BMWのコンパクトSUV「X1/iX1」の評価が高い。日本の自動車業界でも複数の賞を受賞している。
何が優れているのか。実車に触れてみると、デザインから走りまでプレミアム感にあふれていて、これなら価格が高くても納得という気持ちになってしまった。

3代目で進化した「X1」

BMWで最もコンパクトなSUVとなる「X1」は現行型で通算3世代目。日本には2023年2月に上陸した。パワートレインはガソリンエンジン、ディーゼルエンジンに加え、今回から電気自動車(EV)の「iX1」が追加となった。

特筆すべきは日本に上陸してからの受賞歴だ。
自動車専門のジャーナリストたちが選ぶ「日本カー・オブ・ザ・イヤー」と「RJCカー オブ ザ イヤー」の双方で、X1/iX1が輸入車の頂点に輝いた。

筆者はどちらの選考にも関わっていないので、結果を目にして驚いた。というのも、後輪駆動ベースの初代X1はプレミアム感が不足しており、その点を克服した先代モデルは前輪駆動ベースになったことが明確で、走りがBMWっぽくないと思っていたからだ。

なぜX1/iX1は評価が高いのか。JAIA(日本自動車輸入組合)主催の試乗会で現行型に触れてみることにした。
「7シリーズ」と共通点あり?

スタイリングは最近のBMW各モデルと同じように、キドニーグリルが大型化し、フロントマスクはエッジを効かせた造形になっている。
一方の後ろ姿はリアコンビランプが細くなるなど、最近のカーデザインのトレンドに沿った形と言える。

個人的に最も印象的だったのはボディサイドだ。キャラクターラインが控えめになって、線ではなく面で見せるようになった。つまり前後で主張しつつ、横はすっきりというデザインになったわけだ。

このあたりは、巨大なキドニーグリルで賛否両論を巻き起こした「7シリーズ」などと共通している。新型X1/iX1はあそこまで激変したわけではないが、今のBMWデザインの流れを取り込んでいることがわかる。


ドイツ車らしく、ブランドイメージをしっかり統一してきていることが確認できた。

先進感あふれるインテリアに感心

インテリアは外観以上に大きく変わった。こちらは2年前にモデルチェンジした、同じ横置きパワートレイン前輪駆動ベースの「2シリーズ・アクティブツアラー」と共通だ。

最近のBMW各モデルと同じように、メーターはフル液晶とするとともにセンターディスプレイとつなげ、全体がゆるい曲面を描く「BMWカーブドディスプレイ」とした。それ以外にも、先代と比べるとさまざまな部分でアップデートを図っている。

ドライブセレクターは小さなレバーをスライドさせるモダンなスタイルになった。
しかも、センターコンソールをフローティングさせて、上にセレクターやアームレスト、下に収納スペースを用意するなど、使い勝手にも配慮している

スマートフォンの非接触充電も面白い。センターコンソール奥に立てかけてホルダーで押さえる方式で、ギミックっぽさを出しつつスマートでもある。ドアのオープナーやインナーハンドルも、他のブランドとはひと味違う造形だ。さすがはBMWだと思った。

先代のインテリアもその時点でのBMWスタイルだったのだが、あの頃はBMWブランドのデザインが全体的にオーセンティックだった。しかし今は、7シリーズが象徴しているように、個性を前面に押し出している。
そのエッセンスがX1にも投入されていると感じた。

兄貴分の「X3」に続き、X1も同じボディでエンジン車とEV(iX1)が選べるようになった。そのあたりを意識して、ボディサイドをシームレスに、インテリアをモダンに仕立てたのかもしれない。でも、素材や色使いを注意深く選択しているおかげもあって安っぽさはなく、しっかりプレミアムブランドだと認識できることに感心した。
高価格も納得のプレミアム感

キャビンは前後とも大人がゆったり過ごすことができるし、荷室も十分な容量がある。ひとクラス上のセダン「3シリーズ」を上回る空間だ。
伝統の後輪駆動方式を継承する3シリーズのフォルムや走りには確かに独特の良さがあるけれど、普通の人がファミリーカーとしてBMWを買うなら、こちらでも満足できるだろう。

ちなみにEVのiX1でも、デザインやパッケージングはエンジン車と同じだ。前後シートの足元は低いし、荷室のフロアもそんなに高くない。開発当初からマルチパスウェイという考え方だったことがわかる。

走りの印象にも触れておく。まず感じたのは力があって静かだということ。前後2つのモーターで走るiX1はもちろん、2.0Lのディーゼルターボエンジンを積むX1でも、思いどおりの加速が得られるだけでなく、ディーゼルとは思えないほどの静粛性だった。

乗り心地はボディが軽いディーゼルのほうが、重さと足回りのバランスが取れているようで、固めながら快適だった。ハンドリングも、重いエンジンを前に積んでいるとは思えないほど自然。もちろんiX1なら、重心の低さのおかげでさらなる安定感が得られる。

X1には2.0Lガソリンターボエンジンの用意もあるが、すべて4WDということもあり、価格は600万円以上と高価だ。しかし実車に触れると、デザインから走りまで贅が尽くされていて、高いだけのことはあると納得してしまった。

プレミアムブランドとは何なのか。改めてBMWに教えられたような気がした。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら