アップルが、新しいiPad ProやiPad Air、Apple Pencil Proを発表するスペシャルイベントを開催しました。筆者は、5月7日にイギリスのロンドンで開催された発表会に参加。
最新プロダクトを体験したファーストインプレッションをいち早くレポートします。

Apple M4チップをiPadで先行投入した理由

iPad Proは「初めてづくしのiPad」になりました。アップルが独自に設計するAppleシリコンはMacよりも早く「Apple M4」を搭載。Apple Mシリーズのチップで最大となる10コアのCPUと、M3で登場したGPUアーキテクチャをもとにして作られた次世代GPUを搭載。AI=機械学習処理に特化する16コアのNeural Engine(ニューラルエンジン)も、これまでで最もパワフルなのだとアップルは伝えています。

アップルは、3ナノメートルテクノロジーにより製造されるApple M3チップをMacの新製品に拡大するさなか、なぜM4チップをiPadにいち早く搭載することを決めたのでしょうか? その理由は、iPadシリーズに初めて有機ELを用いた「Ultra Retina XDRディスプレイ」を搭載し、過去最薄のボディを実現するためにM4チップの開発が欠かせなかったからです。


有機ELは、液晶よりも明暗の高いコントラスト再現と豊かな色彩の表現力に富んだディスプレイであると言われていますが、電力も多く消費します。アップルは、iPhoneで先駆けて有機ELディスプレイの搭載を実現していますが、10インチを超えるiPadの大きな画面で均一にムラのない映像表示を実現するためには、2枚のパネルを組み合わせて明るさと表示精度を向上させる「タンデムOLEDテクノロジー」の搭載が不可欠でした。そして、アップルはこのテクノロジーをiPad Proに載せるため、高いパフォーマンスと電力効率を備えるM4チップをiPad Proに向けて先行開発したというわけです。

実際のプロセッサーパワーについては、MacBook Proシリーズで選択できるM3 Pro/M3 Maxの方に軍配が上がるようですが、それぞれをiPad Proに載せようとすると、今度はさまざまな理由からiPadの薄型・軽量化が実現困難になってしまいます。このことも、アップルが新しくM4チップを起こした理由の1つです。
Ultra Retina XDRディスプレイは大満足の高画質!

発表会の会場で、iPad ProのUltra Retina XDRディスプレイの映像を視聴しました。
植物や動物などを写したHDR動画の没入感は、映像の奥底に吸い込まれそうになるほど圧倒的でした。有機ELは1画素ごとに明るさを調整できるだけでなく、黒色の映像を表示する際には画素を完全にオフにすることで“漆黒”が表現できるところに強みがあります。

自発光方式のディスプレイであることからバックライトが要らず、薄型・軽量化にも元来向いています。高画質な映像もさることながら、これまでの5.9mmという薄型ボディをさらに更新した“極薄サイズ”のiPad Proはとても魅力的でした。

11インチのiPad Proも5.3mmと十分に極薄なのですが、大型13インチのiPad Proは内部の部品を全体に均しながら配置することで、さらに薄い5.1mmに到達しました。もちろん、十分な堅牢性も確保しています。
質量は、13インチモデルがこれまでの12.9インチのモデルよりも約100グラム軽くなりました。iPad Proを使ってきた人も、新製品の実機を手に取ると思わず魅了されると思います。

ただ、新しいiPad Proのために一新された「Magic Keyboard」は、新旧製品の互換性がない点については注意が必要です。新しいiPad Proでキータイピングを多用したい人は、Magic Keyboardも新しく買い直す必要があります。従来のキーボードは使用できません。

新しいiPad ProにMagic Keyboardを装着した本体の厚さは、13インチのM3搭載MacBook Airの厚さと同じになるそうです。
新しいMagic Keyboardはキーエリアとパームレスト、トラックパッドが堅牢なアルミニウム製になり、経年変化にも強いiPadのキーボードが誕生しました。

カメラとSIMの仕様をiPadにより最適化した理由

iPad Proのメインカメラは広角・超広角のデュアルレンズでしたが、新しいiPad Proは12MPの広角カメラのみ搭載するシングルカメラユニットになりました。それと引き換えに、True Toneフラッシュを強化した「アダプティブTrue Toneフラッシュ」を搭載しています。カメラの仕様変更を行った理由は、iPad Proのカメラをドキュメントのデジタルスキャニングに利用するユーザーの期待を反映したからです。

新しいiPad Proは、AIを活用してカメラアプリが書類を認識し、照明の影が写り込まないようにフラッシュを自動的に調光補正しながらデータ化します。その際、複数の写真を瞬時に撮影し、データのつなぎ合わせを行いながら高画質なスキャニングを行う仕組みです。


カメラとしての画質や使い勝手に変更はないと思いますが、このあたりは改めて実機で検証したいと思います。

新しいiPad ProのWi-Fi+Cellularモデルは、物理SIMを装着するカードスロットを省略しています。現在、多くのグローバル通信事業者がeSIMによる通信サービスを提供していることを受けて、アップルが仕様変更に踏み切ったわけですが、通信事業者によってはeSIMに対応していない場合もあり得ます。アップルは、Webサイトなどで仕様変更の注意を喚起していますが、iPadを海外出張などに持ち出してセルラー通信をよく使っている人は、買い替えの際に確認が必要です。

アップルの「Pro Display XDR」が対応するNano-textureガラスが、新しいiPad Proでオプションの仕様として選べるようになりました。11インチ、13インチのモデルとも、1TB以上のストレージを選択した場合に限り、16,000円の追加料金で変更できます。
iPad Proのディスプレイには反射防止コーティングが施されていますが、ガラスにマットコーティングを“彫り込む”処理を施したNano-textureガラスは、光を散乱させて写り込みを最小限に抑えます。タッチ&トライ会場でも、シーリングライトの写り込みが軽減される効果を実機で確認できました。

Nano-textureガラスは、iPad Proを映像や写真のクリエイティブワークに活用する人におすすめします。アップルはNano-textureガラスが、Apple Pencilの「書き味」に変化をもたらすものではないと伝えていますが、使うほど次第にすり減るApple Pencilのペン先や保護フィルムとNano-textureガラスのコーティングとの相性が悪い可能性も考えられると筆者は思います。iPad Proをイラストワークや製図など、Apple Pencilとの組み合わせで多く使うことを考えている人は、標準ガラス仕様を選んだうえで、任意のフィルムアクセサリーで書き味などを好みに合わせ込む方がベターかもしれません。
多彩なジェスチャー操作に対応するApple Pencil Pro

Apple Pencilのラインナップに、新しいiPad ProとiPad Airに対応する「Apple Pencil Pro」が追加されました。

サイズと質量、ペンの重心、ルックスは第2世代のApple Pencilから大きく変わっていませんが、内蔵するセンサーが増えています。ペン先を指でグッと握る「スクイーズ」、回転させる「バレルロール」のジェスチャー操作が追加され、操作に対して触覚エンジンがフィードバックを返します。さらに、ペン先をiPadの画面から離した状態で描画のプレビューを表示する「ホバー」が、iPad ProとiPad Airの両方をサポートしました。

パレットのユーザーインターフェースも、新しいiPadシリーズとApple Pencil Proの組み合わせに合わせて一新されています。実機で試した使用感はまた報告したいと思いますが、いまApple Pencilの買い替えや買い増しを検討している人は、Apple Pencil Proが現在のところ新しいiPad ProとiPad Airだけに対応する専用アクセサリーであることにご注意ください。

iPad Airは、初めての13インチモデルが誕生!

iPad Airが久しぶりにモデルチェンジします。チップがApple M1からApple M2になり、11インチに加えて13インチの大型モデルが追加されます。Apple Pencil Proに対応していますが、Liquid Retinaディスプレイは動画やWeb画面の滑らかなスクロール表示、ペンシルによるスムーズな書き味を実現するProMotionテクノロジーには非対応となります。

大きな13インチのモデルは、11インチよりも同じコンテンツの表示エリアがより広くなるので、Apple Pencilによるクリエーションがさらにはかどりそうです。新しいiPad ProとiPad Airの13インチ同士では価格差が9万~10万円もあるので、何より「画面の大きなiPad」であることに重きを置く人は、購入検討の際にiPad Airも候補に入れるべきでしょう。

13インチのiPad Airは、本体に搭載する横向きステレオスピーカーで「2倍の低音」が再生できます。今回は会場で実力を試せなかったので、機会を見て新しい11インチ対13インチの「オーディオ対決」を企画してみたいと思います。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら