●念願の冴羽リョウ役に喜びも「プレッシャーのほうが大きい」
北条司氏による人気漫画を日本で初めて実写化したNetflix映画『シティーハンター』が4月25日より世界独占配信される。主人公・冴羽リョウ(リョウ=けものへんに尞)を演じたのは、原作とアニメの熱烈なファンである俳優の鈴木亮平
「いつか冴羽リョウを演じたい」という念願を叶えた鈴木にインタビューし、『シティーハンター』そして冴羽リョウへの思い、脚本開発にも参加した本作でのこだわり、今後の抱負など話を聞いた。

主人公・冴羽リョウは、裏社会での様々なトラブル処理を請け負う超一流のスイーパー(始末屋)。無類の美女好きだが、いざ依頼を受ければ、並外れた銃の腕と身体能力、そして冷静沈着な頭脳で、仕事を遂行する。そんなクールでおバカな冴羽リョウを鈴木が演じ、ヒロイン・槇村香を森田望智、リョウの相棒・槇村秀幸を安藤政信、リョウとは腐れ縁の刑事・野上冴子を木村文乃が演じた。

――『シティーハンター』との出会いは、小学生の時にアニメ『シティーハンター』の再放送を見て、そこから原作も読むようになったそうですが、作品に惹かれた理由をお聞かせください。

一番惹かれたのは二面性です。
ストーリーもそうですが、冴羽リョウもふざけているパートとシリアスなパートの幅がすごい。ここまでの幅を持つストーリーやキャラクターは今まで出会ったことがないです。

――子供の頃から「冴羽リョウになりたい」と思う憧れ存在に?

なりたいなんておこがましいですけど、憧れがありますね。『シティーハンター』を見て最初は神谷(明)さんのように声優をやりたいと思いましたが、俳優になろうと思ってからは、いつか実写で冴羽リョウを演じたいなと思っていました。

――本作で念願が叶ったわけですが、改めて心境をお聞かせください。

この作品を実写化するのはすごく難しく、ついにできるようになったので、なんとかいいものにしないといけないというプレッシャーのほうが大きかったです。
シティーハンターは北条司先生のものであると同時に、全てのファンの人たちのものだし、見たことがない人にも面白いと思ってもらわないといけないので、いまだにプレッシャーのほうが大きいです。

――冴羽リョウを演じる際に特に意識したことを教えてください。

僕の中で、本心と見せている顔が常に違うというのが冴羽リョウなので、作品の中で本心を見せるのは1カ所でいいと思っています。今回の中では、「黙ってあの世で土下座してろ」と言うところのみでいいと思ったので、そこ以外は本心とは違うようにしました。

○“もっこりダンス”の振りと“もっこり”連呼の歌詞を考案

――おふざけシーンでは“もっこりダンス”が予告で公開され話題に。「『シティーハンター』の真骨頂」とコメントされていましたが、“もっこりダンス”への思い入れをお聞かせください。


僕にとってあれは『シティーハンター』になくてはならないもので、一つ前の劇場版でも入っていました。最初脚本になかったので、「女性をこれだけ性的に見ているリョウが、自分が体を張らないのはダメです。ぜひ入れてください」と提案しました。

――ご自身が振り付けを考えたそうですが、どのようにして作り出したのでしょうか。

アキラ100%さん、とにかく明るい安村さん、なかやまきんに君さん、ウエスPさんの4人が日本を代表する裸の芸を持っていらっしゃるので、この4人の動画をいっぱい見て、かっこよく言えばインスピレーションを得た、悪く言えばパクったので、いつか謝らないといけないなと思っています(笑)。ウエスPさんやアキラ100%さんのネタは、ほぼそのままやらせてもらっているので。


――この4人の裸芸には、人を惹きつけるものがあるということで参考に?

冴羽リョウを惹きつけるものがあるということですね。冴羽リョウなら絶対そこに食いつくよなと。なので、自分が思いついたアイデアを撮って編集してつないだものを監督に見せて、これをやりたいと(笑)。リョウちゃんがやってそうなダンスになったと思います。

――冒頭の“もっこり”を連呼する「第九」の替え歌も予告で公開され話題に。

最初は「とんぼのめがね」だったんです。
何の歌がいいかなと考えた時に、童謡がいいなと思っていろんな童謡を調べ、リョウが歌いそうなのは「とんぼのめがね」の替え歌「もっこりめがね」だなと思い、「もっこりちゃーんを見たいから」という歌詞を自分で書かせてもらいました。でも直前に権利の問題で難しいということになり、急きょ「第九」に変えました。

――リョウの気分になったら自然と歌詞が湧いてくるものなのでしょうか。

ホテルの部屋でめっちゃ考えました(笑)。冒頭で「もっこり」をお客さんに聞かせるというのがテーマなんです。実写版はどうなるんだろうとファンの方は思っているでしょうし、今の時代に俳優が「もっこり」と言えるんだろうかと心配してくださる人もいる。
その人たちに向かってはじめに「もっこり」を連呼することで意思表示をしたかった。

――らしさをちゃんと貫いていますよと、冒頭で伝えるわけですね。

そうです。そして、「とんぼのめがね」は海外の人には馴染みがないけど、ベートーヴェンの「第九」は馴染みがあると思うので、結果的にはよかったなと思っています。

――裸で踊るシーンもありますが、主演映画『HK/変態仮面』の経験が生きたなと感じていることはありますか?

恥ずかしくないですよね(笑)。 裸で踊るシーンも何も思わず楽しんでやれるので。

――『HK/変態仮面』で俳優として大事なものを得たわけですね。

僕の代表作ですから。とはいえ、もともとそんなに恥ずかしくはなかったので、そういうのを楽しめる性格でもあると思いますが。

モデルガンを買って銃さばきを猛練習 リョウらしい体作りも


――華麗な銃さばきを披露されていますが、モデルガンを買ってノールックで操れるように練習されたそうですね。

昔、ファンの方からリョウの銃をいただき、それはすでに馴染んでいましたが、撮影に向けて、今回リョウが使うタイプと同じ4種類のモデルガンを買って練習しました。タイプによって全然扱い方が違うので。

――ガンアクションにおいて一番苦労したことは?

さも当然のようにセリフを言いながら銃を解体するシーンが一番大変で、暗闇でずっと練習していました。最後にバネをピーンと飛ばしたくて、本番でちゃんと飛んだので、そこを一番見てほしいです(笑)。あと、リロード(弾薬の装填)をいかにかっこよく見せるか。顔の周りでやらないと(カメラが)寄った時に映らないので、どうすれば顔の周りで速くできるか、散々練習しました。

――ガンアクションのリアリティさも大きな見どころに。

世界配信ということで、実際に銃を持っている方も見ると思ったので、アニメ的な演出もたくさんありますが、銃に慣れた人たちに「わかってるね」と思ってもらえるところを目指しました。

筋肉を鍛えて保ちながら細身の体型に


――見事な肉体美を披露されていますが、細くてシャープに戦える体を目指したそうですね。

この前に『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の撮影があり、そこから徐々に落としていきました。もともとある筋肉を鍛えて保ちながら、全体的に小さくしていく感じです。脱ぐ前提ではなく、服を着た時にどう見えるか。大男すぎてもリョウっぽくないので、身長は高いけど細身というのは今回目指したところです。

――体重の変化は?

少し前に数字を卒業したので体重は量っていません(笑)。体重って嘘つくんです。『西郷どん』の前後では、同じ体重でも肉の付き方が全然違い、それを経験してから量っても仕方ないなと。

――以前インタビューさせていただいた時に、「冴羽リョウだと思って生きている」とおっしゃっていましたが、演じたからこそ気づけたことや変化はありましたか?

リョウはこんなことを考えていたんだという気づきがありました。原作だと無表情で何を考えているのかわからない時があるんですけど、演じてみると、香のことを考えているなとか、「槇村、俺どうしよう」と思っているなとか。そして、いろんな顔があるからこそ、もっと知りたいという思いが増しました。この先の香との関係など、演じていくとわかる部分が出てくると思うので、そこは気になります。

――冴羽リョウの二面性が魅力とのことですが、ご自身も二面性はありますか?

あると思います。演技など好きなことに対してはすごく真面目ですが、それ以外のことに関してはちゃらんぽらんなので(笑)

――リョウと同じように、やる時はやると。

そうですね。自分が大事にしているものに関しては、自分が決めたハードルを下げたくないという思いがあります。

脚本開発にも参加 続編のストーリーも「もう自分の中にある」


――脚本開発にも参加されたそうですが、どんな提案をされたのでしょうか。

最初に僕が参加した時点で大体のストーリーが決まっていて、コスプレとかいいなと思いましたが、ディテールが『シティーハンター』ではそうはならないというところがありました。例えば、リョウと槇村が事件を解決するというところが、最初は政治家の性的スキャンダルを揉み消す仕事だったのですが、それはシティーハンターは絶対に受けないと。シティーハンターが依頼を受けるのは心が震えた時だけだと漫画に書かれているので、もう1回ここに戻りましょうと。あと、ジョークに関して、今の時代にやると『シティーハンター』を知らない人がドン引きして、リョウが嫌われてしまうというところの修正などです。

――原作ファンとして脚本会議に参加されたわけですね。

そうなんです。オタクが来ちゃったという、面倒くさいヤツでした(笑)。でも、自分がリョウを演じるだけで終わりではなく、『シティーハンター』ファンに向けても届けるんだと。皆さんも真摯に聞いてくれましたし、僕も僕で、原作オタクを発揮しすぎた時に、それだと知らない人はついてこられないとアドバイスをいただいた面もありました。現代の新宿にして2時間の作品にする上で原作から改変している部分もたくさんありますが、絶対に愛のある改変にしないといけないということは常に意識していました。

――念願の冴羽リョウ役を演じた本作は、ご自身にとってどんな経験になりましたか?

世の中に出てお客さんがどう反応してくださるか、そこまでが仕事なのでまだ終わってないんです。むしろドキドキしていて、配信スタートが近づいてきてよりプレッシャーを感じます。

――手応えはいかがでしょうか。

もちろん手応えはありますが、反応を読める人はいないので。ここに食いついてくれるんだとか、ここはあんまりだったかとか、いろいろ出てくると思いますが、願わくは、それを次に生かしてさらに面白いストーリーを作りたいなと。『シティーハンター』といえば、リョウと香のこの感じだよねという、そのストーリーはもう自分の中にあります。今回、『シティーハンター』っぽくないことにもあえて挑戦していて、そういうのも含めて反応が気になります。衣装も原作の漫画に寄せていますが、アニメ版のブルーのジャケットが見たいという意見が多ければ、続編ではそっちに合わせようと思います。『シティーハンター』はみんなのものだと思っているので。

――あえて『シティーハンター』っぽくないことに挑戦されたということですが、例えばどんなことでしょうか。

冒頭のマットで飛ぶシーンは、僕の中では『シティーハンター』っぽくないんです。でも脚本家さんが書かれたものが面白かったので、冒頭だしあれぐらい勢いがあったほうがいいかなと。漫画でもアニメでも、あのノリってあまりないんですよね。アクションシーンであそこまで物理法則を無視するというのは。でも下品なアラジンというのが面白かったのでやってみたいと思いました。

○演じるだけでなく作品作りにも関わっていく必要性を実感

――最後に、この先の俳優人生をどう思い描いているかというのもお聞かせください。

『シティーハンター』の続きをやりたいというのももちろんですが、俳優としてだけではなく、もっと作品作りに積極的に関わっていくことが必要だなと感じています。今までは俳優は演技だけしていればいいという、それが美学でしたが、俳優としての見方では限界があり、国際的に日本の業界全体が競争力を持てないと。今はたくさんの国で俳優がプロデュースし始めていて、俳優に求められる能力が演技だけでなく作品作りへのセンスが問われてきていると思います。

――本作で脚本開発にも関わったことで、その思いが強くなったのでしょうか。

そうですね。もちろん演じることを基本にしていくつもりですが、作品作りにも関わって、日本のエンタメや自分が関わるエンタメのクオリティをもっと上げていけるような俳優になりたいです。

■鈴木亮平
1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。2007年に『椿三十郎』で映画デビュー。2014年、NHK連続テレビ小説『花子とアン』でヒロインの夫を演じ、2018年にNHK大河ドラマ『西郷どん』で主人公・西郷隆盛を演じた。2021年にTBS系日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』で主演し、2023年にもTBS系日曜劇場『下剋上球児』で主演を務めた。映画の近作は、『孤狼の血 LEVEL2』『燃えよ剣』『土竜の唄 FINAL』(2021)、『エゴイスト』『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』『リボルバー・リリー』(2023)など。

(C)北条司/コアミックス 1985 スタイリスト:丸山晃 ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)