に並ぶルックスには、昭和の子どもが洋食に求めたもののすべてが凝縮されているといっても過言ではないわけだ。

これは興奮ものでっせ。

まず最初にいただいた味噌汁は、煮干しのだしの風味がしっかりと感じられますねえ。柔らかなキャベツと油揚げの質感もやさしく、きちんと手がかけられていることがわかります。これは主役のハンバーグにも期待が持てますね。


フォークで切ってみて気づいたのは、そのハンバーグが予想していたより固めだったこと。

いまどきのスタイルとは違うかもしれないけれど、それは肉がぎっしりと凝縮されていることの証であり、食べごたえも抜群。

肉の味わいをしっかり感じることができるし、目玉焼きの黄身を崩して絡めてみれば、これまた期待どおりにライスとの相性もバッチリです。

なお、つけ合わせに関しては驚かされたことがふたつあったんですよ。まずひとつ目はスパゲティソテー。塩と胡椒がとてもいい効果を生んでおり、シンプルな見た目以上にしっかりとした味なんです。
ライスのおかずになりそうなくらいの説得力。

そしてもうひとつの驚きポイントは、目玉焼きの下にあったのでした。たまごの白身部分の下に、じゃがいものソテーがひとかけら、ひっそりと隠れていたのです。

「あ……こんなところからすみません……」という弱々しい声が聞こえてきそうなくらいの控えめ具合。でも食べてみれば、香ばしい焼き具合もお見事。なんだか得した気分になりましたぜ。

オーダーした時点では「スタンダードではもの足りないかな?」という多少の不安もあったのですけれど、とんでもない。もともと期待はしていましたが、その期待を大きく上回る満足感を味わえたのでした。

いやー、満足であった。などと感慨にふけっている間にも、お客さんが次々と入ってくるし、いかにも地元に根差したお店という感じ。ここは穴場だなー。

●ハンバーグハウス
住所: 東京都中野区中野5-52-1 海老沼ビル1F
営業時間: 11:30~14:30、18:00~20:00(L.O. 19:30)
定休日: 火曜

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)ほか著書多数。最新刊は『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)。 この著者の記事一覧はこちら