「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。
一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、保険業界の協業・共創を推進するGuardTech検討コミュニティと、住友生命発のDX人材育成プログラムを運営するVitalityDX塾が2024年6月7日にFinGATE KAYABAで開催した、「金融×エフェクチュエーションのミライ」の様子をお伝えします。

エフェクチュエーションの5つの行動原理


エフェクチュエーションは、現時点でのコントロール可能な手段を重視する手法です。正確な予測と、そこから逆算した手段の選択を重視する従来型の手法(コーゼーション)とは異なり、不確実性の高い状況で偶然性も味方につけてプロジェクトを成功させる手法として注目されています。

経営学者のサラス・サラスバシー教授は、成功している起業家たちの意思決定についての実験や調査から経験則のパターンを発見し、それをエフェクチュエーションの5つの行動原理にまとめました。

手中の鳥の原則(Bird in Hand Principle): 不確かな未来よりも、今、確実にあるものを重視する。

●許容可能な損失の原則(Affordable Loss Principle): 失敗しても致命的でない範囲のリスクを取る。

クレイジーキルトの原則(Crazy Quilt Principle): さまざまなパートナーと協力して1つの事業を生み出す。

●レモネードの原則(Lemonade Principle): 逆境や不運を前向きに捉える。

飛行機の中のパイロット原則(Pilot in the Plane Principle): 不測の事態に備えて臨機応変な行動をする。


このエフェクチュエーション、あるいはエフェクチュエーション・ロジックはVUCA時代の金融業界に求められているのではないか。新規ビジネスを成功させる可能性があるのではないか、という着想から企画されたのが、ホケンノミライのスピンオフイベント「金融×エフェクチュエーションのミライ」です。

「金融×エフェクチュエーションのミライ」


当日は、樋原伸彦氏(早稲田大学 大学院経営管理研究科 准教授)と岸和良氏(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)、温水淳一氏(GuardTech検討コミュニティ 代表)によるセッション「金融×エフェクチュエーションのミライ」をはじめとする6つのセッションが行われました。いずれも興味深い内容でしたが、筆者が特に印象に残ったのは、「貴方が、未来を変える、創り出す!」という樋原伸彦氏の言葉です。

「未来を予測したり、未来をただ待つよりも、自分たちが未来を創造するという意識を持って取り組んでもらいたいですね」と、3月に開催されたホケンノミライ後の取材(若者・よそ者・バカ者を排除しない―GuardTech検討コミュニティが共創するホケンノミライ)で温水さんがおっしゃっていたように、未来に当事者意識をもってのぞむことが重要ではないでしょうか。

また、岸さんの「エフェクチュエーションでスタートし、ある時点でコーゼーションに移行するのが、新規ビジネスにおいては有効ではないか」という言葉も印象的でした。「エフェクチュエーションが善、コーゼーションが悪」ということではなく、両方に利点があり、フェーズによって使い分けることが大切でしょう。

エフェクチュエーションと計画的偶発性理論


当日はすべてのセッションを聴講しましたが、複数のセッションで「エフェクチュエーションという言葉は知らなかったけど、振り返ってみえると自分はエフェクチュアルだった、という人はいる」という内容がありました。かく言う筆者もその一人なのでしょうが、そういう人はどんな企業にも組織にもいるのでしょう。そんな内容を聞いていて思い出したのが、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授が1999年に発表したキャリア理論「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。クランボルツ教授は成功したビジネスパーソンのキャリアについて調査を行い、「そのターニングポイントの8割が、本人の予想しない偶然の出来事によるものだった」と結論付けています。

「なにをしたいかという目的意識に固執すると、目の前に訪れた想定外のチャンスを見逃しかねない」と、クランボルツ教授は指摘しました。また、計画的偶発性理論の骨子には以下のような内容があります。

1. 予期せぬ出来事がキャリアを左右する
2. 偶然の出来事が起きたとき、行動や努力で新たなキャリアにつながる
3. なにか起きるのを待つのではなく、意図的に行動することでチャンスが増える

エフェクチュエーション・ロジックにも通じるものがありますね。キャリアのターニングポイントも、新規ビジネスのターニングポイントも、計画性だけでどうこうできるものではないのかもしれません。

しかし、何でも無計画で良いというわけでもありません。
型なしと型破りでは、全く異なるからです。世阿弥が記した能の理論書『風姿花伝』の中に、「核(型)に入らなければデタラメになる。核に入れば窮屈になる。核に入り核を出て、初めて自由の境地に至る」という言葉があります。どんな物事でも、基本や原理原則を習得しておくことは欠かせないでしょう。エフェクチュエーションとコーゼーションの両刀使いになれれば、人材としては引く手あまたかもしれませんね。

エフェクチュエーションと体験資産


本連載ではこれまでも、「究極の投資は自己投資なのか」や「投資という生き方」の中で、体験に投資することの大切さや無形資産を築くことの大切さをお伝えしてきました。知識や経験、体験、アイディア、人とのつながりも無形資産であり、これらの資産は、自分の行動次第で一生涯増やし続けることができる資産です。

体験にお金を払う人は、投資的な生き方をしている人だと思います。体験に投資していれば、一時的に資産が目減りしたとしても、アイディア次第で後からいくらでも取り返すことができます。お金は取り返せても、チャンスは取り返せません。保険をかけるような生き方では、流れや勢いはわからないでしょう。
年齢や立場に捉われず、体験に投資してほしいと思います。何事にも、遅すぎるスタートはありませんから。

なお、2025年には組込型保険のハッカソンも開催するそうです。賞を獲得できるかどうかはさておき、体験として参加されてみてはいかがでしょうか。

中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら
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