リモートワークの浸透や、育休・時短勤務など育児との両立を支援する会社が増えてきている昨今。それに応じて、より広さや住環境を求めて郊外を選択する人が増え続けています。


在宅時間が長くなればなるほど、住まいの中や、住まいから徒歩圏内・自転車圏内の住環境が整っていることを重視したいもの。今回は、お家時間を豊かに大切にしたい人のための周辺環境やマンション設備などについて、注意したい点を解説します。エリア選びの指針、購入前に確認しておきたいポイントとして参考にしてみてください。

■「住み心地の良さ」は資産性にも直結する

まん延防止等重点措置がとられていた期間と比べ、最近では「出社回帰」の方針を採る企業が増えてきているようです。2023年時点での都内会社員における「週3日以上出社」の割合は75%で、2022年時点の60%から増加したという調査報告があります(※)。とはいえ、それでも限られた職種の人にしか在宅勤務が一般的でなかったコロナ禍以前には、毎日出社する人が8割以上。
それが5割超にまで縮小したことを考えると大きな変化です。

※参照元:「野村総合研究所、都内の会社員を対象に「働き方と移住」のテーマで2回目の調査」

また、昨今の少子化対策が喫緊の課題である状況、各種業界におけるDX化の流れを鑑みても、リモートワークが縮小するとは考えづらいでしょう。よって、資産性(=購入した物件が将来的にもニーズを満たし、売却しやすいものであるか)という観点で考えても、居住性に優れたマンションを選んでおくことは重要だといえます。

では、どんな視点で選んでいけば、家を中心とした暮らしがより充実していくのか? 住み始めた後に後悔しないためのポイントを早速、見ていきましょう。
【1】住み心地の良い「広さ・間取り」かチェック

お家時間が長くなればなるほど、広さが十分でない空間は窮屈に感じ、耐えがたくなってきます。とはいえ、広さが広くなればなるほど、もちろん物件価格も高くなるもの(築年数などの他諸条件を除く)。
闇雲に「80平米以上じゃないと絶対にNG!」「3LDK以上に限定」と決めてしまうと予算が合わなくなったり、他の大事な条件を諦めることにもなりえます。また、人によって「広さが欲しい」と考えた理由は異なるはず。「開放感が欲しい」のであれば、単純な面積よりも、リビングからの窓からの眺望や、前に建物がなく抜けていること、明るさが十分であること・・などが、本当に欲しい要素である可能性があります。逆に、「頻繁にホームパーティをしたいから」という理由であれば、リビングの広さは譲れないでしょう。さらに、キッチンはカウンターが良い、など、他の間取り条件が加わるかもしれません。

そこでおすすめなのは、まずは自分が「広さが欲しい」と思った理由、「どんな暮らしをしたいのか」という点から考えてみること。
そして、広さや間取りといった「数字」よりも、間取りそのものの形から、住んだ時の暮らしぶりをイメージしてみることです。案外、広さや部屋数以外の手段で解決できるかもしれないからです。

例えば、リモートワークをするから個人的な書斎スペースがほしいという場合は、近年よく間取り図で見かけるようになった「DEN」(窓のない大きめの納戸のようなスペース。居室としてカウントされないため、「2LDK+DEN」というように表記される)を利用することもできます。収納スペースが欲しい場合は、自宅の部屋内に納めようとせず、外部のトランクルームや収納サービスを利用することも一つの方法です。

物件探しを続けているうちに、間取りや平米数を見れば自分の欲しいイメージに近い物件かどうか、おおよその見当がつくようになります。
間取り図や平米数を見ただけで、暮らしのイメージが浮かぶようになるまでは、ポータルサイトや物件検索アプリなどの条件設定は少し広めに設定しておくと良いでしょう。
【2】住み心地の良い「明るさ・日当たり」かチェック

在宅時間が長い場合、明るさや日当たりも重要です。明るい部屋ならリモートワークをするにも、仕事に前向きにモチベーションを持って向かうことができるでしょう。一方で、では南向きがベストかというと、そうとは限りません。

気にすべきなのは、方角よりも窓から見た眺望。「前に建物があるのかないのか」によって、「明るい」と感じる部屋になるかが決まります。
北を向いていても前が抜けていれば明るさは採れます。逆に、前に建物が迫っていれば、南向きでも光はなかなか入ってこないでしょう。また、タワーマンションが立ち並ぶエリアの特に上層階は眺望が抜群であるぶん、日差しが入りすぎて暑い、前に建つマンションの照り返しが眩しい・・ということも。部屋の向きや、自分が自宅にいる時間帯がいつなのかによっても、「理想の明るさ」は変わってきますので、自分がよく自宅にいる時間帯で物件を内見できるとベターです
【3】住み心地の良い「共用施設・サービス」かチェック

3つめの項目は、マンションの共用施設やサービス。タワーマンションのような大規模マンションだと、キッズスペースやジム、保育園、スーパーなどまですべて一棟におさまる設計になっているマンションも少なくありません。共働きの子育て世帯で、自宅でリモートワークをしているご家庭などであれば、ほぼマンションですべてが完結するため、暮らしがグッと楽になるでしょう。


ただし、一つ気にしたいのは、「キッズスペース」など限られた用途だけにつくられた共用施設がある場合。子育て世帯であれば、非常に便利なありがたい共用施設ですが、一方で、対象年齢を過ぎたお子さんを持つご家庭や、お子さんがいない世帯にとっては、必要がない設備に・・。共用施設である以上は、管理費として全住戸に負担が義務づけられていることになります。将来的にそのマンションに住み続けることを考えた場合、その分の管理コストを払い続けるのか・・。もちろん、機能を限定して特化した設計になっているからこそ、便利な共用施設としてのクオリティを担保しているという側面もあるでしょう。特定の世帯に限定した共用施設を選ぶ場合は、将来的な住み替えも視野に入れながら購入をするのが、賢いライフプランといえます。逆に、一箇所に将来長く住み続けたいと思うのであれば、役割を固定しない共用施設だけを備えたマンションを選択した方がいいかもしれません。
【4】住み心地の良い「周辺環境」かチェック

最後は最寄り駅を含めた周辺環境をみてみましょう。お家時間を充実させるエリア選びのポイントは、こうしたところが考えられます。

スーパーや商店街などの買い物施設・スポット
緑道や公園、水辺などの自然環境
保育施設
映画館やジムなどのエンターテインメントスポット

100%ネットスーパー利用の方でない限り、日々の買い物ができる場所は、充実していればいるほど便利です。選択肢が多いことで、使い分けができたり、買い物自体を楽しんだりもできるでしょう。「ららぽーと」のようなショッピングモールなのか、昔ながらの商店街のようなスポットなのか、好みに応じて選ぶのが良いでしょう。街の雰囲気に直結するところなので、内見時で現地を訪れる時には、自分が実際に暮らしたら・・という視点で、買い物エリアを見てみましょう。

また、緑道や公園などの自然環境が近くにあると、お家を基点とした暮らしがさらに充実します。お子さんの遊び場やペットの散歩コースとしてはもちろん、ランニングなどの運動、テレワーク時の気分転換など、公園は様々な形で私たちの身体・メンタルの健康に役立ってくれるからです。加えてお子さんがいるご家庭であれば、「遊具やグラウンドなどがあるか」「ボール遊びはOKか」など、どんな公園なのかも見ておきたいところです。

さらに公園には、お子さんがいる親御さん同士やペット仲間、ご近所さんとのコミュニケーションの場としての機能もあります。こうした公共スペースが街にあれば、気持ちよく暮らせる街の空気感が醸成されることにも繋がります。湾岸や川沿いなどに限られますが、水辺が近い場所であれば、より開放感が得られるでしょう。内見時には、こうした公共空間もチェックしておくことで、その街の雰囲気を知ることができます。
■後悔しない家選びに向けて「住み心地の良さ」を見極めるには?

ここにあげたものは、「快適に暮らせる住まいに求められるもの」としての一般的な指標の例です。物件の数は限りがありますし、中古マンションであればまさに一期一会。すべてを網羅する物件を選ぼうとすると、予算に合わないということにもなるでしょう。絶対的な指標としてではなく、これを元に家族で話しあったり、ご自身にとっての譲れない部分を改めて考えてみる土台としてとらえていただければと思います。

購入前にきちんとご自身の求める条件に合致しているかを見極めるためには、基本的なことではありますが、「内見時にしっかりと確認すること」が重要です。間取りも見比べて、「実際に家具をおいたらどうか?広さは十分か?」「毎日の買い物はどうなるか?」「子供の送迎は不便ではないか?」など、その家でのリアルな暮らしをシミュレーションしてみるのも良いでしょう。

また、ご自身のキャリアやお子さんの成長など、家族のライフステージの変化にともなって、生活の上で求める要素は変わってくるもの。お子さんが成長するにつれて、「収納が足りない・・」「やっぱりもう一部屋あった方がいいかも」など、諸条件が複雑に絡むことで「今のベスト」は必ず変わります。「絶対に失敗してはいけない」と思い詰めるよりも、「その時は住み替えればいい」という考え方を持つことも、不確定要素が多い現代において助けになるかもしれません。

あるいは、そうした変化に応じた「可変性の高い物件を選ぶこと」も賢い選択肢の一つといえます。新築マンションでいうと伊藤忠都市開発による「間取りのない家」など、自由に組み替えられるプランも販売されていたりするほか、中古マンションでリフォームをすることを想定して、「リフォームしやすい物件」を買うこともできます。壁を抜くとなると、最低でも20万円ほどはかかるため、部屋が小さく分かれていない物件を買って必要が出てきたら仕切りや壁を立てる、というのも良いでしょう。
■「通勤しやすい」は絶対必要か?「幸せ」な住まいの条件を話し合おう

住まいの購入を考えた時に、やはり最初に考えるのは、「まずどの街にしようか」ということ。その時に、首都圏の方であれば都心部への通勤・通学のしやすさを重視する方は少なくないでしょう。

ただ実際には、24時間という時間軸で考えると、通勤時間よりもお家で過ごす時間の方がずっと長いはず。住まいを買うということは、言い換えれば、自分や家族にとって人生における「より豊かな時間が過ごせる拠点」を買うということでもあります。時間そのものを買う、と言ってもいいのかもしれません。

そう考えると、職場など自分ではどうにも「動かせない」要素を基準としてそこに自分や家族の住まいを合わせるのではなく、「どんなふうに家族で過ごせたら、今よりさらに幸せか?」と考えてみる。そこから、欲しい条件を一つずつ選んでいく・・そんなプロセスを大事にできたら、購入後の満足感が大きく違ってくるのではないでしょうか。住宅購入に関わらず、「どういう暮らしが理想か」「どうだったら、今ある『ちょっと不満なこと』が解決できるか」について、日頃から話せていれば、家族間での条件のすり合わせもスムーズに進むでしょう。

住宅購入は複雑な上に大きな出費を伴うため、夢だけで語ることができない側面もあります。ですが、より良い毎日を得るためのものであることは、いつの時代も変わりません。また、住宅購入上の手続きや意思決定のための情報収集が楽になっていることもあり、住み替えもしやすくなっています。幸せの形は、ライフステージによっても変わるもの。あなたやご家族の貴重な人生の一部を、自分たちらしく、より満たされたものにするために、「終のすみか」と思わず変化に応じて、軽やかに住まいを選んでいっていただけたらと思います。

針山 昌幸 はりやま まさゆき 株式会社Housmart 代表取締役。不動産仲介会社向けの営業支援システム「プロポクラウド」やメディア『マンションジャーナル』など、住まい選びをより自由にすべく幅広く事業を展開。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら