本稿は『深掘り! IT時事ニュース 読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社刊)より、内容の一部を抜粋・編集したものです。
アマゾンにやらせレビューが蔓延
アマゾンやグーグルマップの「クチコミ」のやらせが、たびたび大きな問題になっています。特に、2019年にNHKテレビがアマゾンでのクチコミの実態を取り上げて社会的問題に発展したほか、2024年にはグーグルマップのクチコミで病院がグーグルを提訴しています。
クチコミはユーザーが参加するメディア、いわゆるCGM(コンシューマージェネレイテッドメディア)には必ずといっていいほどあるもの。CGMの機能がある他のサービスでも同様の問題が起きています。たとえば、レストランの評価機能があるグルメサイト、ホテル・旅館などの予約サイト、病院などはグーグルマップのクチコミで、やらせや嫌がらせレビューが問題になっています。
なぜ、クチコミでのやらせがこれほど蔓延してしまうのか、アマゾンを例にまとめたのが下の図です。アマゾンは商品数が膨大にあることが特徴ですが、結果としてひとつひとつの商品が埋もれやすい欠点があります。たとえば「ワイヤレスイヤホン」と検索しただけでも、似たようなデザイン・機能・価格の商品がズラッと並ぶのです。
消費者から見るとどれも同じものに見えるため、比較して選ぶ要素がありません。
結果としてやらせレビューが多いのは、価格が安く定番商品がないジャンル、たとえばワイヤレスイヤホン、ヘアドライヤー、モバイルバッテリーなどになります。やらせレビューは中国などの輸出代理店が仕掛けることが多いため、特に手ごろな価格の電気製品で目立っています。アマゾンでは、自動プログラムなどでやらせレビュー対策を始めており、効果は出てきていますが、まだ完全とは言えません。
グルメ・ホテル予約サイトでのやらせ
グルメサイトやホテル予約サイトでのやらせレビューもあります。多くは、お店やホテルが直接やるのではなく、PR代理店が手がけています。ほとんどのPR代理店は正当な宣伝をしていますが、ごく一部にやらせレビューをする悪徳代理店が存在しています。
たとえば、グルメサイト向けでは、お店に対して「有名レビュアーを連れていきますよ」と営業するPR代理店があります。有名レビュアーを連れて行くことで、有利なクチコミを書いてもらおうという仕掛けです。
背景にあるのは、グルメサイトでの評価制度です。グルメサイトでは、中傷ややらせなど問題のあるレビューを排除するために、レビュアー評価制度を導入しているところがあります。実績のあるレビュアーを認定し、そのレビュアーの評価をサイト全体の評価として表示する仕組みです。これなら匿名アカウントによる中傷ややらせを排除できますから、賢い仕組みと言えるでしょう。ただ、その制度を悪用して「有名レビュアーをお店に連れて行く」というPR代理店が生まれてしまっています。
病院のクチコミでもPR代理店営業
さらに、医療機関のクチコミも社会問題になりつつあります。グーグルマップのクチコミを使ったもので、2021年8月に読売新聞が報道したことから注目されました。
グーグルで医療機関などを検索すると、地図や営業時間がまとめられた一覧表示が出ます。この一覧表示は「グーグルナレッジパネル」と呼ばれるもので、グーグルが集めた情報を表示するもの。つまりナレッジパネルは、医療機関やお店にとってはユーザーに一番見られる重要な情報だということです。
このパネルの下部には「クチコミ」があります。ユーザーが★5個の評価・コメント・写真投稿ができるもので、このクチコミの対策をしますよというPR代理店が存在しているのです。「悪評のクチコミを消します」「評価の点数を上げます」などの営業をしており、グーグル上にも広告を出しています。
実際にはクチコミのコントロールはできませんから、悪徳代理店が第三者のふりをして悪評を書いてから、「消しますよ」と営業をかけています。または悪評を消すために、登録データを一度消してから作り直すなどの方法を使っているようです。いずれもグーグルの規約に反した行為です。
医療機関のクチコミは、健康や命を扱うだけに重要です。そのクチコミが代理店によって操作されているのは深刻な問題だと言えるでしょう。グーグルマップの情報は、今や誰もが使う公共的な存在ですから、グーグルがやらせ対策にしっかり取り組む必要があります。
○深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本
今回の記事は、テレビ・ラジオなどさまざまなメディアでニュースを解説してきたITジャーナリストの三上洋氏の著書「深掘り! IT時事ニュース──読み方・基本が面白いほどよくわかる本」(技術評論社刊、1,870円、発売中)から取り上げました。ワイドショーなどでもすっかりおなじみとなったIT時事ニュース。しかし、日々のニュースに関連するIT技術は進展が目まぐるしく、なんだかよくわからない、ついていけないと感じている人も多いのではないでしょうか。