藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦する第9期叡王戦五番勝負(主催:株式会社不二家)は4月7日(日)に愛知県名古屋市の「か茂免」で開幕。対局の結果、角換わり腰掛け銀の競り合いを107手で制した藤井叡王が防衛に向け好スタートを切りました。

○3週間ぶりの対戦

二人は3月下旬に行われた棋王戦第4局以来の顔合わせ。振り駒が行われた本局、先手番を得た藤井叡王は角換わり腰掛け銀を目指します。対して後手の伊藤七段が選んだのは右玉に組み替える待機戦術。先手の仕掛けの主軸となる桂跳ねを封じるのがその主眼です。

間合いの計り合いののち、伊藤七段が中央志向に移行したことで局面が動き始めます。藤井叡王が飛車先の歩交換に乗り出したのはここしかないタイミング。
立ち遅れているように見える藤井陣ですが、右銀が桂頭を守り3筋からの反発を緩和している点が見逃せません。
○伊藤七段が見過ごした勝負所

先手の指し回しをだまって見ていては不満と伊藤七段も左辺から攻め合いに乗り出します。両者ともに飛車先の突破を目指した競り合いは盤面全体に波及。やがて手番を得た伊藤七段が先手陣深くに角を打ち込んだ直後に本局最大の分岐点が待っていました。

打ち込んだ角を見捨てる代わりに盤上中央の銀を外すことを選んだ伊藤七段ですが、局後この選択を反省することに。代えては角切りで先手玉を見える形にしておくのが優先で、感想戦ではこの変化を選べば難解ながらも先手自信のないわかれが多かったとされました。

○寄せは一瞬の切れ味で

一瞬のピンチを切り抜けた藤井叡王は満を持して反撃開始。手順に跳ね出した左桂が後手の右玉をにらむ攻めの起点となっては先手優勢に疑う余地はありません。終局時刻は17時58分、最後は形勢の開きを認めた伊藤七段の投了で藤井叡王の白星発進が決まりました。

敗れた伊藤七段は「本譜の進行で思いのほか先手玉がしぶとい(寄らない)のが誤算だった」と終盤の思考について振り返りました。伊藤七段の先手番で迎える第2局は4月20日(土)に石川県加賀市の「アパリゾート佳水郷」で行われます。

水留啓(将棋情報局)