トヨタ自動車には「GR」というスポーツカーのブランドがあります。たとえば街でよく見る「カローラ」にも、性能を高めた「GRカローラ」というクルマがあるんです。
そこで気になるのは、「GRになると、カローラはどう変わるの?」ということ。雪上コースで試乗して確かめてきました。

トヨタのGRとは?

トヨタのスポーツカーブランドである「GR」。限定車「GRMNヤリス」を筆頭に「GRカローラ」「GR86」「GRヤリス」「GRスープラ」をラインアップしています。「GR SPORT」ブランドには「アクア」「ヤリスクロス」「ハイラックス」「ランドクルーザー」「コペン」と、SUVから軽オープンスポーツまで幅広い車種が用意されています。

今回はGRブランドから、2024年1月に発表された進化型GRヤリスと2023年8月に一部改良を受けたGRカローラに乗ってきました。
場所は「苗場スキー場」(新潟県)近くの特設雪上コース。四輪駆動システム「GR-FOUR」は雪の上でも性能を発揮してくれるのか、じっくりと体験してきました。

2017年9月19日、トヨタは市販車向けのスポーツカーシリーズとして新ブランド「GR」の導入を発表しました。現在は、冒頭に紹介したたくさんのモデルを市販車として販売しています。優れた走行性能や完成度の高さから注目され、GRカローラは抽選販売となるほどの人気ぶりです。

一方で、「スポーツカーには憧れるけど、サーキットは走らないから私には関係ないな……」という声も聞かれます。
確かに、家族でミニバンに乗り、気の合う仲間とSUVでゆったり走るというカーライフは楽しく、ここ20年、これらのモデルは多くのユーザーから支持されています。そこで、こうした巷の声をGRカローラの開発責任者に正面からぶつけてみました。

「ゆっくり走らせてもスポーツカーは楽しい乗り物です。クルマとの一体感が堪能できるからです。たとえば街中で交差点をごく普通に曲がるだけでも、ステアリングの切り始めとクルマの動きがぴったりと一致しているので気持ちよく曲がれます」と語るのは、GRカローラのチーフエンジニアである坂本尚之さん(トヨタ自動車GR運動開発部)です。

身体にフィットするトレーニングウェアや軽量シューズは、激しい運動をしなくても、たとえばジョギングや、極端なことをいえば歩くだけでも快適です。
スポーツカーを街中で乗ることは、その感覚に近いのかもしれません。ヒトの運転操作に遅れなく反応するクルマを作ることは、0.01秒のタイムを競うサーキットでの走行性能を創り上げていくことと同じ方向性なんだと理解できました。
GRの4WDシステムが雪の上で真価を発揮?

さて、今回の試乗は雪上路面です。雪質にもよりますが、雪道の摩擦係数(≒滑りにくさ)は乾いたアスファルト路の1/3程度です。よって滑りやすく、加速や減速、カーブでの走行も、普段通りの運転操作では思い通りに走りません。

なので、より丁寧な操作が求められるわけですが、危険を安全に体感できる特設コースでの試乗なので、時にダイナミックな運転操作でGR-FOURの特性を体感することにしました。


「車両に装着しているスタッドレスタイヤのグリップ限界(タイヤ摩擦円)を超えた領域での走行を体感いただきます。この領域は、良くも悪くもクルマの“素の状態”が試されます。言い換えれば、走る、曲がる、止まるの性能がきっちりと出ていないクルマだと、極端に走りにくさを(≒扱いづらさ)感じます」と語るのは、GRヤリスのチーフエンジニアである齋藤尚彦さん(トヨタ自動車GR運動開発部)。

齋藤さんは続けて、「GRでは、世界のさまざまなレースフィールドで開発を行い、人とクルマを鍛え続けています。たとえばGRヤリスでは、WRCからのフィードバックにより、今回のような雪道でもスムースに、そして安全に走らせることができます!」と声を大にします。

用意されたのは、30秒ほどで周回できる雪壁で覆われたミニサーキットです。
コース幅は4m程度と狭く、加速と減速で前後の荷重移動をしっかり行ってから、右に左にステアリングを切り込みつつ、アクセルワークで4輪を適度に滑らせながらコースを走り抜けます。

ボディのコンパクトなGRヤリス(小変更した最新モデル)では、1,280kgの車両重量と小さなボディによって小気味よくコースの周回ができました

GR-FOURには前後の駆動力配分を3つのモードで変更できる「4WDモードセレクト」が設けられています。進化型GRヤリスの場合、「トラックモード」(前60:後40~前30:後70の自動可変)、「グラベルモード」(前53:後47)、「ノーマルモード」(前60:後40)があります。

今回は特設コースに合わせて、最初にトラックモード、次にグラベルモードを試しました。トラックモードではGR-FOURシステムがドライバーが求める走りに近づけるように前後の駆動力を配分してくれます。そのため筆者は、ステアリング操作に集中することができました。


周回を重ねるうちに、もう少し自分で積極的に荷重移動させながら走らせたくなりました。そこでグラベルモードに変更し、タイトターンではサイドブレーキで曲がるきっかけをつくりながらペースを上げて走ります。

適度な前荷重のままステアリングを切り込み、それに合わせてサイドブレーキをスッと引く。すると後輪にのみブレーキが掛かり、車体はコマのようにクルリを向きを変えるのです。このとき、電子制御カップリングを通じて伝えられている後輪への駆動力(この場合はカーブへのアプローチなのでエンジンブレーキ)はカットされます。続くアクセル操作に対しても従順に反応してくれるので、気持ちよい旋回性能を体感することができました。
カローラがGRになるとどう変わる?

続いてGRカローラに乗り換えます。搭載エンジンはGRヤリスと同じ直列3気筒1.6Lターボで、ともに出力は304PSですが、最大トルク値が異なります。GRヤリスの最大トルクは400Nm(40.8kgf・m)/3,250~4,600回転。対するGRカローラは370Nm(37.7kgf・m)/3,000~5,550回転と最大値が低く、発生回転領域が広い特性です。

GRカローラはGRヤリスに比べて車両重量が190kg重く、ボディも一回り大型化されて前後トレッドも広く、ホイールベースも80㎜長くとられています。

そのため、4輪への接地荷重が高く、GRヤリスと同じ運転操作をしていてもクルマの挙動は落ち着いています。滑りやすい路面、しかも狭いコースでは、これが心理的な安心感にもつながりました。ちなみにGRカローラの4WDモードセレクトで、筆者の運転スタイルに合っていたのは前後50:50の駆動力配分になる「トラックモード」でした。

続いて直線路に移動して、パイロンスラロームでのタイムアタックを参加者全員でトライしました。GRヤリス(8速オートマチック「DAT」)とGRカローラ(6速マニュアル)で1回ずつ、5本のパイロンスラロームを終えた先で360度ターンを決めて、再び5本のパイロンをぬって走ります。結果、筆者は13名中2位のタイムをGRカローラで記録して見事、準優勝(?)を果たしました!

今回はGRヤリスとGRカローラに組み込まれたGR-FOURを駆使し、雪上での限界性能を体感しました。同じパワーユニット、同じスタッドレスタイヤ、同じコースで走っても、車体が違うとここまで挙動や楽しさのベクトルが違うのかと感心しきり。同時に、GRが目指した「日常領域から楽しめるスポーツ性能」が、滑りやすい路面では安心で安全な走りにつながることもよく理解できました。

ところで筆者はカローラと不思議なつながりがあります。実家で最初に手に入れた新車が2代目カローラでした。1974年の出来事です。それから50年後の2024年、カローラが自身の愛車になったのです。

シリンダーがひとつ減って排気量は約1.4倍になり、最大出力は約4.5倍で、車体の前後にはGRバッジがつきました。けれど、ボディカラーはホワイトで50年前と変わりません。2歳だった自分と52歳になった自分が同じ“カローラ”で移動の自由を得ることになろうとは……。できるかぎり、GRカローラとたくさんの想い出をつくろうと思います。

西村直人 にしむらなおと 1972年1月東京生まれ。WRカーやF1、MotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。自律自動運転や先進安全技術の研修会における講師役を継続的に拝命。近著は「2020年、人工知能は車を運転するのか」(インプレス刊)。 この著者の記事一覧はこちら