Discordは、テキストチャット、ボイスチャット、ビデオチャット、メッセージなど、多様なコミュニケーションができるサービス。
日本でも同様で、若者に人気があります。Z世代への調査では、Discordの利用率が16.3%と、Instagram、X、TikTokに次いで4位に入っています(2023年サイバーエージェント調べ)。
Discordは、ゲームコミュニティやオンラインゲーム中のボイスチャットに使われることが多いのですが、今では推し活仲間と情報を交換したり、自宅から学校の友人と雑談したり、といった使われ方もしています。
先日、「子どもが知らないうちにDiscordというアプリを使っていたが安全なのか」と保護者の方から相談を受けました。大人にとってはあまりなじみがないサービスだからこそ、不安になることもあるでしょう。
そこで、Discordの青少年保護の考え方や取り組みについて、Discordのポリシー担当・シニアディレクターであるサバンナ・バダリッチ(Savannah Badalich)氏にお話を伺いました。サバンナ・バダリッチ氏は、Discordのコンテンツおよびプロダクト・ポリシーを担当するチームを率いており、「ティーン・セーフティ・アシスト」の執筆者でもあります。前職はTwitterで、トラスト&セーフティ分野のシニアプロダクト・トラストパートナーを務めていたそうです。
10代の自主性を尊重しながら安全な環境を作る
Discordは、10代が安全にプラットフォームを利用できるように、さまざまな取り組みを行っています。2023年7月には、保護者が子どもとのつながりを保つためのツール「ファミリーセンター」(ペアレンタルコントロール機能)を導入し、同年10月には「ティーン・セーフティ・アシスト」として、未成年者が初めての相手から受け取るDMにアラートを出したり、過激なメディアにぼかし処理をするなどの機能を取り入れています。
Discordが青少年保護に力を入れている理由について、バダリッチ氏に尋ねました。
「未成年者を危険にさらすようなコンテンツや活動は、Discordにもインターネット全体にも存在するべきではありません。私たちは、プラットフォーマーにはユーザーの安全を保つ責任があると考えています。だからこそ、安全性は私たちの最優先事項であり、製品やポリシーのすべての側面に組み込まれています。これが、新しい安全機能やポリシーを継続的に導入する理由のひとつです」
10代はリアルの世界でもオンラインの世界でも、自分の興味を探求し、限界に挑戦し、新しい友達を作る経験を積み重ねているとバダリッチ氏は話します。彼らの自主性やプライバシーを重んじ、サポートするためのプラットフォームを提供することが重要だと考えているそうです。
その姿勢は、Discordが2024年8月9日に発表した「ティーンのための手引き」にある「未成年のユーザーのための憲章」という言葉にも表れています。
「ティーンのための手引き」とは、コミュニティガイドラインとは異なり、10代がプラットフォームで楽しく過ごすために共有責任があるということを示すためのもの。「未成年のユーザーのための憲章」には、すべての10代がコミュニティを探して安全なスペースに自分たちで参加する権利を持っていること、ユーザーはお互いにプライバシーを保護し合う責任があること、自分の考えや意見を表現できることと同様に他のユーザーの表現を妨げないこと、Discordの詳細を知る権利があることなどが記載されています。
Discordは、10代が安心して楽しめるプラットフォーム作りのために、Discordが世界中で30のフォーカスグループ(情報収集のためのグループ)を実施して10代のユーザーから話を聞き、彼らのニーズに応える機能の開発に役立てています。また、ユーザー以外に、10代の安全に特化した国際的な団体とも連携しています。
Discordは、一般的なSNSのように同じ場で交流するのではなく、「サーバー」と呼ばれるスペースに参加して交流します。
「サーバーを安全に保つためには、サーバーの運営者の方が自分自身とメンバーを安全に保つ意識を持っていただくことが重要だと考えています。これは未成年の方に限られた話ではありません。『セーフティセンター』では、サーバーのモデレーターとしての心構えや、24時間体制でサーバーを管理できる『AutoMod』などの活用について紹介しています。こうしたリソースを活用して、サーバーのコミュニティと協力しながら安全なサーバー運営をしてもらいたいと思っていますし、またそれをDiscordとしてサポートします」(バダリッチ氏)。
バダリッチ氏が青少年におすすめする機能は、共同ホワイトボードアプリ「Jamspace」。Discord内で音声チャネルやダイレクトメッセージの通話中に直接起動できるアクティビティです。デジタルホワイトボードを使って、クラスメイトや友達と協力して学習できます。こちらの「Discordで勉強や交流ができる学生向けベストアプリ」を参考にしてください。学習サーバーでプロジェクトに取り組んだあとは、友達とゲームを楽しむなど、Discord上で多様な交流ができます。
「保護者向けガイド」を話し合いのきっかけに
子どもがDiscordを使いたいと言ったとき、保護者は何から始めたらいいのでしょうか。
「お子さんがDiscordを使っている保護者の方には、ぜひ親子でDiscordについての会話をすることから始めてはいかがでしょうか」とバダリッチ氏は話します。
「Discordでは、10代のユーザーとオンラインでの行動について会話をするときは、好奇心を軸に話を進めることが最も有効だと考えています。2024年8月9日に公開した『保護者向けガイド』の中で、会話のきっかけとしてお使いいただける質問案をご紹介しております。例えば『Discordはどんな使い方ができるの?』であったり、『あなたが参加している中で一番楽しいコミュニティはどんなところ?』といった形で質問をすることで、興味を持っていることを姿勢で示していただけると、お子さんとDiscordとのかかわり方を共有してもらえやすくなります」(バダリッチ氏)。
「保護者向けガイド」は「Discord保護者HUB」に掲載されまています。Discordの機能や用語紹介、安全への取り組み、ファミリーセンター(ペアレンタルコントロール)の紹介、安全のための設定などが掲載されています。日本語でもダウンロードできます。
また、保護者も一度Discordを使ってみることがおすすめだそうです。自分で使ってみれば、我が子に必要な見守りがより明確になると思います。話し合いの前に自分で使ってみて、どんなプラットフォームか知っておくと、具体的な話し合いができそうですね。
子どもを見守る機能は、子どもからは「監視」と捉えられることもあります。一方の大人も「プライバシーを尊重しなければ」と悩むもの。そこで、Discordのファミリーセンターは、10代のプライバシーを守りつつ、10代のオンラインでの行動を見守れる仕組みになっています。
ファミリーセンターでは、保護者は子どものメッセージの内容を見ることはできません。メッセージや通話をしたユーザーのユーザー名や時刻、最近追加したフレンド、参加したことのあるサーバーのサーバー名やメンバー数などが保護者に共有されます。
ファミリーセンターは「家族間で対話を始める手段」という考えから生まれているのだそう。オンラインで完結するのではなく、子どもの活動を大まかに把握して、問題があるようなら親子で対話をします。リアルな親子の交流を重視している姿勢は好感が持てます。
「私たちの究極の目標は、10代がDiscordを使用する際に健康的なインターネット習慣と自立を築けるようにサポートすること。そして、保護者が素早く手ほどきやサポートを行える手段を提供することです」(バダリッチ氏)。
プラットフォームの安心安全はテクノロジーと人的チェックで守る
ネットには、10代にふさわしくないコンテンツだけでなく、誤情報や生成AIによるディープフェイクも蔓延するようになりました。Discordは10代の安全を守るために、「ティーン・セーフティ・アシスト」や「警告システム」など、多面的なアプローチをしています。
「コミュニティガイドラインに違反する活動をブロックするために、先進的な技術(機械学習モデルやPhotoDNA画像ハッシングなど)を使用したプロアクティブな手法と、コミュニティモデレーターを支援し、ポリシーを守るためのツールを提供するリアクティブな手法を組み合わせています」と、バダリッチ氏はテクノロジーによるチェックと人的チェックを行っていることを説明します。
AI生成コンテンツに関しても、既存のコミュニティガイドライン、利用規約、プライバシーポリシーに則り、厳しくチェックしているそう。違反するコンテンツを発見した場合、セーフティチームが精査し、アカウントの停止やサーバーのシャットダウン、そして必要な場合には関係当局と連携して対策を行うとのことです。
最後に、バダリッチ氏に「Discordを青少年にどのように活用してほしいか」を聞きました。
「Discordは、人々が好きなゲームをプレイしながら集まって話すための最高のコミュニケーションツールとなることを願って開発されました。そして現在も、活気のあるユーザーの皆さんやゲームコミュニティにとって、さらに過ごしやすい健全な環境を維持できるよう、多くの時間とリソースを投資し続けています。10代とその保護者の皆さんにDiscordで楽しい時間を過ごしていただけるよう、これからもDiscordは全力で支援していきます」
著者 : 鈴木朋子 すずきともこ ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。スマホやSNSなど、身近なITサービス全般に関する記事を執筆。なかでもSNSに関しては、コンシューマーからビジネスまで広く取材を行い、最新トレンドを知るジャーナリストとして定評がある。また、安全なIT活用をサポートするスマホ安全アドバイザーとして記事執筆や講演も行う。著書は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)、『インターネットサバイバル 全3巻』(日本図書センター)など。 この著者の記事一覧はこちら