●「今の顔が一番好き」「味が出ていい感じになっている」
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』での羽鳥善一役が記憶に新しい俳優・草なぎ剛。5月17日には、寡黙で実直な武士を演じた主演映画『碁盤斬り』が公開を迎える。
「僕の代表作になった」と胸を張る草なぎにインタビュー。本作での役作りや演じることへの思いを聞くとともに、経験を重ねてたどり着いた「適当が一番」という生き方に迫った。

○白石和彌監督との初タッグに安心感「慎吾ちゃんのおかげ」

『孤狼の血』などの白石和彌監督がメガホンをとった本作は、ある冤罪事件によって娘と引き裂かれた男が、武士としての誇りを賭け仇討ちに挑むリベンジ・エンタテイメント。冤罪に貶められた浪人・柳田格之進を草なぎ剛、格之進の一人娘・お絹を清原果耶が演じた。

白石監督とは今回が初タッグとなった草なぎ。格之進という役について監督と話し合うことはなかったものの、監督の中にある明確な格之進像を感じ取ることができたという。


「監督の中にはっきりとしたものがあって、僕なりにそれを感じ取って演じられたのかなと。当たり前ですけど台本にセリフが書いてあるので、それを言うという感じでやりました(笑)」

『凪待ち』で白石監督とタッグを組んだ香取慎吾から話を聞いていたこともあって、最初から安心感があったと明かす。

「白石監督は慎吾ちゃんと友達なので、安心してできました。慎吾ちゃんから『つよぽんもいつか一緒にできたらいいね』と言われていて、僕も意識があったので、慎吾ちゃんのおかげだったのかなと。白石監督も慎吾ちゃんから剛くんのことを聞いているよという感じがあり、役についてほとんど話さなくても通じ合えているところがありました。年も一緒なので、監督と遊びながらできた感じがしています」

草なぎが演じた格之進は、冤罪に貶められ復讐に燃える武士。
普段のお茶目な草なぎとは別人のような、気迫あふれる姿を見せている。

「清原さんや國村(隼)さんとの掛け合いの中でどんどん楽しくなって、そこに白石監督のグルーヴ感というか、こんな角度から撮るんだとか、周りに乗せられて演じることができました」

完成した作品を見て、「俺すごいことやってるな!」「俺こんなことやってたの!?」と驚いたという。

「役に集中して入り込んでいたのかなと。こんなことやっていたんだなと思ったのは人生で一番かもしれない。自分で見て『俺かっこいいじゃん!』『迫力すごい』と思って、『生まれた時代を間違えちゃったかな』と(笑)。江戸時代に生まれたらもっと人気が出たんじゃないかなと思いました。
自分のクレジットが出た時に、『ミッドナイトスワン』の時は放心して立てなくて、今回は『俺、生まれた時代間違った』というのが最初の感想です(笑)」

また、笠姿にご満悦の様子。「似合っているなと。笠が似合う人ってあんまりいないと思うんですけど、馴染んでいてかっこいいなと思ったので、令和でも笠かぶろうかな。1周、2周回って笠が流行るかもしれないですし、2024年は“笠剛”でいこうと思います(笑)」と満面の笑みを見せた。

○目指すは“つよヴィンテージ”「経験を重ねてにじみ出てくるものがある」

そして、「僕は今の顔が一番好き。昔も嫌いではなかったけど、年齢を重ねて自分の顔が好きになりました」と語る草なぎ。


「ヴィンテージが好きで、デニムもギターもちょっと汚れたり枯れたりしわが入ったりしているものが大好き。若い時からなぜかそういうものが好きで、最終的に自分がヴィンテージになりたいと思っているんですけど、今回の格之進を見た時に、味が出ていい感じになっているなと手応えがあり、うれしかったです」

積み重ねた経験や生き様が顔に出るというが、草なぎもそう感じているという。

「(愛犬の)クルミちゃんと出会ったことで母性が目覚めて、清原さんのことを愛おしく思う父の気持ちが出たり。人間は一つ一つ経験を重ねて、特に失敗を重ねる中で顔ににじみ出てくるものがあるのかなと思います」

そして、「私は剛くんなので“つよヴィンテージ”を目指していければ」と笑顔で宣言。「うれしいことや悲しいこと、どちらもありますが、その時その時、自分に素直に生きることが自分の未来の顔を作っていくことなのではないかなと思います」と語った。

演じることは「心も体も健康的でいることと向き合う仕事」

本作では、セリフなしで背中だけで見せるシーンも男らしさがあふれているが、「何も考えてないですよ」と話す草なぎ。

「京都がめちゃめちゃ寒かったので、寒いなと。
國村さんと2人で抱き合って、励まし合っていました(笑)。震えたらダメだから耐えて。寒さに耐える感じが男らしさとして出たのかなと思います」

また、演じた格之進について「何でこんなこと言うんだろう」とイライラすることが多かったと明かし、その怒りが役にいい影響を与えていたのではないかと考えている。

「復讐に固執せずに娘と2人で穏やかに暮らせばいいのになと。娘を苦しめるたびに格之進に腹が立って、その怒りが格之進の怒りとしていい感じに出たのかなと思います。格之進には共感できるところが少なかったが、素敵な役にしないといけないと思ったので、古き良き、譲れないという、今にはない美徳があるのではないかという思いを込めて演じました」

そして、白石監督について「とても穏やかで丁寧な方」と印象を述べる。


「なんでそんなに気が利くのかなと思うくらい、いろんなことにすぐ気づいて自分で動くんです。バイオレンスな作品を撮っている方とは思えないけど、丁寧で細やかな方だからバイオレンスをしっかり撮れるんだなと逆に思いました」

技術的にもこだわってさまざまな撮り方をしていたため、「待ち時間が多かった」と言うも、完成した映像を見て感動したという。

「まさしく1カット1カット魂を込めて映画を撮っているぞという、すごく素敵な画になっていたので、『なんで時間かかっているの?』なんて言わなくてよかったなと(笑)。時間をかけて丁寧に撮ったからこそ、素敵な画が撮れたんだなと」

○「お芝居は元気じゃないとできない」 年齢を重ねてより実感

『ミッドナイトスワン』(2020)で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021)やNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(2023~2024)などでの演技も好評を得た草なぎ。俳優としてますます注目を集めているが、自身は演じることをどのように捉えているのだろうか。

「あまり深く考えてないですが、演じるということは心も体も健康的でいることと向き合う仕事なんだなと感じています。体を使う仕事なので、元気でポジティブじゃないと現場も進まない。年を重ねてよりそう思うようになりました」

本作の山のシーンでも元気でいる大切さを実感したという。

「山のシーンは超大変でした! 行くまでに1時間ぐらい山登りをして、撮影は7分ぐらいで終わって、また1時間ぐらいかけて帰るという。元気がないと行くまでに疲れてしまう。スタッフさんもそうですが、みんな元気じゃないとできないと思うので、それがお芝居なのかなと思います」

「いかに力を抜いて楽しむか」 そのほうが満足のいく演技に

草なぎは演技についてたびたび「適当にやりました」と話すが、時間をかけて役と向き合っていた時期もあったという。

「努力したとは思っていませんが、30代とかは寝る間も惜しんで何度も何度も台本を読み、役についてすごく考えた時期もありました。若い時に思い悩んだ経験があっての今なので、ただ単に適当にやっているというわけではないのかもしれません」

数々の経験を重ねたからこそたどり着いた“適当”という境地。「今の僕としては適当が一番なんです! そのほうが自由に演じられて楽しいし、夜遅くまで台本を読んでいたら朝のパフォーマンスが落ちてしまうので」と語る。

『碁盤斬り』や『ブギウギ』、そして昨年末から今年にかけて上演された主演舞台『シラの恋文』で力を抜く大切さをより感じたという。

「白石監督にも本当によくしていただいて、リラックスした状態でお芝居できる環境の中で演じられた結果、すごく満足のいくものができました。『ブギウギ』もリラックスして向き合えて。肩の力を抜いてやったほうが、むしろ力が入る。ここぞという時にバシッといく気がします。『シラの恋文』も力をうまく抜くことでいい感じにできたなと思っていて、力を抜くことを覚えました」

今後の抱負を尋ねると、「これからも適当に生きていけたら」と笑顔で回答。「いかに力を抜いて楽しむか。力を抜きながら力を入れるというのがテーマです。力を抜いて楽しんで行こう! という気持ちです。そのほうが高く飛べる気がします。あと今年はファンミーティングも楽しんでいきたいと思います」と語ってくれた。

■草なぎ剛
1974年7月9日生まれ。91年にCDデビュー以来、数々の名曲を世に送り出し、『NHK紅白歌合戦』に23回出場。17年9月に稲垣吾郎、香取慎吾と「新しい地図」を立ち上げた。俳優、歌手、タレント、YouTuberなど幅広く活躍。近年の主な出演作は、「第44回日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞を受賞した『ミッドナイトスワン』(20)、『サバカン SABAKAN』(22)、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(21)、カンテレ・フジテレビ系ドラマ『罠の戦争』(23)、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(23~24)など。

(C)2024「碁盤斬り」製作委員会

スタリイスト:細見佳代(ZEN creative) ヘアメイク: 荒川英亮 衣装:ジャケット・Tシャツ・パンツ・シューズ EMPORIO ARMANI(エンポリオ アルマーニ)