横浜国立大学(横国大)、名古屋工業大学(名工大)、島根大学、科学技術振興機構(JST)の4者は8月27日、ナノ構造を高度に制御した「リチウムマンガン酸化物正極材料「LiMnO2」を開発し、同材料がレアメタルのコバルト・ニッケルフリーでありながら、高エネルギー密度・長寿命の電池正極材料となることを発見。商用的規模で大量生産が可能な技術を利用し、材料の比表面積とナノ構造を高度に制御する方法論を確立することで、既存のニッケル系層状材料に匹敵するエネルギー密度をマンガン系材料で達成可能であることを立証したと共同で発表した。


また、急速充電も可能な材料であり、リチウムイオン蓄電池と電気自動車の高性能化・低コスト化の両立実現につながる技術であることも併せて発表された。

同成果は、横国大大学院 工学研究院の藪内直明教授、名工大 生命・応用化学類の中山将伸教授、島根大 材料エネルギー学部 材料エネルギー学科の尾原幸治教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学に関連する分野全般を幅広く扱う学際的な学術誌「ACS Central Science」に掲載された。

電気自動車(EV)の1回の充電での航続距離の延長と、車両の低価格化を実現するため、リチウムイオン電池(LIB)のさらなる高エネルギー密度化などの高性能化と低コスト化の両立が求められている。現在市販されているEVの多くでは、少量のコバルトを含むニッケル系層状酸化物が正極材料として広く用いられている。ニッケルがレアメタルであることを踏まえると、LIBにニッケル系材料を使っている限り、これ以上の低価格化を実現するのは難しいという。

そうした中、EVの販売台数が急増している中国では、エネルギー密度がニッケル系層状酸化物と比較して低いが、より低価格な鉄系材料が電池正極材料として広く採用されており、欧州でも市場の拡大が進んでいる。そこで研究チームは今回、コバルト・ニッケルフリーの構成でありながら、従来のニッケル系層状材料と同程度のエネルギー密度の正極材料の開発を試みることにしたとする。

今回の研究では、鉄と同様に資源埋蔵量が豊富で安価なマンガンを利用し、さらに独自開発のナノ構造を高度に制御することで、コバルト・ニッケルフリーの構成でありながら、従来のニッケル系層状材料と同程度の800Whkg-1程度のエネルギー密度のリチウムマンガン酸化物正極材料「LiMnO2」の開発に成功したという。

また材料の合成手法にも、商用的な規模での大量生産が可能な、一般的な無機材料の合成として広く工業的に利用されている「固相焼成法」が用いられており、材料を低コストで大量合成することもできるとした。さらに、EV用途では急速充電も求められるが、ニッケル系材料と比較しても遜色の無い急速充電特性(約10分で8割程度再充電が可能)が達成されており、電池材料としての実用性は非常に高いといえるとした。

横国大の藪内教授らの研究チームは、種々のLiMnO2の「結晶多形」(化学組成は同一だが、結晶構造が異なる)の合成を実施。
そして、結晶構造や充放電時の相変化挙動、材料の比表面積とエネルギー密度の相関関係の詳細な解析が行われた結果、複合的ドメイン構造を有し、さらに、比表面積の大きな試料を合成することで、優れた電極特性を持った材料となることが突き止められたという。また名工大の中山教授らは、これら材料の相変化挙動に影響する因子を理論的に解析。島根大の尾原教授らは、熱力学的に最も安定な直方晶のLiMnO2と、熱力学的に準安定な単斜晶のLiMnO2の複合的ドメインを有する材料の特徴的なナノ構造の解析を行ったとした。

研究チームはこれまでの研究により、高濃度のフッ素を含有させたリチウム過剰型マンガン系酸フッ化物「Li2MnO1.5F1.5」により、コバルト・ニッケルフリーの構成でニッケル系材料と同様の高エネルギー密度化が可能であることを報告していた。しかし、Li2MnO1.5F1.5は材料の合成手法が複雑であり、大量生産の実現が課題だったという。それに対し、今回の材料は合成手法も簡便であり、低コストで大量生産も可能なことが大きなメリットとした。

また、鉄系材料は炭素被覆を必要とすることが、材料合成コストの上昇と低い体積充填率につながっていることが課題だった。それに対し、マンガン系材料では炭素被覆の必要がないため、今後の研究の進展により、鉄系材料以下のコストで、高エネルギー密度を有するLIBの実用化が期待できるという。このような低コスト・高エネルギー密度のLIBはEVの低価格化の実現と、普及価格帯の高性能EVの誕生につながることが期待できるとしている。
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