経済活動に影響するレベルの災害が発生したとき、政府から「被災中小企業・小規模事業者支援措置を行います」というアナウンスが流れます。最も詳細で正確な情報は経済産業省のニュースリリースを読むことで得られるので、企業の財務担当者は経済産業省Webサイト内をニュースリリース欄へと進み『中小企業・地域経済産業カテゴリー一覧』をブックマークしておくことをお薦めします。例えば「特別相談窓口の設置」「災害復旧貸付の実施」「セーフティネット保証4号の適用」「既往債務の返済条件緩和等の対応」「小規模企業共済災害時貸付の適用」といった情報をいち早く入手することができます。
特に、セーフティネット保証4号については「近日中に官報にて地域の指定を告示する予定ですが、信用保証協会においてセーフティネット保証4号の事前相談を開始します」と公式に案内があるので、経済産業大臣の指定をはじめとした行政の正式な手続きを待たずに資金繰りを改善するための初動を起こすことが可能です。事前相談では借入余力・セーフティネット保証4号の認定を受けるための詳細な条件・正式申込までに準備する書類を確認するようにしましょう。
激甚災害として指定された場合は、一般保証及びセーフティネット保証とは別枠の信用保証「災害関係保証」を利用できる特例措置が講じられます。災害関連保証は借入債務の額の100%を保証する、いわゆる責任共有制度の対象外となります。日本政策金融公庫による災害復旧貸付の金利引下げ措置は、国民生活事業と中小企業事業の双方で準備されます。直近の事例は経済産業省のWebサイトに掲載されているので、限度額や金利水準を知りたい場合は参照してください。
国レベルで用意される資金繰り支援策の内容は経済産業省・中小企業庁のWebサイトを見て知ることができますが、都道府県単位・市区町村単位・信用保証協会単位でも独自の支援策が提供されることがあります。国の制度よりも有利な条件で融資を受けられることもあるので、本店登記している地方自治体の制度融資の情報がどこに掲載されているのか、日頃からチェックするようにしましょう。
自らが被災者となったとき、平時なら難なく調べられる情報へ辿り着けなくなる可能性が想定されます。情報収集方法を多重化する意味でも、プッシュ通知で情報が届くように予め備えることが重要です。X(旧twitter)で中小企業庁のアカウント(@meti_chusho)をフォローすれば、経済産業省のニュースリリースと同じタイミングで情報を得られるので重宝します。
過去の経験から、災害時に政府の資金繰り支援を迅速に受けるためには、無借金経営よりも融資残高がある場合の方が有利だと判明しています。新規取引先の融資審査は既存取引先よりも長期化するからです。また、コロナ禍では日本政策金融公庫の融資先・商工組合中央金庫もしくは日本政策投資銀行の融資先・民間金融機関の融資先の3パターンについて融資のプランが用意されました。3種類の金融機関から融資を受けて残高がある状態を保つことが、万一の際に資金繰り支援の政策パッケージをフル活用するための事前準備だと言えます。
融資に関して「借りられるときに借りられるだけ借りた方がよい」という主張をよく耳にしますが、借入余力がない状態を作り出すと非常時に有利な条件の融資を取りこぼす可能性が高まります。金融機関側の営業目標の達成状況や景気に対応した政策の後押しなどステークホルダーの多様な事情を加味した結果、標準的な金額を超えて融資を受けられる場面があることは事実ですが、目一杯融資残高を膨らませていると災害時に緊急対策が利用できないこともあり得るので注意が必要です。
セーフティネット保証の概要については本連載の第14回と第18回の記事で触れております。
非常時への備えを織り込んだ上で金融機関と付き合う方法については旧連載の第48回を併せてお読みいただけると幸いです。
災害発生時の融資に関する情報の整理は以上です。次回は、金融機関へ自粛が要請されていた歩積両建預金(拘束性預金)について、大蔵省銀行局通達を参照しながら説明します。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら
千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら